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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
一章 疾風! 西上作戦開始!
52/399

52裏切り者は誰だ!山県隊の陣中会議(戦国、カケルのターン)チェック済み

「ぬあああーーーー、城がもぬけの殻だーーーーーーーーー!」


 作手亀山城へ忍び込む秘密の抜け道を通って城中へ忍び込んだ戦国武将の嶋左近清興と魂の入れ替わった現代の高校生、時生カケルはせっかく命がけで城へ忍び込んだはよいが城中には誰もいない。目的の米蔵にも米一粒落ちていなっかった。


「城主、奥平定能に謀られた」


 道案内の武田忍、透波者のくノ一、望月もちづき)千代女(ちよじょは、すぐさま、城を捨てた奥平定能を追いかけ、別れて、カケルは総大将の山県昌景の陣へ参じた。




 山県昌景の陣所――。


「なに?! 我らが山県隊が作手亀山城の米蔵を狙っておったのが、敵に筒抜けじゃっただと!!」


 と、カケルが山県昌景に作手亀山城の状況を伝えると激怒とも動揺とも取れない、声を上げた。


「そうなんです。あの城の状況を見るとそうとしか思えません」


「ということは何か? 武田家、いや、この山県昌景隊に徳川の間者、裏切り者が潜り込んでおると申すのか?」


 山県昌景は陣中に居並ぶ侍大将を見た。


 昌景の右腕で娘婿の三枝昌貞は、カケルの発言が徳川との決戦に向けて一枚岩だった赤備えに疑心暗鬼の亀裂を生みかねないので、カケルと昌景の話に口をはさんだ。


義父上ちちうえ、これは、我ら山県隊、兵糧米に窮する危険な状態になりましたな」


 さらに、ついこの度領国の信濃国木曽谷から増援へ駆けつけた木曽義昌が口をはさむ。


「山県殿、この嶋左近と申す新参者を少々、重用しすぎにござらぬか、聞けば先の田峯城攻略には多少の働きがあったように聞き及んだが、城と引き換えに兵糧米を使い果たしたと聞く。こやつこそ徳川と気脈を通じる間者、裏切り者にござらぬか?」


 昌景は、木曽義昌に痛いところを突かれたと思った。昌景も、左近と初対面の折は、その体躯から一目で侍と見込んで徳川の間者と見誤ったのだ。剣を合わせて話してはじめてカケルには子供のように悪意がなく、信のおける人物と見込んで登用したのだ。


 昌景は、木曽義昌の発言で、陣中にカケルに対する不信感が走ったのを感じ取った。

(このままでは陣中の結束のために左近を処分せねばならぬやも知れぬ……)


「いいや、左近殿は信用のおける人物にござる」


 陣中の末席から銅鑼のようなガラガラ声がした。


 昌景はじめ一同が声の主に目を向けると、陣中に飛び込んで来た菅沼大膳と父の定忠が。


 大膳はつづける。


「嶋左近という男は頭が弱くて戦国を生きる謀や駆け引きには疎くて、山県殿のそば近くでは使い物にならんが、先鋒大将としてはこれほど信がおけて心強い漢はおらぬ。脇を固めるこの大膳と、父、定忠が保証する」


 木曽義昌が、ねちっこい邪眼をむけて、


「ならば次なる戦で、この嶋左近とそなた達菅沼父子が先鋒をつとめると申すか」


 大膳は、ツカツカツカとカケルの傍らまでやってきて肩を抱き、


「我ら嶋左近の先鋒隊、次なる戦に限らず、次もその次も、数多の戦場において武田の赤備えの先鋒を承る。のう左近殿」


 大膳は、にかッとカケルへ白い歯をみせた。


「もちろんにござる。数多の戦場で武田の赤備えの稲妻となってみせましょうぞ」



 その様子をウンウン頷きながら聞いていた三枝昌貞が、


「その覚悟ヨシ! 義父上、わたくしめも長らく赤備えの先鋒を務めた身。この嶋左近のように臣下に慕われる漢でのうては先鋒は任せられませぬ」


 昌景は、我が心得たり! と、三枝昌貞の助言を受け入れ、木曽義昌の注言を退けた。


 と、そこへササササさと、黒装束の忍びが駆け込んで来た。


 昌景は、忍びに目を据え、


「うむ、加藤段蔵か」


 段蔵は、懐から文を取り出し、取次役へ渡した。


 昌景は、先を急ぐように、


「段蔵、構わん申せ!」


「は! 作手亀山城の奥平定能と兵糧米の行き先が掴めました」


「して?」


「行き先は、山家三方衆最後の城、菅沼正貞が守る長篠城にございます」


「敵は長篠城に集結しおったか、おもしろい!我らは、このまま陣中を引き払い長篠へ向かうぞ!皆の者、すぐさま準備に取り掛かれ、電光石火にこの山県昌景、長篠を我が手中に収めてやらん」





 木曽義昌の帷幕――。


 苦虫を嚙み潰したようように爪を噛む木曽義昌が投げ捨てるように側小姓へ文を渡す。


「これを持って陣を離れた裏山の林へ行け! そこに男がおる、そ奴へその文を渡せ!!」


 小姓は訝しそうに、


「殿、我が山県隊の陣中は、余計な文、密書のやり取りは禁止じられておりまするが?」


「なに? ワシの命令に意を唱えるか?」


「いえ、そのようなことは……」


「ならば、すぐさま走れ! もし、誰ぞの者にお主の姿を見られたらその文を引きちぎって喰らい腹を切り血で染めよ!」


「え?!」


 木曽義昌は側小姓へ愛情の欠片もない邪眼を向けて、


「不満か?」


 木曽義昌は、腰の刀へ手をかけた。


 側小姓は、怯えたように文を持ってその場を逃げ出した。




 ――裏山。


 一条の月明かりもない裏山の林へやって来た側小姓。


 辺りを見回すと誰もいない。


 すると一陣の風が吹き込んできた。


 側小姓が振り返ると忍び装束の男が背後に立っていた。


「文をもらおうか」


 この冷たい目をした忍び装束の男に怯えながら側小姓が懐から文を差し出すと、


 バサリッ!


 いきなり忍びは刀を抜いて首筋を切った。


 そして、側小姓の死体を打ち捨てて風と共に去っていった。




 と、そこへ、別の林で野糞をしていた大男がひょっこり木陰から顔をだす。カケルだ。


 ちょいちょいちょいと、山県隊の陣中へ戻ろうと谷を降りていくと、


「やややッ!」


 忍びに切られた側小姓の死体を見つけた。






 つづく





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