67ジョブチェンジ(現代、左近のターン)
「ピッピ、ピッピ、ピピピピピ……」
リーゼルのスマホがけたたましく警告音を発している。
「左近、そろそろ、やつらが痺れを切らして向こうから来たようね」
椿井城のある矢田丘陵へ向かって駆け出した左近、右近、月代、清香、巫女の五人は、まるでゲームのように、椿井城一帯を包み込むようなデジタルのカーテンがかかったように感じた。
空は一瞬で朝焼けに真っ赤に染まり、向かい合わせの山、信貴山に登り行く太陽がこちらを照り付けている。
「お兄ちゃん、なにこれ、怖い」
「カケル、これはやっぱり戦国の亡霊がよみがえったんじゃないか」
と、清香と右近が不安に慄く。
左近は、一歩先へ出て庇うように、皆を制して、
「皆の者、混乱いたすな、ワシがついて居る心配いたすな」
と、左近は、リーゼルに事の状況を尋ねる。
リーゼルは、メガネのフレームをトンっと叩いたかと思うと、まるでパソコンのキーボードを叩くように、空中で打ちはじめた。
「この状況は、何者かによってこの椿井城のフィールドを一時的に、戦国時代に飛ばされてるわね」
左近が、眉間にしわを寄せ尋ねた。
「戦国? どういうことじゃ、ここは現代ではないのか?」
リーゼルは首を振り、
「残念ながら、今、この空間は戦国時代よ。しかも、(信貴山を指差して)あそこの山から1000名ほどの一団が迫っているわ」
左近は、冷静に、
「それは敵か? 味方か?」
「わからない。ただ、あなたが島左近だとすると、信貴山の兵は、味方かしら?」
「いいや、敵じゃ。信貴山ならば恐らくアヤツであろうよ」
ブー―――フーーーーララーーーーフーーーーーララーーーーー!
遠くから法螺貝の合図が聞えた。
左近は、眉間を曇らせて、法螺貝の合図の先を睨んだ。
「皆の者、ここが戦国ならば、法螺貝の合図は、ここ椿井城へ向けて一気に敵兵が押し寄せて来る合図じゃ。グズグズしておっては、敵兵に飲み込まれるやも知れぬ。一端、(椿井城を指差して)あそこへ逃げ込むのじゃ」
――椿井城。
「カケルくん、これは一体どういうことなの説明して!」
と、開口一番、月代は左近へ詰め寄った。
「落ち着け、月代殿。詳しくは分からんが、ワシらは何者かによって、戦国時代に飛ばされ、ここへ追い込まれたようじゃ」
「追い込まれたってどういうこと? テロリストのこと?」
「いいや、テロではないじゃろう。もっと、得体の知れぬものが、ワシとリーゼルを狙っておるのじゃ」
「ますます、訳が分からない。カケルくんあなたは普通の高校生なのよ。少し心を病んでワタシのお父さんの病院へ通院してるけど、誰がどう見てもあなたはワタシの幼馴染みの時生カケルよ」
左近は難しい顔して、
「月代殿、お主の言う通りワシは時生カケルだ。だが、カケル殿であって、カケル殿でない」
「カケルくん、あなたは今頭が混乱しているわ。お父さんに処方された緊急用の頓服飲んで、スグに、タクシー読んで診てもらいましょう」
「違うのだ月代殿」
「何が違うの、わかったわ、ワタシがお父さんに頼んでみる」
月代は、ポケットからスマホを取り出した。
「どうして?! ここが圏外なの??」
リーゼルが冷静に、
「月代さん、今回、取り乱しているのはあなたで、左近、いや、カケルくんが正しい」
「リーゼルちゃん、何言ってるの? こんな現実あり得ないじゃない。わかった、これは夢ね」
リーゼルは、否定も肯定もしなかった。ただ静かに、
「ここは戦国時代なの」
ピュー――ッ!
ストン!
一本の矢が飛んで来て、椿井城の城門へ刺さった。
と、同時に男たちの鬨の声が上がり、鎧武者たちが矢田丘陵を駆け上って来る。
左近は、リーゼルに戦さ人の鋭い感で問うた。
「リーゼルなにか手立てがあろう?」
「向かい討つことね」
「して、手立ては?」
「任せて」
と、リーゼルは再びメガネのフレームをトンと叩いたかと思うと、空中でキーボードを叩き始めた。
「みんなの職業と装備を替えるわ。まずは清香」
リーゼルが、清香へ向かってキーボードを打つ。
【清香:レベル12】
ジョブ:弓術士
すると、弓を担いだ女武者に衣服がチェンジされた。
「おお!なにこれ、ゲーム見たい?」
「その認識で正しいわ。この世界はいわゆるゲームの世界よ。そうね、あなたたちの認識では最先端のVRのゲームの世界ってことかしら」
「いいじゃない。この衣装かっこいい~」
と、清香は背中から弓を構えた。
「でもワタシ、弓道ってやったことないけど出来るものなの?」
「そうね、ステータスを確認すると、清香のレベルは12もあるから駆け出し弓術士ってところね。ここは、ゲームの世界みたいなものだからスグに打てるわ背中の弓筒から弓を構えて放ってみて」
清香は矢倉に登って敵の雑兵へ向かって弓を放った。
スパンッ!
「命中した! あ、命中した敵は消えたわ。ああ、それに弓も勝手に補充されてる」
リーゼルは、次に、三輪巫女を見て、キーボードを叩く。
【巫女レベル:20】
ジョブ:妖術使い
すると、巫女は中国の儒教の道士のようなまるで、黒いカーテンのようなベールをかぶったような衣服にチェンジした。
すぐさま、右近が、
「おお、その羽扇ゲームの諸葛亮みたい」
リーゼルが巫女に、
「あなたは、清香と逆の左の矢倉に登って、その羽扇を振るって見なさい」
すぐさま、巫女はリーゼルに促されるまま矢倉に登って羽扇を振るった。
すると、空から敵兵目掛けて一閃の稲妻が走り、一気に辺りにいた敵兵を消した。
リーゼルは、続けざまに、右近に向かった。
【右近:レベル30】
ジョブ:剣術士
すると、右近は自分の身長かはあろう大剣を担いだ甲冑を着た侍になった。
「おお、オレいいやん。ちょっくら行ってくる」
すると、右近は門を開き敵兵目掛けて駆け出した。
「おりゃ!」
右近が大剣を振るうと敵兵が一気に10人ほど消えた。
「次に、月代さん」
と、リーゼルがいうと、月代は拒否するように「ワタシは戦うのはイヤ!」と、拒否した。
「わかったわ、だったら、後方支援系の……」
【月代:レベル20】
ジョブ:僧侶
すると、月代の衣服が巫女とは逆に白い道士のような衣服に変わった。
「月代さん、あなたは回復系の術士か使えないわ、あなたも、そうね、清香のいる右の矢倉へ登って、その杖を右近目掛けて振るってちょうだい」
月代は渋々、矢倉へ登って右近目掛けて杖を振るった。
すると、右近を大きなシャボン玉が包み込んだ。
「うお~、燃えて来た!!」
右近は元気が回復して、大剣を必要以上にグルンと振り回した。
最後は左近あなたのジョブよ。
【カケル:レベル50】
異名:疾風怒濤!
ジョブ:侍大将(赤備え)
すると、左近は、漆黒の馬に乗り朱槍を抱えて立っていた。
「左近、あなたはカケルの体へ乗り移っているからかなり弱補正はかかっているみたいだけど、やっぱりあなたは本物の嶋左近清興、今回のミッションの大将よ。はやく、前線の右近を助けに行って」
「リーゼルよ、お主はどうするのだ?」
「わたし?」
そう言うと、リーゼルはキーボードを打ち始めた。
【リーゼル:レベル20】
ジョブ:軍師
「わたしは、後方からあなたたちを俯瞰して、指示を飛ばす役割のようね」
左近は、リーゼルの言葉を聞くと兜の紐を結びなおして、
「よし、ならば行ってまいる、セイヤ―――!」
馬腹蹴って敵陣目掛けて駆け出した。
つづく




