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362話『仁十郎奪還作戦!』(カケルのターン)

 下間頼廉の元に人質として残った嶋家の家宰・東樋口仁十郎は、新堀城内の牢獄に囚われるものと思っていたが、僧侶の頼廉にはそんなつもりは毛頭なく、仁十郎に特に見張りも着けず、城内を自由に歩かせた。


(下間頼廉という男は、まったく大器の人だ。これでは、筒井は敵うまい……)


 仁十郎は、城内を自由に歩きながら、頼廉の巧みな籠城ろうじょう戦を目の当たりにした。


 筒井順慶と一門衆が南から、もり好之よしゆき、松倉右近の両家老は西からは、カケル(嶋左近)と目付に付けられた布施ふせ左京之介さきょうのすけは北面から間断なく攻めるが、南は人の背丈の2倍ほどある土塁と柵、西は五箇荘ごかそうの町につながる殺し場の入り口を入ると、三方向から鉄砲を浴びせる虎口こぐちが容易に突破出ず、筒井の兵は次々に倒されてゆく。


 北面のカケルたちは、普段は後方支援、小荷駄隊こにだたいを任される左京之介によって、カケルの閃きも、お虎と菅沼大膳の武勇も封印するように、戦局を見守って待機一辺倒だ。




 仁十郎を人質にとられたカケルの陣では、仁十郎付きの小者頭、松之介、竹蔵、梅吉が、自分たちだけでも命を賭けて主・仁十郎奪還の作戦をさせてくれとしきりに申し出てくる。その度に、カケルは、「仁十郎さんは、そんなこと望んでない」と言って聞かせるだが、この忠臣たちは譲らない。


 判断に困ったカケルは、お虎と大膳、柳生美里、カケル(嶋左近)不在の間、仁十郎とともに嶋家を守ってきた都築義平、医者の北庵月代を集めて相談をはじめた。


「仁十郎さんを奪還したいと、小者頭がしきりに『奪還作戦』の任務をあたえてほしいと何度も願い出てくるけど、みんなどうしよう」


 カケルは、素直に皆に尋ねた。


 お虎と大膳は、難しい顔をして黙っている。美里も月代も兵站や戦術については専門外だ。義平が、膝をすすめて切り出した。


「東樋口殿は、嶋家の柱石ちゅうせき、左近殿が武田へ参られておる間、家を守ったのは東樋口殿あったればこそ、小者頭たちが申すように、見殺しにはできませぬ。某も小者頭たちと同じ気持ちです」


 義平は、これまで仁十郎が居る間、これという自分の言葉や思いを言う事はなかった。それは、家宰である仁十郎の采配を信じて働いた経験と結果が信頼としてあるからである。この控え目な男が、「仁十郎を奪還したい!」と自分の心情を吐き出したのだ。これは、カケルがいない間嶋家を守った人間すべての総意だろう。


 カケルは、真剣な目で訴える義平と小者頭たちの気持ちを思えば、二つ返事で引き受けたい。しかし、今、カケルは仁十郎が背負ってきた嶋家の人間500人の命を預かる重さを背負たのだ。これまでのように、嶋家の経営を仁十郎任せにとはいかない。自分が先頭を切って仁十郎奪還に動く訳にはいかない。自分が動けないならば、代わりの人間に動いてもらうしかない。それは、一己の武勇を持ち、機転が利き、例え失敗して死んだとしても痛くもかゆくもない人材……。


 カケルは、師である山県昌景の顔が浮かんだ。


(山県のオジサンは、オレに無茶ブリばっかりするしてたけど、こういう胸の内があったのか、そうだな、山県の家の者には任せにくい。オレのようなどこの馬の骨かわからない馬鹿がちょうどいい)


 カケルは、嶋家の面々の顔を順番に見た。


 お虎さんは、山県のオジサン直伝の軍師格、常に側にいてもらって相談に乗ってもらいたい。


 大膳さんは、武勇は抜群だけど、オレと一緒で頭が悪いから一人では務まらない。


 美里さんは、柳生の剣術の腕、機転の良さ……、適任だけど、オレに協力してくれているだけで、柳生家の客分だからダメだ。


 月代さんは、知恵は回るし、もしかするとスッと忍び込めるかもしれないが、本物の嶋左近さんが愛する女性だ。それに、オレの愛する月代ちゃんに瓜二つだ。こんな危険な任務に向かわせるわけにはいかない。


 そうなると、義平さん。武芸の腕は一流、仁十郎さんと嶋家を守った機転も利く、それより、誰より仁十郎さんの人柄を知る人物……でも、義平さんを行かせると、オレがいない間嶋家の兵を動かした操縦役がいなくなる。


「あ~、難題だ」


 と、カケルは、腕を組んだままひっくり返った。






 その頃、新堀城内は、頼廉の巧みな本願寺の僧兵の操縦術と鉄砲の射撃によって、筒井兵の侵入を一切許さない。


 内側から、頼廉の才覚を見るにつけ、仁十郎は、「下間頼廉だけでも厄介なのに、鉄砲まであっては、この城は難攻不落。どちらかをなんとかいたさねば……」と心中で思い至った。


(頼廉殿には、ワシの郎党の命を救って頂いた恩義がある。暗殺などという卑怯な真似は出来ない。ならば、鉄砲をどうにか致さねばなるまい。それより、どうにか、「筒井の一門衆の中に裏切り者がいて、堺の商人を通じて、武器弾薬を新堀城へ運び込むのを見逃しておる者が居ることをどうにか左近に伝えねば……)




 カケルが、ひっくり返っていると、義平が進み出て、「左近殿、東樋口殿の奪還作戦を、某にお命じください。某一人で、新堀城に忍び込み、東樋口殿を救出いたして参ります。どうか!」


 カケルは、ヌッと起き上がって、「義平さんが、居なくなれば、誰が嶋家の兵の操縦をするの?」


 義平は、カケルを真っすぐ見つめて、「殿にございます」


 カケルは、引き気味に、「ええっ、オレにはまだムリだよ。義平さんが必要だよ」


 義平は、白い歯を見せて、「いや、殿は、あの武田の赤備え山県昌景隊の先鋒を引き受けたおとこ、これ以上兵を預かるに適任の人間は嶋家にはござらん。それに、私は、仁十郎殿には、昔、恩義がござってな。どうしても借りを返したいのです」




 つづく



どうも、こんばんは星川です。


10月3日から1月6日まで、およそ4カ月かかったカクヨムコン10への出品作品

『異世界で大逆転ポジラー』https://kakuyomu.jp/works/16818093087328359644

の執筆が終わり、久しぶりに『カケルと左近』の筆を執りました。


ナーロッパの世界観で執筆するのは初めてなので、どれぐらいのレベルで書けているかはわかりませんが、自己評価では、初めてにしてはそれなりに書けたんじゃないかと、まあまあ満足しております。

(自分に甘い)


さて、『カケルと左近』の久しぶりの執筆ですが、プロット書いててよかった。


4カ月も期間が開くと、話しの流れをすっかり忘れておりました。しかも、拙作は、週替わりでカケルのターンと左近のターンを両面で描く造りのため大河が2つでチト厄介な構造です。


久しぶりに書きましたが、やっぱり歴史物が自分には馴染むなあと実感しました。


私の書いたナーロッパ物は、日本で人気の ざまぁ 悪役令嬢……他は知りませんが、トレンドとは違います。狙ったのは、真田広之主演の『将軍』など海外展開されるリアル路線、あと、作者の性格的にユーモラスを織り交ぜています。


軽くて読みやすいかとおもいますが、KADOKAWAの各編集者の皆さんが狙うマーケットがどれくらいの規模で、どこに狙いを定めているかで、一攫千金、大漁旗にも、箸にも棒にもかからぬ結果と相成りましょう。


それでも、自分にできるベストを尽くして、真摯に書き上げました。


次は、公募用の作品にとりかかるので、ネット公開はありませんが、星川亮司。


今年も、がんばります!

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