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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
二章 激突!武田vs徳川 三方ヶ原の戦い
62/398

62一言坂の戦い(戦国、カケルのターン)

 ――元亀三年(1572)


 山家三方衆を組み入れた赤備えの山県昌景隊は、諏訪湖を源流に遠州灘まで荒ぶる龍が横たわる天竜川・二俣を睨む緑恵台に陣を張り、駿河を攻略した本隊の武田信玄との合流を待った。


 これにより、総勢1万5000人に及ぶ徳川軍の約半数の三河よりの援軍の道を遮断した。


 この地にある二俣城は、徳川家康の本拠地浜松城だけでなく、支城の掛川城、高天神城にもつながる要の城である。


 ここを落とされてはもはや徳川は万事休すである。


 山県昌景隊が、天竜川へ迫っているとの情報を一早く受けた徳川家康は、宿老の本多忠勝、大久保忠佐を偵察に放ち、自身も3000の兵を率いて出陣し天竜川を渡航した。



「やけに霧が深いな」


 まだ日が明けきらぬ明け方から、先行し、天竜川を渡った本多忠勝は、川からあがる冷気と、射し込み始めた太陽の温かさで霧が立ち込めるのに不審をおぼえた。


(まさかな……)


「まさかどうされましたかな?」


 忠勝に馬首を並べた顔の刀傷も真新しい副将大久保忠佐おおくぼただすけが応じた。


「いやな、忠佐殿、まさかではあるが天竜川をゾクゾク渡り来るわれらのここを狙われては一溜りもあるまいと不安がよぎたのだ」」


「あはは、まさかそんなことはありますまい。われらは敵に気取らねぬよう明朝から動き出し川をわたり武田の陣の気勢をとり、奇襲を仕掛けるのですぞ。いくら武田とは言え、この地は初めての者も多く地理にはきっと疎うございます。左様なことはありますまい」


「で、あればよいのだが……ん?!」


「どうされました?」


「なんだか、聞えぬか?」


「いや、なんにも?」


 ドドッドド、ドドッドド!


「いや、確かに聞こえるこれはひずめの音だ。間違いない」


「まさか、そんなはずはありますまい」


 と忠佐は霧の向こうへ目を凝らした。


 ドドッドド、ドドッドド!!


 蹄の音が高鳴る。


 霧の向こうへぼんやりと赤い影が近づいてくる。


「?!」


「あれは武田の赤備え山県昌景隊の馬影である。皆の者、すぐさま槍を引っ掴み、騎馬隊の突撃に備えよ!」


 と、本多忠勝が自己から先頭に立ち号令をかけると、すぐさま、忠勝の兵は槍を掴んで立ち上がった。


 しかし、赤備えの山県昌景の兵はそれより早く襲来した。


「我こそは、山県昌景隊、先鋒を仕る嶋左近である。そこにいる大男、名のある武将と見た尋常に勝負あれ!」


 この時のカケルは出陣前に山県昌景から直接、


「敵の名のある武将の首を取り功名を立てられよ」


 と発破をかけられ尻を叩かれたものだから、なかば、死ぬ気で突撃している。


 しかも、目付につけられた山県昌景の娘、山県虎が四六時中、カケルの側近くにあって、見張ってるものだからもはやヤケクソである。


 左近が朱槍の大千鳥十文字槍を忠勝が身構えるより早く放った。


 ぐぬぬ!


 さすがは徳川にこの人ありといわれた本多忠勝である。すんでのところでカケルの槍を交わしたかと思うと、その槍の腹を掴んで、力任せにカケルを槍ごと愛馬霧風から叩き落とした。


「やや、その唐の兜は! 左近よ、そやつは本多忠勝だ。用心せよ」


 と、徳川の兵を蹴散らしながら、一騎打ちを見守る虎がアドバイスをおくった。


「マジかよ、戦国最強、本多忠勝が相手ってオレ絶対死んじゃうーーーーーーー!」


 と、突き出したおちょぼ口の唇先まで出かかったが、ピュっと口を閉じて絶対我慢して、パッとカケルの槍を離した忠勝に旋風一線、二合目を放つ。


「こんなところで忠勝様を討たせるわけにはいかぬ!」


 反撃の槍が、


 ビュ!


 ビュビュン!


 ビュビュビュン!


 と、三本カケル目掛けて飛んできた。


「おお、金平! 甚太郎! 正照、かたじけない」


 忠勝が呼んだのは寄騎衆の梶勝忠(金平)と、荒川甚太郎、中根正照である。


「助太刀とは卑怯なり、ならば、こんな面白い一騎打ちほっとくわけにもいくまい我ら嶋左近隊も行くぞ!」


 と、今や嶋左近隊の筆頭、女だてらに山県虎、青鬼、菅沼大膳をはじめ、赤鬼、父定忠が割って入る。


 カケルと忠勝を中心に、嶋左近隊の虎、大膳、定忠。本多忠勝隊の梶勝忠、荒川甚太郎、中根正照。


 命を懸けた赤と黒の先鋒大将同士の戦いにもはや割って入れるものはない。


 この場の数人の闘い。いや、本多忠勝の闘いと粘りがこの後の闘いへつづく徳川家康の命脈を保つことになる。


「徳川の兵たちよ退け!退け!川を渡るな引き返せ! ここは、本多平八郎が引き受けた。後方の殿を連れてすぐさま引き返すのじゃ!!」


 と、本多平八郎忠勝の地を割るような怒声を聞くと次々に一本の縄を張り小舟に分かれて天竜川を渡ってくる徳川の隊列が流れをかえた。


(多少の混乱はある。それでも我が主、家康公さえ逃がせばなんとかなる。まずは、殿しんがりとして、この嶋左近とやらをなんとかいたせば)


 と、赤備えの先鋒の突撃を寸前のところでおしかえし均衡を取り戻した本多忠勝が正面の嶋左近のみに向き合った時である。


 ふたたび、次なる、赤備えが駆けつけた。


 この一団の突撃の速度はまさに、疾風怒濤である。


「父上!」


 と、山県虎が叫ぶ。


「何をグズグズしておる、ワシが申したのは本多忠勝のような小物首ではないわ! 狙うは大将、徳川家康のみ! 駆けよ! 風よ! 林よ! 火よ! 山よ! あの金の扇の船を狙うだ!!」


 山県昌景は自ら口に咥えた矢を弓につがえて、金扇の徳川家康目掛けて放った。




 つづく





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