370『カケル、仁十郎奪還作戦と覚悟』(カケルのターン)
新堀城の内側は、五箇荘をも大きく囲んだ外柵と、土塁の上に積み上げった曲輪柵を巡らしている。その内側中央に下間頼廉と僧兵が寝起きする坊館と、南は侵入経路に立ちはだかる壁のように銃口を固定する目抜き窓がついた一向宗の門徒が住まう長屋が数棟、比較的安全な今池のある西に倉、北面にも長屋があり、西には虎口がある。
仁十郎を探すカケルたちは、南北の長屋と坊館にめぼしをつけた。
カケルは、菅沼大膳と都築義平を集めて、探索の手分けを話し合った。
「城主の頼廉さんに顔が知られているオレと大膳さんは南北の長屋を探索しよう。一番難しいけど、坊館を顔の知られていない義平さんに頼みたい」
「左近、ワシは、南の筒井本軍が何を手間取っておるのか見てみたい。だから、南へ行く」
と、大膳は言った。
「それじゃあ、オレは北の長屋、義平さんは一番用心が必要だけど、坊館を頼みます」
「殿、東樋口殿を見つけたらどういたします。ここを抜け出す段取りは出来ておりますので?」
「それなんだけど、一つ考えがあるんだ」
と、言ってカケルは大膳と義平を耳を寄せるように手招きした。
しばらく話し合いカケルは、大膳と義平の目を見て互いに頷いた。
夜も更けて来た。起きているのは寝ずの番の坊官ぐらいだ。広場の焚火には毛布で身を包んだ一向宗の門徒が身を寄せ合って暖をとっている。
(必ず、この一向宗の城に仁十郎叔父さんはいる!)
カケル、大膳、義平はそれぞれの持ち場に向かった。
南の長屋へ入った大膳は自分の目を疑った。
ここは、雑兵、一向門徒の集う長屋ではない。壁面に点、点、点と感覚を開けて、小窓がありそこには片膝を折り、鉄砲を構えて攻め来る敵を狙い撃ちするための工夫が施されている。打ち手一人につき、鉄砲が二挺用意されている。目ぬき窓の横に次に打つ火縄銃が立てかけられるように銃立てが窓の数だけ用意されているのだ。
(どおりで、本軍が土塁にすら近づけないはずだ)
大膳は、長屋へ入ると、五部屋に二十人づつぐらい集まって休んでいる百姓や漁民、罪人の身元明らかならぬ一向宗の門徒の顔をそれとなく見て回った。
(仁十郎殿は、ここにはおらぬか)
カケルの入った北の長屋の多くは五箇荘から逃れた町の人間が多い。ここには鉄砲職人や女子供が多く、以前の潜入で見知った顔も多い。
カケルは、顔を隠すように寒さから顔と耳を隠ように包被りして口元、首元を隠している。
(ここにも、仁十郎叔父さんは居ないようだ……おそらく、義平さんの向かった坊館になるか……これは、難しくなるな……)
坊館へ向かった義平は、髷を落とし頭を剃り上げて、どこで手に入れたか一向宗の坊官の姿かたちに扮している。本願寺の坊官と言えども、本拠地の石山本願寺は純粋な坊官が徘徊しているが、この支城に居る坊官は数人は確かに頼廉の弟子かも知れないが、そのほとんどは、戦場の中で働き大きく門徒から昇進したにわか坊官だ。”南無阿弥陀仏”を唱えるぐらいしかできない者も多い。逆に義平の方が僧帯が馴染んでいるぐらいだ。
と、そのにわか坊主の集団の中に、青く頭を丸めた見慣れた顔があった。仁十郎だ。
義平は、それとなく近づいて、仁十郎に背中合わせに座った。
忍んだ声で、「東樋口殿、義平にござる。お助けに参った」
仁十郎は、義平の声に、聞こえているのか聞こえていないのかわからぬぐらいの独り言で呟いた。
「殿も来ておるのか?」
「私と殿と菅沼殿の三名にございます」
「脱出の手立ては?」
「やって見なければわかりませぬが。妙案でございます」
「倉に火を掛けるつもりであろう」
仁十郎の口から出た”倉”の言葉に義平は驚いた。仁十郎も脱出の手立ては、火薬倉に火をつけどさくさに紛れて抜け出すことを考えていたのだ。
「それでは、東樋口殿も?」
仁十郎は、大きく頷いた。
「しかしだ、頼廉の慧眼がそうたやすくはそれを許さん」
「どういうことでございますか?」
「火薬庫には常に頼廉の真の腕の立つ弟子が立って居る。時には、頼廉自己から警備に立ち寄ることもある。ワシも試みたが一筋縄ではいかぬよ」
「では、他の案を考えねばなりませぬか」
仁十郎は、静かに首を横に振った。
「他の手はない。この城を落とすにはそれが唯一の手段だ」
義平は、承知したように頷いた。
「それでは、その手筈で左近殿と大膳殿に繋ぎを付けて、準備に取り掛かります」
すると、仁十郎が、義平に言った。
「ワシは、ここに残る」
義平が目を見開いた。
「我らの目的は東樋口殿の救出が本願。残してゆくなどできません」
仁十郎は、嬉しそうな微笑みを浮かべて濁り酒の入った盃をグイッと開けた。
「いいや、義平。我らの目的は、新堀城を攻略すること、ワシの命を救うことではあるまい。ワシがここを離れれば、城主の頼廉はすぐに気がつく。それほどの慧眼を持つ男だ。あやつを欺くにはそれなりの犠牲がいる」
義平は、困惑した表情をして、「東樋口殿それでは……」
仁十郎は、徳利の酒を盃に注いで、クイッと飲み干して、小便でも行くように立ち上がって、義平の肩を叩いて言った。
「国元に残した古女房のお良には、いずれ、左近殿の子供を養子にでももらって家を頼むと伝えてくれよ」
と、ほがらかに言った。
義平は、潤んでくる涙を袖で拭って、仁十郎の覚悟と自分の役目を果たすため、夜の待ち合わせ場所の広場へ向かった。
つづく
どうも、こんばんは、星川です。
今日は、雑記を書いてみました。
『ロックンロールが鳴りやまない』
血気盛んな若い頃は、今は昔、どんなに偉い人相手でも、立場をわきまえず思ったまんま放言を放っていたオレも、50歳も目前に迫りずいぶんまるくなってきた。
同級生をみれば、子供が結婚した。末っ子が高校を卒業した。孫が出来たと報せが来るようになった。
「おいおい、自分でお爺ちゃんだなんて老け込むには早すぎるぜ」と軽口を言うと、「お前はイイよないくつになっても自由人で」
オレはと言うと、「生涯現役!」宣言をし、今だ何者でもない『夢想家』を名乗り金にならない三文小説を書いている。年齢も経験も重ねたがオレの心の中でロックンロールが鳴りやまないのだ。
友人たちは、年相応に老後を考え始めている。
50歳も目前となれば、健康診断で検査をすれば、あっちやこっちに支障が出てきて、医者に再検査しましょうとすすめられることが増えた。
それに引き換え、オレは、昨日、バンド仲間から「神聖かまってちゃん」を教えてもらい「ロックンロールが鳴りやまない」を初めて聞き、「うおおおおー---! これがロックだ!」と、20代前半のような衝撃を受け感動している。
人生、守りに入る気はまだまだこれから、始まったばかりだ。
と、言うのも、昨年12月に兄がなくなり両親、兄弟の直系家族がいなくなった。
前々から自称していたが、マジで家族がいなくなった。(少し寂しい……)
しかしだ、オレには夢がある。小説家になることだ。(夢を見るには少々、年齢を重ねすぎてはいるが……いい加減、目覚めろ!)
50代のピーターパンだなんてシャレにならん。どちらかと最近では、海賊船の船員を食わせるフック船長のほうが子供たちを夢の中へ連れ込むピーターパンより、現実を生きるフック船長の方が正義に見えるように解釈が変わってきた。
ピーターパンは好き勝手して、ネバーランドの秩序を自由気ままにぶち壊す存在で、フック船長は強権的ではあるけれども現実を生きてる。
ほら、昨今の物書き界隈では、作家業だけでは食っていけないから、もし、受賞しても仕事は辞めるなと口を酸っぱくしていわれる。
「一攫千金を目指して書いた小説が、一攫千金にならないなんてポイズンだぜ」
作家業も夢がなくなったものだ。
でも、あれだ。最近のライトノベル時代。WEB小説時代に入って、だれでも作家になれる、門の間口が広くなって、レッドオーシャン化しているかと言えば、そんなことは芥川龍之介の時代から、食えないのは当たり前で、本業の合間に書くのは当たり前、むしろバブルの頃の流行作家たちが異常だったのではないかと思う。
まあ、突き詰めれば政治が悪い。(詳しく書くと面白くないし、税務署に狙われちゃうから書かない)
なんかね、本が売れないのは枠にはまって上手い作品ばっかりで、ポンコツ作品がなくなって、ばかばかしいのがなくなって、とにかく詰まんないのだ。
なんか、わけわからんが勢いだけの作品がないのだ。
「最近の曲なんてもクソみたいな曲だらけさ!」
神聖かまってちゃんじゃないけれど、なんかわからんけど、おもろいのがない。
しかも、おもろないのを忖度して、おもんないと言わない風潮が蔓延している。
だったら、お前が書けよって話なんだけど……「オレの作品は編集者の好奇心すら誘わないらしい」素直に小説教室に通おうかしらん。
とにかくさ、俺よりおもんない作品が出版されて、俺の作品が箸にも棒にもかからない状況はクソだ。
いや、これは放言! 現在は、黎明期とは違って円熟熟熟、枯れ落ちようとしている時期だから、実験作、挑戦作を試せないのではないか。
みんな、上手くて失敗のないプロフェッショナル。賢いヤツばっかりで、アホがおらんから、いや、むしろアホを存在しない者としようとしている感がある。
アホは、世の中に必要! アホは世の中の隠したい事実、確信を突くからハッとさせられることを言う。
アホは、放言を吐く。危ない。穏やかな賢い人間の秩序を脅かす。
でも、それが賢く生きる人が胸に秘める真実の言葉だったりするのではないか。
「みんあ、もっとアホになろう!」
オレは、みんながロックンロールを歌いだしたら「北酒場」を歌うけどね。
〈了〉
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それでは、また来週。