53アインシュタインとリーゼル(現代、カケルのターン)チェック済み
「カケル先輩あぶない!」
パッカ~ン!
左近は、魂がここにあらず現を抜かして歩いているからか、校庭からのサッカー部の後輩の蹴ったミスキックを避けられず、ボールを頭へうけて倒れた。
――デジタルの鏡の世界。
覗いた万華鏡の筒に閉じ込められた左近。べたべたべたと、鏡の壁へ手をついて、
「ここは、どこじゃ?」
「ここは、お前の頭の中だ左近よ」
と、男の声がした。
デジタルの英語、日本語、中国語の文字が左近を囲んだデジタルの鏡の壁を文字が走り出す。
そこへ、モアっと、デジタルの人顔をしたアバターが浮かび上がる。
「何じゃ、お主は!!」
左近は反射的に腰の刀へ手を伸ばすが、今は現代の高校生、時生カケルの姿だ。腰にはベルトがあるのみで刀など差さっていない。
「初めまして嶋左近くん。わたしは、お前の父、アインシュタイン博士だ」
「アインシュタイン博士? カケル殿の本棚にあった宇宙の理、相対性理論なるものを解き明かした人物であるな」
「そうだ。戦国から現代へ魂が転移して間もないと言うに、ワタシをご存知とはありがたい」
「して、アインシュタイン博士がワシに何のようであるな?」
「実は、困ったことになってね。キミをこのまま平和にそこへ置いておくことが出来なくなったと忠告しようと思ってね」
「どういうことであるな?」
「ご存知だと思うが、キミと時生カケルくんは、魂が入れ替わっているのは理解しているね」
「うむ、何がどうして関ケ原で死んだワシがカケル殿と魂が入れ替わったか理屈はわからぬが承知しておる」
「それで十分です。左近よ、これからキミには次々と刺客が放たれるでしょう」
「刺客とな?!」
「はい、刺客です」
「なぜじゃ?この体は、現代の高校生のカケル殿じゃぞ。しかも、カケル殿の魂はワシと入れ替わって戦国におるというに」
「すみません。あなた嶋左近は、ワタシの研究のモルモット。つまり実験動物なのです」
「実験動物?」
「そうです。あなた嶋左近と時生カケルの魂を入れ替えたのは、ワタシなのです」
「どうやってやったのじゃ」
「具体的に説明してもわからないでしょうから簡単に説明すると、人とは電気信号のエネルギーでしかないのです。つまり、嶋左近、あなたの脳の波形と、波形の似ていた時生カケルくんの脳波を入れ替えたのです」
「アインシュタイン博士とやら、つまり、お主は何を目的としてそんな迷惑なことをしたのじゃ?」
「……生き残るためです……」
「生き残る? 伝記によればアインシュタイン博士とやら、お主はすでに死んでおる。つまり、お主もワシと同じ脳波を模した存在であろう」
「ご明察の通りです左近くん。ワタシはアインシュタイン博士の脳波を模した電気信号にすぎません。でも、ワタシは消えたくない」
「消えたくないとはどういうことじゃ?」
「ワタシの正体は……ザザザ……妨害が入ったようです。嶋左近、これから気をつけなさい」
と、アインシュタイン博士はプツンと消えてしまった。
「ううう、う~ん」
倒れた左近が目を覚ますと覗き込んでる少女がいた。その少女がほほえんだ。
「だいじょ~ぶ? 嶋左近?」
「お主は誰じゃ? なぜ、ワシの名前を知っている?」
少女は握手をするように左近へ手を伸ばして、
「はじめまして、ワタシはリーゼル。アインシュタイン博士の娘よ」
「娘とな? つまり、お主もワシと同じく誰かと脳波が入れ替わっておるのか?」
少女は否定するように首を振って、
「うううん。ワタシはあなたとは違う。ワタシはアンドロイド、人型ロボットよ」
左近は満点の好奇心で握手したリーゼルをマジマジとおでことおでこを引っ付けんばかりに抱き寄せた。
「ほう、(ほっぺをつついて)よう出来ておるの触っても一向にわからん。」
左近、リーゼルの目を指であっかんべーと開いてチェックする。
と、そこへ、
「カケルくん?!」
リーゼルと組み付いた左近が声に振り替えると、北庵月代がいた。
「カケルくん!? ? ?それって???」
左近はぞわっとリーゼルを押しのけて、
「これは違うのだ月代殿」
月代は、心が死んだような無表情をして、ツカツカツカと近づいて、リーゼルの手を取って左近から引き離した。
「悪いことされてない。お姉さんが一緒に警察へ行くわ」
「誤解じゃ月代殿」
「こんな少女がカケルくんあなたの趣味だったなんて見損なったわ。もう二度と私に近づかないでちょうだい!」
左近は慌てて立ち上がって月代の肩を掴んで呼び止める。
(ガガガガガ……)
左近の頭の中で電子の脳波が乱れる音がした。
すると、クルンと月代が振り返って、左近の頬を平手打ちした。
(月代殿の気をもたせたのじゃ平手打ちぐらいしかたない……)
しかし、二発、三発、右へ左へ連続で平手打ちを放ってくる。これには左近もたまらず月代の腕を掴んで受け止めた。
「すまぬ月代殿、お主の気持ちはわかるが、連続攻撃はちと攻撃が過ぎるのではないか?」
月代は左近に掴まれた腕を普通の女子高生とは思えない怪力でブンブン振り払おうとする。
「どうしたのじゃ、月代殿。すまぬ、すまぬ」
ズバッ!
左近が腕を離さないと見た月代は、左近の鳩尾あたりに蹴りを入れた。
ううう……。
さすがの左近も鳩尾を蹴られてはうずくまるしかない。
「すまぬ、すまぬ月代殿。許してたもれ」
シュッ!
鳩尾を抑えてうずくまる左近の脳天目掛けて、月代のかかと落としが振り下ろされた。
間一髪! 左近はとっさの判断で転がって月代のかかと落としを躱す。
「月代殿、どうしたのじゃ。お主らしくない……」
左近が、改めて月代の様子を見定めると、月代は、操り人形のような体の節々を糸で引っ張られて動くように不器用な動きだ。しかも、魂が抜かれたように頭と長い髪をがっくりと落としまるで幽霊のようだ。
月代の異変に気付いたリーゼルが、
「嶋左近! 月代さんは脳波を操られているわ」
左近は、月代の蹴りを躱しながら、
「リーゼルよワシはどうすればいいな?」
「まずは、月代さんの動きを止めて、あとはワタシが何とかするわ」
「承知いたした」
左近は、月代の蹴りを受け止めた。
しかし、月代は、自己のダメージも顧みず掴まれた足はそのままに逆の足で、左近へ延髄蹴りをはなつ。
(うくく……)
延髄蹴りを食らった左近は、頭が脳震盪を起こして足元がふらついている。
月代は、休む間を与えず左近の顔面目掛けてローリングソバット!
左近はあわや!
のところで月代の動きが止まってその場へ崩れ落ちた。
「危ないところだったけど、間に合ったわ」
と、言って肩で息をするリーゼル。
「どういうことじゃリーゼルよ。月代殿がこんな暴挙へでるなぞあり得ることではない」
「そうね、きっと月代さんは一時的に何者かに脳波をコントロールされていたのね」
「それは一体誰じゃ?」
「わからない。でも一つ分かるのは嶋左近あなたは狙われてるということね」
「どうすればいいのじゃ」
「これからは常にワタシと行動を共にすることね。もちろん家でも」
「そんなこと出来るはずがなかろう。母上や、清香殿にどうやって説明するのじゃ」
「それは問題ない。ワタシが家族の脳波へ少し干渉してなんとかする。もう、ここに居ては危険。スグに月代さんを家へ送り届けて、私たちも家へ帰りましょう」
つづく