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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
二章 激突!武田vs徳川 三方ヶ原の戦い
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86赤備えの休息、しかし……。(カケルのターン)

 総大将の武田信玄から直接、二俣城の攻略命令を受けた山県昌景やまがたまさかげは、二俣城攻略の軍議に入った。この、軍議は、目の前で二俣城に手を焼く武田勝頼と高名を争う、いや、出し抜く攻略作戦だ。もちろん、勝頼には報告、連絡、相談はしない。昌景の知略を尽くして高名を立てる戦いだ。


 勝頼が、力攻めで攻略するのが先か、はたまた、山県昌景が先か、

(オレは勝頼公の好敵手ライバル、憎まれ役を仰せつかったな)


 二俣城を見下ろす丘の上に登った山県昌景は、口元のチョビ髭を撫でながらそんなことを思った。


(しかし、この城は一月ばかり包囲しておるのに、一向に士気が衰えぬ。確かに、青木とか申す副将が、獅子奮迅の活躍を見せておるとはいえど、そう、つづくわけなどない。なぜじゃ……これは、すこし、探って見ておくか……)


「左近をこれへ」


 山県昌景は左近を呼びつけた。


「なに、山県のオジサン?」


「うむ、左近、耳を貸せ」


「え~、やだよ。山県のオジサン、オレに必ずムチャぶりすんだから」


 カケルの側にいた、山県虎が口を挟む。


「これ、左近、父上になんたる口の聞きよう。おのれ手打ちにしてくれる!」


 と、女だてらに山県虎は刀の束に手を掛けた。


「虎、構わぬ。ワシは、左近に用がある。そなたは、脇に控えておれ」


 山県昌景は、コソコソと、カケルに耳打ちした。


「え! マジっすか!! 今回はそんな簡単なお使いでいいんすか?!」


「そうじゃ、左近よ。先の奥三河の山家三方衆と、井伊谷攻略では、お主の働き見事であったによってな、先鋒隊にしばしの休養を申しつける」


「休養?!」


 山県虎が父、昌景の言葉に血相変えて噛みついた。


「父上、此度の二俣城攻めに我ら先鋒衆は必要ないとの仰せにございますか?」


 アホのカケルが、手と首を振って、


「いやいやいや、お虎さん、山県のオジサンは、最近忙しかったから、温泉にでも浸かって一か月ほど休養してこいってさ、ラッキーだね」


「バカ者、戦を前にして、休養を仰せつかって喜ぶバカ者があるか! 戦場で手柄を競うのが武士、それをやすやすと撤退を命じられて喜ぶなど、左近、お主は底抜けのド阿呆じゃ!」


 虎の激怒を涼しい顔で聞いた、山県昌景は、虎を手招きして、耳打ちした。


 ウンウン頷く、虎。父娘揃って、左近へ向かって悪い顔を向けて笑う。


「父上、かしこまりました。お任せ下さい。すぐさま、ココを立ち先鋒隊皆で温泉へ行くぞ!」


 カケルは、お虎の豹変ぶりに面食らって、


「ええ、なに? なに! さっきまでめっちゃ怒っとったやん、山県のオジサンからなにを聞いたの?」


「うるさい左近よ。ほら、行くぞ!」


 たじろぐカケルの手を強引に引いて、山県虎は山家三方衆以下、先鋒衆を引き連れ陣を下がった。




 ――二俣川上流の河原。


 川の一角に石を積み囲いを作って、湧き上がる温泉をため込み作った露天風呂へ浸かる左近隊の面々。


 手拭を水に浸して、腕の垢を拭う菅沼大膳すがぬまだいぜんが、


「ふは~、仕事の後の温泉は最高にござるな左近殿」


「山県のオジサンの話、絶対ちがうよね~これじゃあ、オレたち朝から晩まで働く木こりだよ」


「いやいや、左近殿。これも、きっと、山県殿の深い権謀術策にござる。ワシはやりがいを感じておりますぞ。のう、父上」


 息子、大膳に話を振られた父、定忠さだただが応じる。


「いかにも、武骨な我らにはその権謀術策は図りかねるが、山県殿のことワシらがこうして木を切るのはきっとなにか裏がある、楽しみにござる」


 そこへ、細身の体躯の奥平定能おくだいらさだかず信昌のぶまさ親子が温泉の隅っこへ入ってくる。


「おお、策士の奥平殿なら、ワシらに、木を伐採させる山県殿の思惑が分かるやも知れぬ。教えて下されや」


 と、菅沼大膳が話を振った。


「知ってても教えてやらぬわ、この猪武者どもめ! お主らのような戦バカなら、木こり仕事もたやすかろうが、ワシら親子は、戦より内政、後方支援を得意とする”頭”を使う吏僚りりょうが本分、なにが悲しゅうて、力仕事なぞバカな仕事をせねばならぬか」


 定能の明けすけな言葉に、大膳が目を向いて、


「バカとはなんじゃバカとは!」


 立ち上がって、掴みかからんばかり、


「父の言葉が過ぎてすみませぬ」


 と、奥平信昌が間に割って入る。



 と、そこへ、長篠の菅沼家当主、菅沼昌貞すがぬままささだが、ピチャンと、水面に爪先を浸けたかと思うと「熱い」と言い残して去ろうとしたのを、後から来た、大叔父の菅沼満直すがぬまみつなおが「なりませぬぞ」と、目と首で勝手をせぬよう押しとどめた。


 仕方なく、菅沼昌貞も温泉に浸かった。


「おお、長篠の昌貞に、満直殿、お主たちは、山県殿がワシらに木こりの真似をさせる意図がわかりもうそうや?」


 菅沼定忠が訪ねた。話を振られた昌貞は、俯いて返事に窮している。それを見かねた大叔父の満直が助け舟を出す。


「山県殿の策は、図りかねるが、噂では、二俣城には井戸がないと聞き及んでいる。おそらく、その辺に目星をつけられたにござろう」


「え~、だから。二俣城の人はお風呂に入りにここへ来るんだね?」


「そこではござらぬ」×6


 カケルの話の読解力の無さに、山家三方衆全員がツッコんだ。




 そろり、そろりと、カケル目指して、水面から突き出た竹筒が近づいて来る。


「なんだ、これは?」


 カケルは、近づいてきた竹筒の先を掌で押さえた。


「ぶわっぺら!」


 水面から、竹筒を口に咥えた武田忍の加藤段蔵かとうだんぞうこと、通称、鳶加藤とびかとうが飛び上がった。


「やあ、鳶加藤さん」


「ワシの存在に気がつくとは、左近殿、腕を上げられましたな」


「いや、水面に竹筒が浮かんでるから、なんだろうと先を押さえて見たの」


「その、観察力やヨシ!」


「そいや、二俣城に井戸がないことと、ここでオレたちが温泉に入ることに何の関係があるかわかる?」


「それは、簡単な推理にござる。答えをワシから聞くより、(少し離れた河原の同じく温泉を指差して)あちらにおわす山県虎様に、後で、お尋ねあれ」


「なに?!」×7


「しかし、覗きは遠慮された方がようござる。あちらの風呂には、手裏剣をもった望月千代女もちずきちよじょもございますれば、ほぼ確実に、命がけの覗きになりますな。フハハハハハ~」





 つづく















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