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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
二章 激突!武田vs徳川 三方ヶ原の戦い
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81松永久秀の襲撃! 蜜虎の最期(佐近のターン)

 信貴山に広がる朝護孫子寺の毘沙門天を祭る本堂へ登る途中にある虚空蔵堂で、この日、蜜虎大僧正を中心に、領主、松永久秀も訪れ、施餓鬼供養が行われる。


 この虚空蔵堂とは、弘法大師・空海が青年時代修行した場所だ。祀られる虚空蔵菩薩は、宇宙全体に満ちている仏様の無量無尽むりょうむじんの知恵や功徳を蔵する菩薩だ。よって、現代では入試合格、学業成就に霊験あらたかである。(http://www.sigisan.or.jp から引用)


 松永久秀は、先祖供養、無縁仏の供養に意味を成す、この施餓鬼供養によって、自己おのれが、命のない将棋のコマのように、使って死なせた死兵の魂を弔うのだ。


 そんな、自己の都合で死兵の命を犠牲にしておいて、自己の心の救いを都合よく願って、供養までするくらいなら、初めから死兵など使うな! と、おっしゃる読者もあろうが、時代は下剋上の戦国、非情にならなければ、明日は、戦場に自己の死体が横たわることになる非情の時代だ。


 松永久秀は、戦場での冷酷非情な人格と、戦場を離れると、誰より聖人君子の二面性でこの時代を戦い、心のバランスを取っているのであろう。



 早朝から、左近と共に、身を清めた蜜虎大僧正は、法衣を纏い、虚空蔵堂へ入った。


 蜜虎大僧正は、食事も水も取らずに、その霞んだ瞳で、六〇〇巻からなる大般若経を、バサリと、開いて一心不乱に、そら(何もみないで暗記している様)で読経する。


 左近は作務衣を着て、寺の下男に身をやつして、施餓鬼供養の客の出入りを朝から手伝っている。


 左近は、客を虚空蔵堂へ、案内する折に伺い見る、蜜虎大僧正の読経する姿に、まるで、御神体の毘沙門天王が乗り移ったかのように思う。


 その雄姿は、毘沙門天の如く、背中に日輪を背負い、鬼の形相で甲冑を身にまとい、右手に三昧耶形の宝棒を、左手には宝塔を携え、足元に邪鬼を踏みつけ懲らしめる、戦神、毘沙門天王そのものだ。


「大般若波羅蜜多……」


 蜜虎大僧正を筆頭に、一門総出で、扇子のように、大般若経をひろげ、読経を虚空堂に響かせる。




 左近は、幼き頃、勉学にこの寺に、この蜜虎大僧正にあずけられた。


 清廉な蜜虎と寝食を共にした日々は、成長した左近にしても忘れられないものだ。


 この蜜虎の人格と生きざま全てが、左近の土台なのだ。






さるの刻でございます。そろそろ、松永弾正久秀様、御成りでございます」


 と、小僧が囁きあっている。


 左近は、姿かたちこそ、現代の高校生、中肉中背、すべてが、標準体型の時生カケル青年であるが、その内に秘めた魂は、あの関ケ原の戦いで、徳川家康を追い詰めた嶋左近である。


 大和興福寺の門徒宗を率いる筒井氏に、仕えていた頃の、最大のライバルが今からやってくる松永久秀だ。


 謀略術数を得意とする久秀との戦いの日々が、左近の頭脳を磨き、慧眼を開かせ、後の石田三成へのスカウトにつながる――。


(いよいよか……)




 山門を松永弾正久秀が登って来た。


 しかし、その姿は、施餓鬼供養で、仏へ帰依し先祖、無縁仏を弔う姿ではない。


 それは、槍を携え、甲冑を身にまとう、戦支度。


「どういうつもりでございますか、松永様」


「どういうつもりだと?! 見て分からぬか、ならば教えてやろう」


 そういうと、松永久秀は、出迎えた門番の小僧を、携えた槍で突き殺した。


 赤い血を吸った槍を、携えてズンズン山門を登って来る松永久秀を、


「よくぞ、お越しになりました松永弾正様、裏切り者の蜜虎大僧正はあちらにございます」


 と、龍光りゅうこう権大僧正ごんだいそうじょうが出迎え、槍を構えた松永久秀を先導する。




「松永弾正が、ここへ攻め入って来たぞ! 」


 息を切らせて小僧が、山門を駆けあがって来た。


「松永久秀が、ここへ、攻め入るとは、どういうことだ?」


「詳しくは分からぬが、松永弾正の側には、龍光権大僧正がいる」


「なんだと?! 」



 シュ~!


 スパン!!


 左近が小僧に、経緯を尋ねようと言葉をつぐやいなや、小僧の背中に弓矢が突き立ち、そのまま、左近の胸に前のめりに倒れた。


「松永弾正の討ち入りだ! 皆の者、槍を持ち立ち向かうのじゃ!! 」


 寺の小僧が大声で叫ぶ。



 ズンズン兵を引き連れ山門を登って来る松永久秀。


(これは、蜜虎様が危ない! )


 左近は、次々に、放たれる弓矢を躱しながら、虚空蔵堂へ走った。



 虚空堂の蜜虎大僧正は、表の喧騒も、確かに、耳には入っているはずだ。


 しかし、蜜虎大僧正は、一切心を乱すことなく般若経の読経を続けている。


「蜜虎様、松永弾正が、こちらへ押し寄せておりまする」


 と、左近が、告げた。


「構わぬ」


「今すぐお逃げにならなければ、蜜虎様にも、災いが及ぶやも知れませぬ」


「構わぬ、捨て置け」


「しかし、それでは! 」


「左近、ワシは、命も捨てて仏門に使える身、自己の命などとうの昔に捨てて居る。構わぬ、そなたは逃げよ」


「しかし! 」


 蜜虎は、静かに首を振って、薄い瞳を左近へ向けて、


「行け、左近よ。さらばじゃ」


 と、告げると、門徒に命じて、左近を無理やりに連れ出し、虚空堂の表へ放り出し、ピタリと門を閉めた。


「松永弾正が、ここまで来たぞ、皆の者逃げるのじゃ! 」



 ヒュ~!


 ズバンッ!!


 左近の目の前を火矢が通過して、虚空堂の扉に刺さった。


 左近は、慌てて、火矢を引き抜き、必死で扉を叩く。


「蜜虎様、ここは危険です今すぐ逃げて下さい」


 ヒュ~ン!


 ヒュ~ン!!


 ヒュ~ン!!!


 次々に、火矢は虚空堂目掛けて飛んでくる。左近が、火矢を抜いても、抜いても、追いつかない。


 とうとう、虚空堂に火の手が上がった。


「蜜虎様~! 」


 やがて、虚空堂は炎に包まれ、松永久秀の兵がなだれ込んだ。


 信貴山には、左近の絶叫だけが木霊こだました――。




 つづく

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