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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
二章 激突!武田vs徳川 三方ヶ原の戦い
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72カケルの辛抱(戦国、カケルのターン)

「ワタシは、嶋左近様と賭けがしたいのです」


 次郎法師は、付け家老の広瀬景房の直球の問いかけに、これまた、言葉のウソ偽りなく応えた。


「賭けだと?! 」


 景房は、左近と、虎が、言葉巧みに戦国を生き延びる井伊の女に、コロッと、口車に乗せられて、本来の目的を煙に巻かれやしないかと目を光らせている。


 左近は、のんびりした声で、


「おもしろそうだね、戦場で命のやり取りをするより、次郎法師さんと、賭けで決着をつける方がよっぽどいいや。よし、乗った!! 」


 カケルは、一言坂の戦いで、徳川家康を守るために身を投げうち、自己を盾にした子供の井伊虎松を槍で突いた手の感触が、夜、寝床にはいると初めてその手で人を殺める感覚が鮮明に押し寄せてくる。むしろ、人を殺すのを恐怖している。


(人を殺して城を奪うよりも、言葉で交渉してなんとかなれば、それが、一番いい)


 カケルの甘っちょろい考えを制するように、鋭い目で聞いていた山県虎が、口をはさむ。


「左近よ、次郎法師の言葉に乗ってはならんぞ。これは、きっと何か企みのある罠だ」


「ホホホ、これはこれは、さすがは武田四天王、山県昌景様が娘御、お虎様、この、次郎の浅はかな企みなどお見通しでございますな。わかりました、我らの目的をこうなっては包み隠さず申しましょう……」


 と、次郎法師が、言いよどんだ時、カケルが、


「いいよ、理由なんて。オレは、人を殺さない戦が出来ればそれでいいんだ。次郎法師さんもオレと同じ答えだろう?」


 次郎法師は、カケルの言葉に、ニッコリ微笑んで、


「嶋左近殿、左様にございます。ワタクシは、この井伊谷の者を誰、一人殺したくはない。ただ、その思いだけでここへ賭けに来ました」


「だよね、人殺しなんて、どーかしてるよ」


「おい、左近! 今は、乱世じゃ。お主のように甘っちょろい考えでは、敵に欺かれ、あべこべに我らが縛り上げられ殺されてしまうぞ!! 」


 と、虎が、左近を諭した。


「分かってるよそんなこと、オレだって、岩村城と、田峯城で、取っ捕まったよ。でもね、いくら乱世でも、人と人、魂と魂で、本音でぶつかったら分かり合えるんだ。オレは、次郎法師さんを信じるよ」


「バカか左近! ワタシは知らぬぞ!! 」


 そう言って、虎は、怒って、立ち上がって席を外した。


「お虎様! 」


 お守役の広瀬景房も、お虎の後を追った。



 部屋には、カケルと、次郎法師の二人きりになった。


 ズズズ。


 次郎法師は、カケルの膝と膝がピタリとくっつかんばかりに詰め寄た。


(うん?! 次郎法師さんからイイ香りがする。なんだろう……)


 そして、次郎法師は、カケルの手を取って、


「左近殿、ワタシを信じてくれてありがとう。それでは、お耳を拝借……」


 と、何やら耳打ちした。




 ――井伊谷。


 徳川家康の籠る浜松城と伊井谷がはさむ都田川を川沿いに下ってきた嶋左近の赤備え。井伊城と、目と鼻の先の井伊家の菩提寺、龍潭寺へ入った。


「よく、いらっしゃいました嶋左近殿、あとは、次郎の手筈通り、ここで、ゆるりとお休み下さりませ」


 と、龍潭寺に入った左近たちを、井伊家の縁者で住職の南渓和尚が出迎えた。



 太陽が南中に上がった。


 龍潭寺の本堂へ通された嶋左近隊のカケル、山県虎、付け家老の広瀬景房、戦目付の三科伝右衛門が入って寺からもてなしを受けている。


 景房が、眉をしかめて、


「左近殿、時刻は丑の刻になり申す。いくらなんでも、こんなに、我らを待たせるとは、井伊が降伏すると言うのは、たばかりだったのでは? 」


 カケルは、景房の進言に、がっちり腕を組んで答えた。


「いいや、次郎法師さんの言葉をオレは信じる。遅いのは、きっと、予定がずれてるだけかもしれないよ」


 つづいて、伝右衛門が、


「もしや、このまま、夜まで我らをここへ足止めしておいて、守るに弱いこの龍潭寺へ夜襲を仕掛ける腹積もりでは?!」


 カケルは、口をキリっと、真一文字に結んで、


「次郎法師さんは、元・井伊城の女城主と言っても、今は、お坊さんだから、そんな、人をあざむくようなことはしないよ」


 カケルのその言葉を聞いたお虎が、鼻でせせら笑って、


「左近よ、そんな、甘っちょろい考えの女はいないよ、女はもっと現実的だ」


 お虎の言葉を聞いて、カケルの決心が鈍りかけた時、サッと、障子が開いて、茶菓子をもった南渓和尚と、小僧が現れた。


「ささ、茶菓子を用意しましたからな、もうしばしのご辛抱を」


 カケルは、運ばれて来た茶菓子を一つ摘まんで、いきなり、口に放り込んだ。


「これは? 」


 南渓和尚は、ニカっと笑って、


「”みそまん”にございます」


「みそまん? 」


「左様にございます。味噌饅頭みそまんじゅうにございます」


「味噌饅頭? 」


「食べると、甘いのは黒糖にございます。ほんのりと八丁味噌のこうばしい香りがいたすでしょう。それが、隠し味にございます」


 カケルは、甘いものに目がない。みそまんが、南渓和尚の謀で、毒が盛られているやも知れぬと、手を出しそびれているお虎と、景房、伝右衛門の前のみそまんも、


「食わないなら、オレがもらうよ」


 と、引っ掴んで食らい始めた。


 それを見た南渓和尚は、心中で、


(こやつ、嶋左近とか申す若造は、おもしろき男であるな。もしやすると武田四天王とうたわれる山県昌景が見込んだ漢だ、中々の大器やも知れぬ。侮れぬな……)



「おっ!伊井谷城で狼煙が上がったぞ」


 本堂の障子の向こうから足軽たちの声が聞えて来た。


「来たか! 左近殿!! 」


 戦目付の三科伝右衛門が膝を叩いて立ち上がった。


 カケルは、みそまんを口いっぱいに放り込み立ち上がると、


「よし、時は来た。いざ、伊井谷城攻めじゃ! 」


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