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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
一章 疾風! 西上作戦開始!
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43子の進路を相談された時の母の本音(現代、左近のターン)チェック済み

 現代の高校生、時生カケルと魂が入れ替わった戦国武将の嶋左近清興は、カケルの母妹と正月のおせち料理をつつきながら悩んでいる。


 それは、年末に行われた高校での左近はじめOBを含めた紅白戦の最後に、2つの進路について誘われたからだ。


 1つは、カケルが子供のころからがんばったサッカー選手になる夢の実現のため、2つ目は、子供の頃からの幼馴染で憧れだった女性、北庵月代から誘われた東京でのバラ色のキャンパスライフとの天秤だ。


 この”夢と恋”人生の最大の両天秤の難問に向き合うのが、当事者の高校生、時生カケルだったらば、この平成最後の正月は悶絶するほど豊かなものとなったであろう。だが、この人生の難問へ立ち向かうのは他人、よりによって、精神年齢六十歳の戦国武将、嶋左近清興なのだ。


「捨て置くか……」


 おとこ、左近はそんな薄情な男ではない。出来うることならば、皆、幸多い未来を願っているものと、善良に働くように思考している。



「あら、カケル。さっきから栗きんとんを箸でつまんだまま停止しているわね何か考え事?」


 と、カケルの母の清美が声をかけた。


 左近は、箸につまんだ栗きんとんをゆっくり口に放り込むと、


「母上、ワシはこれからの人生どうしたものかと悩んでおるのでござる」


 清美は、「えっ!」世間の誰しもが浮かれモードの正月のおめでたいこのタイミングでいきなり心底暗い話題。しかも重い話題をするのか、我が子ながらカケル、いや、この場合は他人の左近なのだが、その感性を疑り、育て方を間違ったのかと多少、後悔した。


「おめでたいお正月に一番向かない話題を持ち出すなんて、ずいぶん藪から棒ね。お母さん、そんな風に育ってくれてうれしいわ」


 と、心にもないことを言っておいた。


「実はのワシは今、この後の人生を決める岐路に立っておるのだ」


 清美は、


「こいつ、正月に一番聞きたくない言葉を言いやがったな!」


 と思った。


「それはたいへんね、お母さんにはなんでも話していいのよ。さあ、つづきを聞かせて」


 と、清美は罪に罪を重ねるように心にもないことをささやく。


 左近は、ようやく2口目の伊達巻へ箸が伸びた。


「実はの、こないだ学校での紅白戦でJ3のビシャモンテ尼崎FCの中岡監督からプロへ誘われ申した」


 清美は、子供の頃からカケルについてサッカーの見学には付き添ってはいたが、生来、ミーハーな性格でその場しのぎのノリで生きてきただけなので、熱心に息子をプロサッカー選手にするという意気込みは皆無にサポートして来たつもりだ。


 その母親として、何事も熱中することがなくすべて長続きしたことがなかった清美だが、子供にたいするどこか冷めたスタンスには自信がある。


「わたしにもそれだけは出来た!」


 と自負もある。


「カケル、良かったじゃない。子供の頃からお母さんと一緒にがんばったものね。きっと、そのがんばりが実を結んだのよ」


 魂を奪われたような左近であったが、伊達巻を一口喉の奥へ押しやると、


「これは、とくべつ旨うござるな」


 左近の舌へ味覚が回復して来た。


「男を掴むには、まずは、腹を掴むこと」


 清美は、女として料理の技術だけを磨いてきた。


(我が子ながらチョロいわね……これで、ようやく暗くて重い話から話題の矛先をすり替えられる)


「そうよ、伊達巻きは、はんぺんをグシャグシャにつぶして、ボールにはんぺんを入れる。次に、泡だて器でロトロになるまでかき混ぜ、フライパンにオイルをしきフタをして中火へかける。様子を見ながら弱火にして、上まで火が入ったらまき簾にのせる。あとは、冷めるのを待つだけよ」


 と、白々と、さも知りも知ったりという調子で、左近へ自慢げに語り聞かせたのだが、今朝、クックパッドを見ながらつくっただけである。


「母上、しかしでござるな。ワシにはもう1つ難渋してることがあり申す」


 清美は、「しまった!」と一瞬思った。カケルに何か悩みを呼び起こすきっかけを与えてしまったのか、自問自答を繰り返した。否、否、否!わたしはミスを犯していない。話したのはおせちの具の話題だけ、心の内で不埒に舌をだしてクックパッドのレシピで釣れた我が子をチョロいと見限ったのは認める。だが、それはミスではない。


 清美は冷静を装って、


「もう1つの悩みはなに?」


 左近は、膝に手をついて頭をたれ、


「進学にござる」


 清美はピンときた「金の話ね」それは、いくら我が子の頼みとはいえお金のかかる私立大学だなんかを言われたら、妹の清香もあるのだ、学費に1人暮らしさせ部屋の家賃。場所によっては、交通費なんかもかかるだろう。断ろう、たとえ、我が子の頼みでも獅子が我が子を千尋の谷へ突き落とし強い子に育てるように突き放そうと心に決めた。


「あまりお金はだせないわ。(清香に目をやって)この子もいるからね。カケルわかってちょうだい」


[いや、違うのだ母上、金の話ではない。ワシは、北庵の月代殿と、共に、東京の大学へも誘われておるのだ」


(清美は、ほら言わんことかやっぱりお金の話じゃない。でも、気づかなかったわねカケルと月代さんがそんなにイイ仲だったなんて、わたしとお父さんの出会いも大学だったな……思い出すのはあの甘いキャンパスライフ……)


「母上、母上、ワシの話を聞いておるにござるか?!」


「聞いてる。聞いてるわよ大学進学の話ね。で、月代さんとどこの大学へ行くつもりなの?」


「月代殿が申すには国立とやらの東京帝国医科歯科大学とやら申しておった」


 横で左近と清美のやり取りを聞いていた妹、清香が口に含んだオレンジジュースをブーっと吐き出して、


「お兄ちゃん、医者になるの?!」


 左近は冷静に、


「そうなるやもしれぬ」


 清美は、


「医者になるってことは、カケルあなた月代さんと結婚して養子に入って北庵病院を継ぐことになるのよ」


 左近は、尚冷静に、


「そうなるやも知れぬ」


 清美と、清香は声をそろえて、


「いい話じゃない」×2


 そういうとシャーロック清美が、アシスタントのワトソン清香へ指示を走らせる。


「すぐに学費を計算して!」


 清香はググる! ググる! ググる!


「わかりました。大学6年間でおよそ350万かかります」


 清香は、ふ~む、と宙を睨んでそろばんを弾く。


「お父さんのおこずかいを無くして、毎年、家族で行ってるハワイも無しね、いや、わたしの3か月1回の韓国旅行もなしか……辛いわね」


 左近は、清美の顔色をうかがって、


「むずかしゅうござるか?」


 清美は首を振って、


「Fèèⅼ・Soo・OK!よ、何にも問題無いわ。医者になるのなら先行投資としては最高よ」


「ならば、ワシはサッカーはあきらめて東京へ行った方がよいのかの?」


 清美は、難しい顔して、


「しかし、カケルは学力が……そうなるとサッカー選手もキープしておきたい。あらやだ、わたし、心の声が口に出てるウフフ……」




 そうやって、左近の進路相談はうやむやのうちに、どちらも選ばず。両天秤を両方取りに行くどっちつかずの方針に決まった。




 つづく

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