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376『裏切りの城攻め 仁十郎脱出』(カケルのターン)

 新堀城を取り囲む筒井の陣太鼓が大きく鳴り響いた。家老の森好之の願いを聞き入れた筒井順慶が、一斉攻撃に反対する一門衆筆頭の慈明寺順国との狭間で迷いながら決めた決断だ。


 順慶の一門衆の意見に心を揺さぶられるには理由がある。まず、第一に戦国の世の中では、例え近親者であっても裏切りはよくある。しかし、順国ら筒井の一門衆は、かつて、松永久秀にその居城筒井城を奪われる失態をして流浪の身になった時、主と仰ぎながら匿った恩がある。第二に筒井家は奈良の興福寺の門籍を束ねる身分だ順慶をはじめ順国とその一門衆で、門徒を束ねる要職を固めていること。そして、順慶には子が出来ず、順国の嫡男・藤松を養子縁組し後継者に据えたことがある。


 筒井家当主の順慶ではあるが、順国をはじめ一門衆が寄ってたかって支えねば、その足元はすぐにグラつくのである。


 もちろん、佐近をはじめ土豪の3家老、森好之、松倉右近は武勇・内政に見事な手腕を発揮し、敵対していた松永久秀を生駒山系の信貴山城に閉じ込めるのに活躍している。


 順慶は、内的には一門衆を頼りに、外敵には3家老を頼りにしていた。



 なにしろ、大和国と大坂・堺へ通じる河内国をつなぐ間道に居する松永久秀が曲者だ。これまで織田信長に味方してすり寄ったかと思うと、時世によっては反旗を翻す内股膏薬うちまたこうやく者だ。


 はじめ久秀は、畿内(山城、大和、河内、和泉、摂津)を治める管領の細川氏の家老の身にあり力を蓄え、その立場を奪い取った三好みよし長慶ちょうけいに仕えてその政治に軍事に外交にその手腕を発揮した。


 三好家でも実力を示し、先の将軍・足利義輝暗殺、東大寺焼き討ちの実行役を、子の久通とともに行ったと聞く。


「戦の力なき権力者は滅ぼしてしまえ!」


 それが、久秀の哲学だ。



 そんな実力主義の久秀であるが、三好家への忠義は本物だった。確かに長慶が天下人と都唄に上がるほどの実力者であったこともあるが、長慶が没した後を継いだ弟・十河そごう一存かずまさの子・義継を頂いて、急速に力を弱めた三好政権を良く守った。


 久秀の忠義は、長慶でも義継であっても天下人に一番近い男の側に仕えることにあったのではないか。


「わしは出来れば、戦などしとうはない。早く、戦国乱世を終わらせて、もっと大事なこの国の行く末を左右する政治に打ち込みたいものよ」


 と、息子の久通や側近には漏らしていた。



 久秀が居する信貴山城は、大和と河内の間道にあると先に述べた。は、この交通の要衝に座して、両方に睨みを利かせている。大和の筒井や、河内の畠山に隙あらば奪い取るつもりだ。


 幸い現在は、急激に版図を広げる尾張の織田信長が畿内をほぼ勢力下におき、将軍の足利義昭すら中国の毛利氏の元へ追放した。


「次の天下人は信長じゃわい」


 久秀は、そう睨んで、掌を返し、織田家の家臣に順慶と共に収まった。


(久秀は、いつぞろ裏切るかもしれぬ……)


 それが、筒井の見立てであるが、当の信長は、切れ者のこの久秀を凡庸な順慶よりかっている。それは、信長の元で大和国守護に任じられた原田直政もしかりである。



 そんな内外に敵をもつ順慶が森好之の進言を聞き入れて、新堀城内で暗躍する左近のために、一門衆の反対を押し切って、一斉攻撃にでた。


 筒井の一斉攻撃を食らった新堀城内は、慌ただしくなった。今までてんでバラバラに攻めていた筒井軍が、全軍呼応して責め立てたのだ。筒井の兵はおよそ6000人。守る新堀城は例え鉄砲で武装していても精々500だ。戦では、必勝の5倍をはるかに超えている。


 一丸となった筒井の兵に、戦巧者の下間頼廉も眉を寄せた。


 頼廉は、堺の会合衆・今井宗久を使って、筒井家の一門衆を金で釣り、順慶に霞友団結して力を削いでいた。それがあるからバラバラに攻め寄せる筒井の兵など、臨機応変に城内の鉄砲を差し向け集中砲火で簡単に撃退出来ていたが、まとまるとやはり数に劣り劣勢に追い込まれる。


(そろそろ、この城も潮時か……)


 頼廉は、大坂石山本願寺に本拠を置き、信長を苦しめつづける本願寺ほんがんじ顕如けんにょに文を出した。


 ”新堀城の役目はそろそろ潮時にございます”


 若い僧侶に、文を持たせて、顕如に伺いを立てる使いを走らせた。



 その頃、仁十郎を無事奪還した左近は、自分は残って火薬庫に火をつけ、そのどさくさに紛れて、大膳と義平と仁十郎が西の今池の船で脱出する手配に取り掛かろうとするところであった。


 そこに、頼廉からの文を携えた若い僧侶が現れた。


 大膳も、義平も、仁十郎も衣服は、五箇荘の町から新堀城に逃れた町人から盗んで、町衆の衣服で変装している。若い僧侶も疑うところがなく。


「おい、船頭、私は今から大坂へ行く。はよう船を出せと命じた」


 大膳は見るからに、戦場を駆けまわる日々で良く日に焼けて、船頭と言っても誰も疑わない。義平もしかりである。ただ、仁十郎は嶋家で内政を主に扱うため、老爺ろうやとしても船頭には似つかわしくない品位をもっている。


 僧侶が仁十郎を不審に思って尋ねた。


「おい、老爺。お前は船頭ではないな」


 大膳と義平の目付きがギラついた。


 しかし、仁十郎は、急に咳き込んで見せて、「はい、私は五箇荘の者でございますが、風邪をこじらせて、息子夫婦に路銀をもらい、戦が終わるまで、堺へでも逃れて静養して待って居よとのことでして」とそう言いながら白髪頭を掻いて、懐から六文銭の首輪を僧侶に握らせた。


 六文銭はあの世の三途の川の渡し賃である。


 僧侶は、仁十郎から六文銭をもらうと、懐にしまい込んで、「かまわん老爺、そなたも乗せてやる」と了解した。


 仁十郎たちを乗せた船は、今池を渡り、向こう岸に着いた。


 向こう岸に着いたら先に大膳が降り、僧侶を前と後ろで挟み込む形で、義平と囲んだ。


 僧侶は怪訝に、


「船頭、どうした?」


 大膳は、当たり前のことを言うように、僧侶に右手を出して、


「へえ、お坊様の渡し賃をまだ頂いてございませんで」


 大膳の言葉に、僧侶は首を傾げた。


「どういうことだ?」


 すると、大膳は、いきなり僧侶の鳩尾に拳を打ち込んだ。


 僧侶は、悶絶うって前のめりに倒れた。


 大膳は、悪びれもせず、僧侶の懐から、文と仁十郎が渡した六文銭を取り出すと、義平に文を預け、仁十郎に六文銭を返し、自分は僧侶の身ぐるみを引っぺがして僧体を身にまとった。


「義平さん、お主は、この僧侶を縛り上げ、仁十郎殿と嶋家の陣へ戻り、そいつの持ってる文をお虎に預け筒井の殿さまに見せるため、家老の森好之に渡すように伝えてくれ、そしてお虎の代わりに嶋家の采配を振るってくだされ」


 義平は、疑問の表情を浮かべて、大膳に問い返した。


「大膳殿は、これからどうするので?」


 大膳は義平の言葉に嬉しそうに、


「そりゃ、決まっておろう。新堀城に戻って相棒の佐近と一暴れするのさ」



 ドカンッ!


 大膳の言葉が終わるや否や、新堀城の火薬庫が大爆発し黒煙を上げている。


「おお、左近の奴めてはずどおり、火薬庫を爆破しおったわ。これで、頼廉の鉄砲も無限に撃ちつづける訳にはいかなくなる。おもしろくなってきたぞ」


 義平は、大膳に心配の顔を見せ、


「大膳殿、殿を頼みますぞ」


 仁十郎もつづいて、


「大膳殿、佐近を無事に連れ帰ってくだされ」


 と、丁寧に頭を下げた。


 大膳は「がはは」と笑って、


 船のかい(オールのようなもの)を掴んで


「ワシの得意の金棒とは違うが、この櫂なら変わりが務まるだろう」


 と、握り具合を確かめ振るってみせた。


 大膳は、主・左近を心配する義平と仁十郎をしっかり見て、


「では、ワシは左近に助太刀しに参る。あやつだけ活躍させるのは、この剛力無双の菅沼大膳の宝の持ち腐れであるからのう。わっはっは~」






 つづく




どうも、こんばんは、星川です。

今夜のあとがきエッセーは自戒も込めた一筆です。


『やるせなさの正体』


週末、大阪の友人と会う。バンド活動という名目で、ただ二人、音を重ねる時間。


私は兵庫に住んでいるので、片道一時間。移動中は、スマホで音楽を繰り返し聴き、メロディと歌詞を身体に馴染ませる。平日も、空いた時間にカラオケボックスへ足を運び、何度も何度も練習する。


それでも、スタジオで録音が始まると、友人から容赦ないダメ出しが飛ぶ。

「違う、音が外れてる」


彼の言う通りだ。音がずれている。けれど、二年間、毎回同じことを指摘され続けると、少しずつ心が乾いてくる。


私は音痴だ。それは認めている。

だが、選曲が難しいというのもある。


友人が選ぶのは、知らないアニメソングだったり、昔の実験的な楽曲だったり、女性キーの難解なRAPだったりと、クセの強い曲ばかり。しかも練習期間は一週間。商品化するわけでもなく、誰が聴くわけでもない中年の趣味にしては、なかなかにハードルが高い。


それでも、私は彼に感謝している。

昔、私が精神を病んでいたとき、唯一そばにいてくれた友人だ。


だからこそ、なのだろう。

私は、彼の言葉の端々に、心を突き刺すような「無自覚な断絶」を感じることがある。


私はもともと、三人の素人でバンドを始めた。ギターさん、ドラムさん、そして私。0から成長していく過程をYouTubeで追っていく、ドキュメント形式を想定していた。


だが、思うように成長できなかった。そこで、友人にベースとして参加してもらった。彼はギター歴25年のベテラン。私としては「手伝ってくれるだけでいい」と思っていたのだが、彼の“できて当然”の空気は、他のメンバーにはプレッシャーだったのだろう。


ギターさんは真面目に教室に通い、地道に練習していた。

けれど、友人が休憩時間に何気なく弾いた洒落たフレーズに、ギターさんは「自分の無力さ」を見せつけられてしまった。


翌週、彼はグループラインから静かに抜けた。


ドラムさんも同様だった。

「僕、8ビートしか叩けません」と言った彼に、友人は休憩時間に見事なドラムプレイを披露した。初めてとは思えないほどの感覚的な演奏。


その翌日、ドラムさんも去った。


もちろん、去る側にも事情はある。方向性の違いもあれば、やりたいことの優先順位もある。だが、私は思う。あの時の一言、あの時の態度が、相手の自尊心をそっと傷つけてしまったのではないかと。


その後、友人の知人がギター&ボーカルとして加わり、オルタナティブ路線に舵を切った。私はタンバリンか、せめてコーラスを担当することになった。


しかし、その新メンバーも、やがてフェードアウトしていった。録音された自分の声やプレイに、恥ずかしさが勝ったのだろう。


結局、また二人に戻った。


ふと気づく。

私も友人も、無意識に相手に「現実」を突きつけてしまう癖があるのだ。


私はYouTubeという現実を見せる。

彼は技術の差という現実を突きつける。


そこに悪意はない。けれど、優しさも足りなかったのかもしれない。


プロのバンドが解散する理由に「方向性の違い」とあるが、その奥には、こうした“言葉にならない小さな傷”の積み重ねがあるのだろう。


だからこそ、私は今も悩み続けている。

「人をぞんざいに扱う人」にやるせなさを感じるのではない。


“無自覚なぞんざいさ”が、人と人とのあいだを、音もなく切ってしまうことに、やるせなさを感じているのだ。


〈了〉


本編でもこのあとがきでも面白いと思われた方は、Xでリポスト、


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いただけると喜びます。


粗削りで、リライトは必要だが、ウチの出版社で書籍化しようじゃないかとのお声がけあればよろしくお願いします。

売り方次第では、1億越えの作品になる素養を秘めていると自負しています。ぜひ!

それでは、また、来週に

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