表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
一章 疾風! 西上作戦開始!
42/398

42どんな人でなしでも人の心はある(戦国、カケルのターン)チェック済み

2話つづけて戦国カケルのターンです。

 金で女を買えば、その金で、また別の女が金で買われる――。


 ああすればこうなる。カケルは、簡単には思い道理にはいかない世の中の不条理を思い知った。


 現代の高校生の頭では、金で買われた女は、また、その金で買い戻せば救い出せると簡単に考えていた。でも、目の前で実際に起こったことは、カケルが4人の女を救うために払った200両の金で、忘八は、またぞろ、その救った女たちの村、しかも目の前で、別の女たちを買いあさったのだ。

 しかも、村の被害は4人から10人へ広がった。


 現実を突きつけられたカケルは、戻された牢獄で泣くこともできなかった。


 ただ、貧農で食うに困って、娘たちを売らざるを得なかった百姓たちを不憫に思って、救うつもりで200両の金を用意して、手を差し伸べたつもりのカケルだったが、その感覚は、ゲームやライトノベルの感覚であった。そんな甘い展開はない、現実はあまりも違う。

(オレはどうすればいいんだろうか……)


 カケルは自信を失いもう消えてなくなりたい。


「ほれみよ左近よ。お主の浅はかな策などこのようなものだ」


 と、菅沼大膳が追い打ちをかけるように冷たい一言を浴びせかける。


(返す言葉がない……)


 カケルの心は壊れてどうにかなりそうだ。


 菅沼父の定忠などは、


「これも戦国の世の習い。皆、こうして現実に打ちのめされ子供から大人へなっていくのです」


 と、慰めてくれる。


(人って、こうして他人をあきらめてゆくのか……)


 カケルも自分もそうなってしまうのかと受け入れそうになる。だが、自分が憧れた戦国武将はそうだっただろうか、戦場を華々しく駆ける真田幸村、母に愛されずそれすら切り捨て非情の人となった伊達政宗、天下人なにするものぞ「オレは何物にも縛られず自由に生きる」天下の傾奇者、前田慶次。

 誰一人として、カケルの愛する戦国武将は不都合な現実には屈しない不屈の魂をもっている。


「違うんだ。違うんだ。そうじゃない、そうじゃないんだよ!オレの目指すところは!!」


 と、カケルは獄中で大声で叫んだ。


 すると、菅沼大善が興味なさそうに、「ぶっーーー!」と一発デカイ屁を噛ました。


「いきなりどうした嶋左近、お主が、1人騒いだところで、200両と買われた娘たちは戻らぬし、自己おのが主、山県殿をたばかった現実はかわらぬわ」


「でも、でも、でも……」


「ええい!女々しいぞ左近!」


「まあまあ、大膳そういうな。左近殿にも言う、にいわれぬ存念があるのであろうよ」


 と、そこへ牢の廊下を蝋燭(ろうそく)の灯りが近づいて来た。


「左近、御内義様が呼んでおる。牢を出てついて参れ」



 ――お内義様の居間。


「左近殿、これを」


 カケルが、居間に入ると、お内義様がスッと文を差し出した。


「これは?」


 カケルが聞き返すとお内義様は、コクリとうなずいた。


「おお、これは作手亀山城の秘密の抜け道の絵図じゃないですか!」


「そうじゃ、この抜け道を使えば、作手亀山城はたやすく奪いとれます」


「どうしてこれを?」


「嶋左近、関わりのなかった村の娘たちを哀れに思うお主を信じてみようとおもったのだ。だが、これを渡すには条件がある」


「その条件とはなんですか?」


 お内義様の表情に影がさしスッと変わった。


「わたしはやはり許せぬ。左近よ、今から妄八ぼうはちを追っ掛けてやつを殺して、村の娘たちを取り戻してほしいのだ」


 カケルは、う~んと腕を組んで悩ましく思案顔を浮かべ、


「でも、そうすると人を1人殺すことになるよね」


「そうじゃ。女を虐げるものたちを殺してなにがわるい。遊郭の女郎買いの男どもなど死んで当然じゃ。お主の娘たちを我が身を犠牲にしながら救おうとした姿を見て痛感したのだ」


「でも、どんなに悪い人間でも命を奪うのはちょっとな……」


 お内義様は眉間にシワをよせ表情を曇らせて、


「左近よ、断ると申すか?」


「いや、この作手亀山城の絵図面はほしいよ。でも、命を奪ったらごご城主様となんにもかわらなくなっちゃうよ」


「左近よ、それが戦国の世の習いだ」


 カケルは、う~んと、腕を組んで宙を睨んで思案顔。


「わかりました。その仕事引き受けましょう」




 ――岡崎街道。


 村を外れた街道筋を妄八が10人の作手亀山の村娘たちを引き連れて行く。


 娘たちは手首に縄を巻きつけてはいるものの、縛り付けてはいない。もはやあきらめて自分の定めを受け入れて、せせらぎを流れ流れてゆく落ち葉のように、心を失い流れてゆく。


 カケルは、追った、追った、追った――。


 カケルは、お内義様から渡された短刀を腰に、葦藪あしむらを掻き分け、掻き分け、道なき道を走る。


「ここらで一休みいたそうか」


 先導する妄八が、作手亀山を見下ろす峠の茶屋へさしかかると、娘たちに声をかけた。


「へい、娘さんたちに、暖かいお茶と、みたらしでございますね」


 妄八は茶屋の主人に、一両小判をつかませ、


「ご主人、これは心付けだ。これで娘たちに作手亀山でとれた米を炊いて、新香と味噌汁を食わせてやってくれ。娘たちはこれでこの里の味は二度と味わえないのかもしれないからな」


「旦那、良いとこあるじゃないですか、妄八なんてヤツは妄八ってぐらいだから女を食い物にする義理も情もない薄情な野郎だって思ってましたぜ」


 妄八は作手亀山の里を見下ろしながら、湯気あがる茶をズズッと吸い上げて、ポツリと、


「オレも人の子さ……」



 と、そこへ葦の原から短刀を引き抜いたカケルが飛び出した。




 つづく







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ