71炎からの脱出!(現代、左近のターン)
松永久秀の策で、油桶を担いだ死兵に取り囲まれた嶋左近は絶体絶命のピンチだ。
さらに、久秀は、後方支援のジョブしか持たない椿井城に籠る女たちに兵を差し向けた。
――椿井城。
「リーゼルちゃん、こんな野蛮な戦いスグにやめさせて! 」
と、月代が、リーゼルに訴えかける。
「ワタシには、この戦場を強制終了させる力はないわ。わかっていることは、この戦いに勝たないと私達はこの世界から消えてしまうかもしれないってこと」
「消えるって、これは、ゲームでしょう。どうにかすれば強制終了できるはずでしょう」
「それは、ムリね。このVR戦場を、この平群の椿井城の一角ごと空間転移できる国家規模の未知のテクノロジーだから、ワタシの使える技術では、ジョブチェンジで抗い、戦場で勝利すること以外で脱出する方法は思いつかないわ」
「わかった。もう、リーゼルちゃんには頼まない」
と、言った、月代は矢倉をスルスルと降りた。
「月代、どこへ行くの、あなたは貴重な回復系、持ち場へもどって、左近のダメージを回復してちょうだい」
「こんな、野蛮な戦いなんてワタシは納得いかない。相手の偉い人に直接会って話し合いで解決してくる」
と、月代は勝手に城門を開けて飛び出して行った。
「なんて、平和ボケした行動を……」
――戦場。
左近を取り囲むように死兵は油をまいて取り囲む。そこへ、松永久秀に、体ごと火をつけられた死兵が、油だまりに倒れこんだ。
炎は、油溜まりを走り、一気に馬上の左近の背丈を越えて包み込む。
それを見た、松永久秀は、
「これで、厄介者はかたづいた。それ、一気に椿井城を飲み込め!! 」
と、采配を振るった。
そこへ、伝令が走りこむ。
「殿に目通り願いたいと申す、城中から飛び出して来た娘を捕らえました」
「城中から娘?! これは使えるやもしれぬ。城攻め、しばし待て! 前線の武者を倒したのだ、急ぐ必要もなかろう。その娘に会うてみよう。それ、ここへ、通せ! 」
すると、抵抗できないように縛り上げられた月代が、帷幕へ連れてこらた。
月代を一目見た松永久秀は、采配を息子の久通にあずけ、かわりに、ムチのようにシナる和鞭を受け取った。
久秀は、シュっと、和鞭で、月代の顔を確かめるように顎を上げさせた。
「ほう、なかなかの器量じゃ。殺すには惜しいのう」
月代は、強い意志を示して、
「ワタシは、あなたと話いに来ました」
「ほう、ワシと話し合いとな」
「はい、こんな残酷で無意味な戦いなんかやめてください! 」
「戦いをやめよと申すのか? おもしろいことを言う、娘じゃワハハハハ」
月代は、クソまじめにキッパリと、
「笑いごとじゃありません! そもそもワタシたちがあなたに戦を仕掛けられる意味がわかりません! 」
「戦の意味か? それは、知れたこと。奪いたいから奪うのじゃ」
月代は、首を振って、
「それじゃ、理由になりません。たとえば、ワタシたちが、あなたに危害を加えましたか? 」
「いいや」
と、久秀は、静かに首を振る。
「ワタシたちが、この場所にいることが、問題なら、今すぐ、ここを離れます」
「それも、違う」
「だったら、何が問題なんですか! 」
「ククク……」
「なにが可笑しいんです! まじめに、聞いてください!! 」
久秀は、不敵に笑って、
「理由は、今、出来た」
「理由が、今出来たって、そんな無責任な」
「よく聞け、理由はな……」
と、和鞭で、月代の上体を起こす。
気丈に、月代は聞き返した。
「理由は? 」
久秀は、不敵に笑って、
「おまえを奪うことじゃ。この娘を、我が城へ連れていけ! 」
駕籠に無理やり押し込められようとする月代は、この久秀の不条理な理論に、暴れて抵抗する。
「そんな、ムチャクチャな話、納得いかない! 」
久秀は、月代の繰り出す言葉は相手にせず、すぐさま雑兵に指示を飛ばし、月代を戦利品として駕籠に乗せて連れ去った。
さらに、久秀は、今度は椿井城を睨んで、和鞭を差し向けた。
「さあ、皆の者、総攻めじゃ! 城に女がおれば乱取りにして構わん。一気に城を落とすのじゃ!! 」
――炎に囲まれた左近。
馬上の左近へ、火の手が迫って来た。
左近は、時折、ゾンビみたいに飛びついてくる火達磨の死兵を、槍で払い落しながら、脱出策を探っている。
(このままでは、いずれ、ワシも火の手に飲み込まれてしまう……)
ドドドドッ、ドドドドッ!
そこへ、馬の蹄の音が聞こえて来た。
「お兄ちゃん! みんなで、助けに来たわよ!! 」
馬に乗った清香と、巫女と、リーゼルだ。
すると、三人は、水で濡らした長く大きな軍旗をバサッと広げ、炎に囲まれる左近に一条の活路を開いた。
「左近、道は一瞬しか持たないわ。スグに脱出して! 」
と、リーゼルが叫んだ。
「オウとも! 」
左近は、すぐさま、馬首を返して、三人が開いた活路へ、
「セイヤッ!」
一直線に走らせた。
ドスンッ!
そうは、させまいと、炎に包まれた死兵が、左近へ飛び掛かってくる。
「エイヤッ!」
左近は、馬の突進力を利用しながら槍を振るって、打ちかかる死兵を払い落として活路にひた走った。
炎を脱出した左近は、三人に合流しするなり指示を飛ばす。
「もはや、ここは、三十六計逃げるに如かず。逃げるぞ、退却じゃ!!」
と、左近と、三人は、戦場を離れて行った。
つづく