41女を金で買えば、もっと多くの女が身を売るのが世の中さ(戦国、カケルのターン)チェック済み
お正月なので、今週はお年玉で1本多く更新できればと思います。
皆さま、本年も、左近とカケルをよろしくお願いいたします。
「ええっ! オレの知行は400石もあんの!?」
戦国時代の武将嶋左近清興と魂が入れ替わった現代の高校生時生カケルは、その日の内に忍んで来た武田忍びの"透波者"の加藤段蔵こと通称、鳶加藤から冷静な給料査定を聞かされ素っ頓狂な声を上げた。カケルは、
「で、400石って何両になんの?」
鳶加藤は、その鋭敏な頭でそろばんを弾き、
「ええっと、ですな。1石が1斗でしてな1斗というのは10升にござる」
「ん? ん? わかんない。単語と数字が並んでぜんぜん頭に入んないし、わかんないんですけど」
鳶加藤は、カケルへどう説明したものかと首をひねって、
「困りましたな、では、1升について説明いたそうかな、左近殿、飯を食う茶碗はご存知にござろうな?」
「うん、それなら分かるよ」
「1升というのは、茶碗になおすとご飯20杯分にござる」
「ほう、少しわかってきたかな」
「左近殿の知行は、400石であるからして、400×10×20で、茶碗80000は食える計算ですな」
「ん? ん? また分からなくなってきたぞ、ごめんなさ~い。オレ鳶加藤さんと違って計算苦手だから、400石はズバリ何両かでおせ~て?」
鳶加藤は、あごへ手をやり思案顔、
「ふ~む、そうですな1石はおおよそ1両にござるからして、左近殿の知行は400両にござるかな」
「鳶加藤さん、はじめからそう言ってよ。案外、簡単な計算じゃん」
「しかして、左近殿、どうしてここへ来て銭への執着を見せられたかな?」
カケルは、飛び上がったかと思うといきなり鳶加藤へジャンピング土下座して、
「お願い鳶加藤さん、明日までに200両用意して!」
「ほう、200両とはたいそうな物入りにござるな。して、いかになる理由にてそのような大金が入用にござるかな?」
「女の子を買うんだ」
「左近殿、いかなる風の吹き回しにござるかな。200両の大金が必要とは遊郭の名のある遊女の値段にござるぞ」
「うん、オレ、女の子を4人買うんだ」
「4人とな! 左近殿いつの間に女狂いになられましたな。さては、菅沼大膳にでもそそのかれましたな」
「ううん、大膳さんはああ見えてあっちだから違うと思う」
「よいかな、左近殿。その若さで女にうつつを抜かすと、御館様、武田信玄公や、御大将、山県昌景殿のような勇士にはなれませぬぞ。して、何故女子を買われるのでござるか?」
「う~ん……」
と、カケルは首をひねって思案顔、
(鳶加藤のおじさんは理由を話せばオレの思惑にのってくれるだろうけど、山県のおじさんはどうだろう。いや、山県のおじさんは漢だからオレの心を汲み取ってOKしてくれるだろう。でも、今回、オレも菅沼父子のような家臣をもってわかったけど、こないだの田峯城攻めでバンバン兵糧、大判振る舞い作戦で、反対意見も多かったと聞くし、山県のおじさんが了解しても、却下されるかもしれないな。どう、話したものか……)
カケルは、瞬間、必死で考えた。しかし、なにも思いつかない。考える。思いつかないを繰り返した。そこで、苦し紛れに口をついた言葉が、
「鳶加藤さん、オレは武田の赤備えの先鋒隊として恥ずかしくない部隊をつくるよ。そのためには今すぐ金がいるんだ!」
と、口から出まかせがついて出た。
鳶加藤は、難しい顔して、しばらく頭の中で算段をするように瞑目して、
「わかり申した。一時は、女子に狂って銭が必要かと思いましたが、赤備えの先鋒大将として恥ずかしくない兵を拵えるというのであれば、不詳、加藤段蔵、きっと、山県殿を説き伏せて200両の金子を工面いたして参ります。それでは、ごめん!」
鳶加藤は、カケルの口から出まかせを信じて行ってしまった。
――御内儀様屋敷の牢獄。
夜更けた。
獄中でカケル、菅沼父子の3人が壁の隙間ついて射し込む月明かりを囲んで額を突き合わせている。
カケルは上等な和紙を広げて、
「というわけで、これが鳶加藤さんが持ってきてくれた200両」
菅沼大膳は、眉間も険しく怒気を強めて、
「なに?!女子たちを銭で買い戻すために、大将の山県殿を謀っただと!」
カケルは、大膳に大目玉を食らわされシュンとして、
「だって、売られてゆく娘さんたちが可哀そうで見てらんなかったんだもん」
「ええい、この大バカ者! 娘たちに同情して身請けしようとする心意気まではまだよいわ。しかし、こともあろうにその銭を工面するために、山県殿を謀っては、それが知れたらワシらとてただではすまぬわ!」
カケルは今にも泣き出しそうに、
「うええ~ん、だから、2人に真実を話して相談してるんじゃないか」
大膳は、語気を強めて、
「左近、お主は馬鹿は馬鹿でも大バカ者だ。この戦国の世にあって、食うに困って身請けされる女子などどこにでもおる。それを、皆救い出しておっては、銭がいくらあっても足りぬことぐらいお主でもわかろうものを」
カケルは、シュンとして、
「ごめんよ大膳さん。でも、困った女の子たちを見て見ぬふりをするのは、漢じゃないよ」
「ええい、この大バカ者が!」
と、大膳は怒ってプンっと背中を向けた。
それを取り成すように年長者の菅沼定忠が、
「まあ、そう申すな大膳よ。この大バカ者がワシらの主なのじゃ。今回は、左近殿を信用してどうなるかいきさつを見守ろうではないか、そのあとでことを仕損じれば左近殿ともどもワシら父子も腹をかっ切ればよい話ではないか」
「父上……」
――翌日。
「へい、毎度あり!金さえ都合がつけば武田でも徳川でも問題ありませんや。それじゃ、あっしはまだ行くところがありますのでこれで失礼します。へへへ」
カケルは、お内儀様の見守る前で、忘八から、作手亀山の貧農の娘たちを買い戻した。
村を見下ろす屋敷の庭から街道筋へ向かって行く忘八を見送って、お内儀様が悲しい顔で、左近を見つめて、
「左近殿、これで娘たちは救われたがこのような真似をしてよかったのか?」
カケルは、屈託のない笑顔を見せて、
「これでいいんです。貧乏だからって、若い娘さんたちが売られていくなんて間違ってます」
お内儀様は、尚悲しい顔をカケルに向けて、
「そうか……」
と、悲しく尻切れトンボのつぶやきを残した。
「!!!!!」
ふいに、街道筋へ目をやったカケルは自分の目を疑った。
街道筋には、さきほどカケルから200両を受け取った忘八が、また違う村娘たちに縄をつないで連れて行こうとしているではないか、しかも人数が10人だ。
「どうなってるんだ忘八さんは!」
お内儀様が吐き捨てるように、
「知れたことではないか、左近、お主が渡した金を使って忘八はより多い人数の娘を買って遊郭へ連れてゆくのさ」
「ええっ!」
つづく