『364 裏切りと策略の夜、仁十郎奪還作戦(カケルのターン)』
空に月が登た。新堀城を攻める南の長尾街道に陣取る総大将で昼の主・筒井順慶と交代で、夜の大将は叔父の明慈寺順国が受け持つ。その順国が陣取る夜の陣に順慶の娘婿の十市藤政が。客人を連れ陣幕を入ってきた。
客人は、やけに背が高い男で藤政より頭一つ頭抜けている。
「堺の会合衆・今井宗久様からの使いで、千利休と申す者でございます。今夜、西の今池を渡り城へ弾と弾薬を運び入れる手筈に許可を求めています」
千利休、現在の羽柴秀吉のちの豊臣秀吉の元で、商人の才覚で吏僚として力を振るう漢である。現代へも繋がる茶道の家元としての千家としての方が有名だろうか。この時は、会合衆の中でも若手であった。
利休は、順国に三方(正月の鏡餅をのせる台)に山と積んだ大判を渡した。
順国は、「うむ、苦しゅうない。左京之介に手配するように伝えよ」と言って藤政に頷いた。
藤政は、利休に、「順国様の許可が下りた。左京之介に今池に船を用意して、夜陰に紛れて、新堀城に弾薬を運び入れるように手配いたす。利休、それまで、今池の西で待て」と、命じ利休に何か要求するように手を出した。
利休は頭を掻いて、「十市藤政殿もなかなか商売上手でんな」と、大判を一枚渡した。
新堀城の北面、北花田に陣取る嶋左近隊から
、東樋口仁十郎の小物頭梅吉が陣を出て小便に出ると、とそれより西に陣取る布施左京之介の陣に、南の筒井の足軽が走り込むのを見つけた。
梅吉は、「何事じゃ?」と小便をさっさと、済ませて、こっそりと後をつけた。
左京之介の陣に走り込んだ足軽は、懐から藤政の手で書かれた文を渡した。
左京之介は、自己の小物頭に、「今池に船を準備しろ!」と命じた。陣幕に隠れて聞いていた梅吉は、話しの真意は計りかねるが、「これは何かある!」と思い込んで、主・嶋左近のジンへ駆け込んだ。
「殿、一大事でございます!」
ちょうど、仁十郎奪還作戦に誰がどうやって新堀城に入るか話が煮詰まってつづきは明日に話し合おうとなって今夜の軍議は解散しようとしていた時だった。
梅吉の報告を聞いた山県お虎は、目を剥いて、「今池に船をだせ! とは、すなわち、新堀城に何かを運び入れるとしか考えられん」
菅沼大膳が、金棒をドスンと一発、地面を突いて、「左京之介め、こざかしいヤツとは思ってはいたが、まさか、味方を苦しめる手助けをしていたとは夢にも思わなんだ。左近、どうする?」
カケルは、腕を組んで俯いて思案した。
お虎、大膳、柳生美里、北庵月代、都築義平、梅吉が、カケルの次の言葉に息を飲む。
グーッ、スピスピ……。
お虎の目が光った。大膳の眉が吊り上がった。美里が腰の刀に手をかけた。義平は真剣な目で答えを待っている。月代は微笑ましく見守っている。梅吉は主・嶋左近が何か思案しているのか、眠っているのか半信半疑な表情を浮かべている。
グーッ、スピスピスー……、完全な寝息だ。
お虎が、怒声を含んだ声で、「左近、眠っているのではあるまいな!」と問いただすが返事はない。
お虎は、大膳に目配せをした。大膳は、大きく頷いて、「左近、お虎と、美里殿と、月代殿が湯あみに入ったぞ」と耳打ちした。
カケルは、パチンと目を開けて、「それは、一大事! 大膳さん、すぐに物見に出よう」と立ち上がった。
お虎と、美里と、月代が、大膳を汚い者でも見るような軽蔑の視線を向けている。
大膳は、自分を弁護するように、顔色を変えて、「ワシも左近も男じゃ、女子の裸は皆好きじゃ。これは、天孫降臨の古から続く当たり前の男の楽しみだ。
お虎が、拳を鳴らして、「大膳、お前は左近をそそのかして、そんなことを楽しんでおったのか」と睨みつける。
大膳は、慌てて取り繕うように、「ワシは、佐近を起せと言われたから、男なら誰でも目が覚めるたとえ話をしただけだ。決して、お虎の裸が見たいわけではない」
お虎は、腰の刀を抜刀して、「菅沼大膳! ここで、手討ちにしてくれる。そこに名折れ!」
「いや、待て、お虎の裸を覗いていたのはワシだけではない。それなら左近も同罪じゃ!」
カケルは、居眠りするほど睡魔に襲われていたのだ。大膳の話は半分しか聞いていない。
「何の話?」
と、素直な目で大膳に聞き返す。
お虎は、赤鬼の如く、「やはり、変態なのはおまえだけではないか!」
大膳は、「待て、お虎、ワシは変態ではない。女子も好きなら衆道(戦国時代は、戦場において男性同士で関係を持つことも多かった)も好きじゃ。誤解するな」
お虎は、一気に気持ち悪い者でも見るような軽蔑の視線で、大膳にいつでも一閃放てる距離に間合いを詰める。
「あっ、そうか。左京之介さんが船を出す手配をするなら、それに一緒に乗って新堀城に侵入しちゃえばいいんだ」
お虎は、カケルの閃きに目を見開いて驚いた。
「そうだな、いつもながら左近の閃きには驚かされる」
大膳が、不満そうに、お虎に小言を言う。
「お虎、お前は、ワシと左近に対する態度がまったく違うではないか!」
お虎は、当たり前のことを聞くなと言った表情で、「当たり前だ。寝言は寝て言え!」と冷たく切り捨てた。
「よし、今夜、左京之介さんが今池に手配する船と荷を奪い取って、オレ、大膳さん、そして仁十郎さんに恩がある義平さん一緒に乗り込もう」
とカケルは言った。
お虎が不服そうに、カケルを問い詰める。
「連れが、都築殿はわかる。後の一人が、どうして私ではなくて、この大馬鹿者の大膳なのだ」
大膳が、胸を張って自信満々にお虎に、「ワシと左近は、一番長い付き合いだ。いくつもの戦場を共にし、いくつもの枕を共にした。切っても切れない言わば夫婦のような間柄なのだ。なあ、左近」
カケルは、真顔で首を横に振り「義平さんを連れて行くと、嶋家の兵を預けられるのは、お虎さんしかいないから」とお虎に信頼の目を向けた。
「わかった。引き受けよう。それはそうと、大膳。私は長い付き合いのお前より左近に信頼されているようだな。わっはっは~」
大膳は、フラれた女のように悔しくてハンカチでも咥えるような顔をして、「左近、ヒドイ!」と喚いた。
カケルは、笑って、「大膳さんは、オレの背中を預けられる相棒だから、付いてきて欲しいんだ」と口説き文句のようなことをサラッと言った。
大膳は、恋する乙女のように体を震わせて、「わかった。左近、ワシはどこまでもお前についてゆくぞ!」と胸を張った。
つづく
どうも、こんばんは星川です。
カクヨムコンテスト10の執筆・連載も終わり『異世界で大逆転ポジラー』https://kakuyomu.jp/works/16818093087328359644の連載も1月21にちを持って見事完結いたしました。
うれしいような、さみしいような、初のナーロッパ異世界転生物です。
私、おじさんですから、最近のざまぁ系や、悪役令嬢とか、無双系の異世界ものが何が面白いのかわかりません。そこで、思いっきり正統派の異世界ものにしました。
最近は、気をてらうのが当たり前になって、逆にコメディ×王道がいいんじゃないかと思いました。それが、読者に受けるかわかりませんが、おもしろいっすよ。
私事ですが、次の新作は現代劇を考えています。どこかのたぶん紙媒体の賞に出すので内容は言えませんが、やはり○○×コメディーです。
そうそう、最近、出力ばかりでインプット全くできてない状態がつづいておりました。先日、戯れにテレビをつけると、師匠の名前、これは師匠が時代物書けって言う宿題を出された気がしました。
原作の2つのエピソードを織り込んで、勝手にオリジナル書いてるんです。
今、やったら怒られるで!
と、思ったのですが、師匠が昔語っていたのをおもいだしました。
脚本家は、オリジナルを書ける。原作はあっても、脚本家に著作権があるのは、キャラクターと部隊を借りてオリジナルの物語を紡ぎだせるからなんや。
と、言ってたのを思い出します。
2,30年前の時代劇は、原作があってもほとんど脚本家のオリジナルなんんですよね。原作の生き血を啜りエッセンスを生かして作り上げる。
それが、映画やドラマ。アニメは知りませんが。その代わり、原作以上におもろくなければいけません。
視聴率も獲れなきゃなりません。
原作をなぞってるだけでは脚本家ではありません。
師匠、大御所に勝負仕掛けててんなぁ。恐ろしい人や。
改めて、師匠の凄さを思い知りました。
それでは、尻切れトンボですが、また、来週に