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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
一章 疾風! 西上作戦開始!
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39貧しい百姓は家族が食うために娘を金に替える(戦国、カケルのターン)チェック済み

「戦国の世にあって主君と色ごとの交わりを結ぶべるとは、それだけで喜ばしいことじゃ。ほれ、左近、お主も近う寄れ、お主がその気なら、大膳と契りを結んでもよいぞ」


 ――夜明け。


 凍みる夜が明け、牢獄にも朝日が射し込んできた。


 カケルと、菅沼定忠、大膳の父子は、3人鏡餅かがみもちのように身を寄せあって、夜の寒さをなんとか生き長らえたようである。


 カケルはガタガタ白い息を吐きながら、


「御内義様は寒さをしのぐ毛布もくれないなんて、ホントに殺す気だったんだね」


 震える大膳がこたえて、


「これも戦国の習いよ。捕らわれた者は折檻せっかんにあうのがつねだ。寒さに耐えるだけで棒打ち、ムチ打ちがないだけ、御内義様の優しさというものだ」


「でもさ、大膳さん。この冷凍庫のような寒さ下手したら朝を迎える前にオレたち死んでいたよ」


 大膳は首をふって、


「御内義様がその気ならとらえた時に首を落として、城主の奥平定能殿へ我ら3人の首をとっくに差し出しておるわ」


 カケルはアゴに手をやり思案するそぶりをみせて、


「御内義様はいったいオレたちをどうするつもりだろう……」



 ――牢獄へ朝飯が運ばれてきた。


 具のない冷えた味噌汁と鳥のエサのあわ飯だ。


 それでもカケルと菅沼父子は生きるためにガッツいた。


「ワシは生まれて初めて粟飯を食った。百姓の暮らしがこれほど惨め(みじめ)だとは思いもせんなんだ」


 と大膳が不満を漏らした。


 カケルが、


「オレも田峯城でとらわれてた時に粟飯をはじめて食べた時は泣いたよ。でも、大膳さんの田峯はまだ良心的な方で味噌汁は温かかった。でも、ここは……シクシク……」


 定忠が、


「作手亀山城が、米蔵いっぱいに米俵を山と積み上げておるという噂のカラクリは、こうして百姓から絞れるだけ絞っておるからやもしれるな」


 カケルが、冷たい味噌汁をすすり上げ、


「かわいそうに……」


 とポツリともらした。



 と、そこへ、牢番がやってきた。


「おい、嶋左近、御内義様がお主と話があるそうだ。ついてまいれ」


 と呼びだした。


 呼び出されたカケルが連れていかれたのは、御内義様の屋敷の庭だった。カケルが牢番に連れて行かれると、御内義様は小高い丘の上にあるこの屋敷から里を見つめていた。


 御内義様の見つめる先は、貧しい農家の家々を巡っては若い一六、七の娘から、まだ、あどけなさの残る一二、三の娘の身柄を買い取って遊廓ゆうかくへ売り飛ばす算段さんだん忘八ぼうはち(遊廓の斡旋屋)だ。


 御内義様は里の様子を悲しく見つめて吐き捨てるように、


「武田もこうか……」


 とカケルへもらした。


 カケルは、


「オレは武田の家臣になってまだ御館様には会ったことがないからよく分からないけど、少なくともオレの仕える山県のオジサンは信用出来る人だよ」


「そうか、山県殿は信用出来るか」


「まあ、仕官したてのオレを信用して、ムチャぶりばっかりしてくるけど、大事な時には必ず助けに来てくれるおとこだね」


 御内義様は忘八に売られ行こうとする娘たちを指差して、


「左近よ、お主ならばアレをどうさばくな?」


 カケルはキッパリと、


「今すぐやめさすね」


「それは戦国の秩序を破ることになるのだぞ」


「戦国の秩序は関係ない! 貧乏だからって、女の子が売られて行くのは間違ってる。今すぐ止めなくちゃ!」


 カケルは、里へ向かって駆け出した。


 里へ着いたカケルは、娘を連れていこうとする忘八を呼び止めた。


「忘八さん、その娘さんたちをどこへつれていくんです!」


 忘八は、そんなこた分かりきったことを聞きやがって、めんどくせぇなと、ペッとツバを吐き捨ててから、


「そんなこた決まってまさぁ、金で買った娘は、遊郭へ売り飛ばす算段でさぁ」


「そんなことしたら娘さんのお父さん、お母さん、姉弟たちが悲しむじゃないですか」


「兄ちゃんなにを世間知らずなことおっしゃっているんです。この娘たちはね、その父親や母親に売られたんですよ」


「えっ!」


 カケルには、実の父親や母親が金のために、実の娘を遊郭、現代でいう、風俗へ沈めるなど信じられないことだった。


「兄さん、貧農は日照りや水害で、米が収穫できなくても、御領主様は年貢をとりたてる。ない袖はふれやせんったって年貢の取り立ては待ってくれません。兄さん、収穫のない年はどうすると思います?」


「年貢を減免してもらうとか……」


 忘八は、呆れた顔して、

「はぁ? そんな甘っちよろい話がありますか、侍つうのわね。弱い者から容赦なく奪い踏みつけにしてその上にあぐらをかくのが侍ですよ」


 ゲームであこがれ、教科書の歴史を得意がって、知ったつもりになっていた侍の実態を突きつけられたカケルは、頬を張り飛ばされたような気持ちになった。


(だが、この娘さんたちを見てみぬ振りはできない)


 カケルは、娘たちを救い出す決心を固めた。


「忘八さん、どうやったら娘さんたちを遊郭へ売り飛ばすのを待ってくれますか? 」


 忘八は、呆れ果て、


「金さえ払えば娘たちを返しますよ」


 カケルは、それなら簡単と手を叩いて、


「だったら話は簡単だ。1人いくらで買い戻せますか?」


 忘八は、娘たちを値踏みして、


「そうだな六兵衛の娘はまだ売り物にならぬから30両、新八の娘は細工がイマイチだから客もつかない壺女郎だから20両、定吉の娘はイイ体をしておるで50両、孝吉の娘は器量良しで上玉だから100両ってところかの。あわせて、200両ってところだ」


 カケルは腕組みをして、う~んと思案顔。


(オレも山県のおじさんに仕官してるし、武田の赤備えの先鋒大将だ。それに、寄力に田峯城の城主の菅沼父子をつけられるほどに信頼されてるんだ。きっと、オレの知行(給料みたいなもの)もそれぐらい払えるぐらいはあるだろう……)


 カケルは決心を固めて、


「わかった。その200両オレが払うよ」


 忘八は、バカが引っかかったシメシメと、舌を出し、


「オレっちは、明日の朝には娘たちをつれてここを立つから、それまでに200両耳を揃えて用意してくだせぇよ。へへへ」


「明日の朝だね分かったよ必ず用意するよ」


 カケルは二つ返事で契約した。



 つづく



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