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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
二章 激突!武田vs徳川 三方ヶ原の戦い
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75眠れぬ森の美女(現代、左近のターン)

「お父っさん、シカがあっちへ逃げたど~~」


 と、猟師の息子らしき子供の声がした。

 

(いかぬ、無用な殺生をしてはワシも松永久秀めと同じ地獄に落ちるわ。やはり、逃げるか……)


 左近は、森の奥へ奥へと、身を隠した。




 ――森。


 どれほど、森を歩いたであろうか、左近は、山狩りをするであろう松永久秀の追撃をかわすため山中深くへ入っていった。


 不思議な事に、いくら歩いても体は疲れない。

(やはりここがVRとか申す仮想現実の世界であるからか……)


 それでも、左近は、生きる習慣で、時間が来ればやはり腹が減るような気がする。


 人里離れた小川へ出た左近は、鎧を脱ぎ捨て、フンドシ一丁、川へ入った。


 仮想現実の世界であるのに川の水で体を洗った左近は、水もひんやり、汗も洗い流され心地いい。

(現実の世界と別段変わらぬようじゃ)


 しかし、左近が、一所へ佇んでいると、肩口から頭の横に、ゲームのプレイヤーキャラのステータスが表示される。

(やはり、仮想現実であるのだなあ)


 ”【カケル:レベル52】


 異名:疾風怒濤


 ジョブ:侍大将(赤備え)


 統率力:八八

 武 勇:九〇

 知 略:七四

 政 治:五八


 総 合:三一四”




 左近が川へ入って、竹を切って銛をつくり、魚を取って、河原で焼き魚にして食らっていると、向こう岸に、たらいに洗濯物を抱えた若い娘がやって来た。


 娘は、向こうから人懐っこく、


「お侍さま、水浴びにござりますか? 暑うございますからね」


 と、愛想よく向こうから話しかけて来る。

(うん?! この娘、先ほどから、こちらを向いて話しかけて来おるが、目の焦点が定まらぬようだ)


「娘御よ、お主、もしや眼病を患っておるのではないか? 」


 左近は思い切って尋ねてみた。


 娘は、黒目が薄い目を左近へ向けて、


「お侍様、左様にございます」


 と、頭を下げた。


「娘御、目が見えなくなったのはいつからだ? 」


「村が戦火に焼かれた時にございます。逃げ惑っているうちに炎で目が焼かれて次第に見えなくなりました」


「そうか、ならば、家族は? 」


「戦火の生き別れでございます。山ではぐれて、それから目の光を失ったもので、それからは、ここで一人でございます」


「目が見えぬのに良くワシのことに気が付いたな? 」


「目は見えぬというても、人の存在や、呼吸、ニオイはわかります。それに、目の光を失ったと申しても、顔かたちはハッキリとは見えませぬがボンヤリと人影は見えております」


「そうか、お主、苦労を重ねておるのだな」


「苦労だなんて、そうだ、お侍様、よろしければワタシの家に起こしになりませぬか、久しぶりに人に会ったのです。何もありませんが、雨風は凌げ、お口に合うのでしたら、温かい汁の物などございます」


「お主がそれでよいのなら、うむ、世話になろうか」



 ――娘のたずさ屋。


 誰が作ったのか知らぬが、川辺からほど近い森の一角に、娘のたずさ屋がある。


 娘は、人一人が食っていけるだけの小さな畑を作り、森で採ってきた、アケビ、クコ、ゼンマイ、タケノコ、ワラビなど山菜を育てている。


 娘の食い物はこれに、川魚が中心だ。


 娘が、魚を焼いて、汁物を煮込む間、左近は、庭で、風呂に使う薪を切っている。


「お侍様にそんなことまでしていただいて申し訳ありません」


「いやなに、構わぬこれぐらい。お主は、出来る範囲でもてなしてくれればそれでよい」



 その日、左近は、満点の星と月を見上げながら風呂に入った。


「月代は、今頃、どうしておろうか……」


 左近は、一息つくとそんなことを思った。


「お侍様……」


 夜になると、娘の目は暗闇になる。娘は、壁をたどりながら表へ左近を追って来た。


「おおムリをいたすな。お主は、家におって待っておればよい」


「そう申しましても、薪を炊べねば湯が冷めてしまいます」


「構わぬ。ムリをいたすな」


 左近は、この娘が好きだ。もちろん、愛だの恋だのの好きではない。人間として好感がもてるの好きだ。目を不自由になっても、人を疑わず、親切心をもって接する。とても、簡単にそうできるものではない。


 それから、左近は二、三日、娘の家で厄介になった。そのなかで、娘の不思議な行動が、左近は気になった。


 娘は、まるで左近が寝息を立てて、眠り込んでしまうと、必ず起き出して、小一時間ばかり外へ出てゆくのだ。


 始めは、厠かと思っていたが少し違う。今夜、左近は、娘の跡をつけて見た。


 娘は、目が不自由であるはずなのに、月明かりも届かない森の中へドンドン入って行く。


 森の奥のせせらぎまで来ると、なんと、娘は着物を脱ぎ去り裸になった。


 美しい姿だ。肩まで伸びた髪を水で洗い、細身のその肢体を川の水にさらす。しだいに、娘は金色に輝きを増す。


「ややっ! お主は!! 」


「左近殿、ワタシのこの姿を見たのですね?」


娘は、金色のシカになっていた。


「娘よ、どうして……」


「ワタシは、左近、あなたに命を救われました。これは、恩返しです」


「いやいや、ワシはあの時お主を助けたのは、自己が命を守るため、いわば気まぐれじゃ。お主が恩に報いる必要などありはしない」


「いいえ、左近、あなたは他の人間とは違う。ワタシたちシカは神に仕える身。あなたの行いには必ず報いるのでしょう。左近よ、何か望みがあるのなら申しなさい」


「そんな神に願う望みはない」


「なんでもいいのです。天下をおのれの者にするでも、好きな女をてにいれるでも構いません」


「いや、ない」


「それでは、ワタシの勤めが果たせません。左近、考えるのです」


左近は、腕を組み頭を捻った。


「うむ、ならば、松永久秀めに、攫われた月代殿はどこにおろうか? 」


金色のシカは、目を細め左近を見定めて、


「月代は、信貴山におる。今まさに、松永久秀の側室に上がるべく、娘支度をしているところじゃ」


「なに?! こうしてはおれぬ!! 」


「左近は、すぐさま、山を降りて、信貴山へ向かおうとした。


「待つのだ左近よ、お主、一人で向かっては、月代は救えぬ。仲間を待つのだ」


「仲間?! いや、ワシは、その仲間も危険な目に合わせとうない。行くなら一人で行く」


金色のシカは、目を細めて、「ならば」と、川の底を探るように口をつけた。


すると、金色のシカは、一本の刀を咥えて顔を上げて、左近に渡した。


「これは? 」


千子村正せんごむらまさじゃ。これをお主に授けよう」


左近は、刀を引き抜き、波紋を見た。


「これは素晴らしい剣じゃ」


「この剣は、いずれ、お主の運命を大きく動かすこととなろう」


「運命を動かす」


「お主の定めじゃ」


左近は、千子村正をカシンッ! と鞘へ納めた。


「これはありがたく頂戴いたす。しかし、ワシは月代を助けに行かねばならぬ。ここで、グズグズしてはおれん」


「左近よ、忠告しておく、仲間を信じるのじゃ」


左近は、金色のシカをシカッと「わかった」と見つめ、森を後にした。




つづく




 つづく



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