36女たちは風と共に去りぬ(現代、左近のターン)チェック済み
34話から登場した、幼馴染みの松倉重政の名前を→松倉右近へ変更しました。
「あなたの正体は、戦国武将の嶋左近清興!」
放課後、高校の下駄箱で日本最古の神社三輪神社の娘、三輪巫女に突然呼び止められた現代の高校生、時生カケルと魂が入れ替わった戦国武将の嶋左近清興……。
「ほう、おもしろいことを申すな娘よ」
「かくしてもダメよ。わたしにはあなたの正体がしっかり見えてます」
「して、ワシがお主の申すとおり嶋左近清興としてじゃ、なにか不都合があるのか?」
「あるわ、先祖代々三輪の家は今を生きる人にとり憑いた悪霊を退治するのが仕事、嶋左近清興! あなたにもここで成仏してもらうわ」
三輪巫女はサッと制服を脱ぎ捨て白装束に水色同然の浅黄色の袴の神社の神職の姿へ変身した。カバンから神主のお祓い道具、オオヌサを取り出した。
「どういう理由で時生カケル先輩へとりついたか知らぬが、ここでわたしに見つかったが最後、おとなしく成仏いたすのじゃ! ……水神、雷神の属性を併せ持つ、大物主大神の名において、亡霊、嶋左近清興よ滅殺いたす!」
と、言うが早いか巫女がオオヌサを一振りすると、左近目掛けて白蛇が三匹飛び出した。
「何をいたす気じゃ、三輪巫女!ワシはお主に突然このような仕打ちに遭うことなどしておらん!」
「何を申す悪霊嶋左近清興、悪霊退散!」
三輪巫女が放った白蛇は左近の手足へ巻き付いて身動きの自由を奪う。
「聞け三輪巫女、お主はワシを誤解しておる」
「いいえ、誤解などしていないわ嶋左近清興。あなたは現にカケル先輩へ憑依したばかりか、その体を乗っ取り、カケル先輩の魂をどこかへ押しやってしまった。どこへやったカケル先輩の魂を! 」
左近を白蛇が締め上げる。
「ぬぬぬ! 聞き分けのない女子じゃ!」
左近は四体を締め上げる白蛇をその強い精神力で抵抗し一歩、一歩、また、一歩と踏み出して、三輪巫女を両手でぎゅっと捕まえた。
「なんという強大な霊魂じゃ嶋左近清興よ。わたしの手にあまるとは……」
と、その時、
「何してるのカケルくん!わたしというものがありながら!」
北庵月代にみつかった。もちろん月代には霊感がないから左近と巫女の攻防は見えない。左近をいや、カケルを締め上げる白蛇など見えはしないのだ。月代の目に移る光景は、息も絶え絶え、興奮したカケルが、多少、派手な神官のコスプレをした三輪巫女を力一杯抱きしめる様なのだ。
ましてや、月代はカケルに幼いころから積み上げてきた恋心がある。つい先ほども東京へ進学するつもりの自己に一緒に来てほしいと打ち明けたばかりだ。カケルの心は自分にあるものと確信があった。それがたまたま通りがかった下駄箱で、この光景だ。愛する男の裏切りを目の前で見せられたのだ。プライドの高い月代は許せない。
月代は、左近と巫女の情熱的に抱き合う光景に、ツカツカツカと歩み寄ると、2人を引き離し、
パチンッ!
と、左近の頬を張り飛ばしてきっぱりとこう言った。
「カケルくん、失望したわ。こないだのわたしと同じ大学へ来てほしいって話、もう、忘れてちょうだい。今日限り、絶交よ」
と、左近に言い残して去っていった。
「おい、月代殿これは誤解じゃ」
左近の言葉はもう届かない。
左近と月代のいきさつを見守っていた巫女は、
「嶋左近清興、今日のところはわたしの負けだ。だが、次こそは必ず成仏させてやる覚悟しろ!」
と、勝手に言い捨てて、これまた去っていった。
そして、女はいなくなった……。
わけのわからない女(三輪巫女)に絡まれて、左近にとっても身体の主カケルにとっても愛する女月代に絶交されこれからの事態に頭を抱え意気消沈だ。
(カケル殿の月代への思いはおそらく見当はずれなこともあるまい。三輪巫女の申すように、ワシが亡霊でカケル殿の身体に憑依しているのならば、神主の祈祷によって成仏させられてもしかたあるまい。だが、カケル殿、月代殿には仲睦まじゅういてもらいたい。何とか致さねば……)
「おい、カケル!」
と、そんな左近が頭を抱えているところへ幼馴染みの松倉右近が声をかけてきた。
(なんだ右近か……)
左近は、今は右近のバカ話につきあってられないと返事もしないで言うなりに任せ黙っていると、
「(耳打ちするように)おい、カケル。頼みがあるんだけどな、再来週の日曜日、オレたちサッカー部OBとなった3年生と、2年生1年生の混成チームと練習試合することになったんだけど、カケルも参加しないか?」
(えっ? ワシはカケル殿であってカケル殿ではない戦国武将の嶋左近清興であって、サッカー、戦国の世にあればあの軟弱な公家大名、今川氏真が得意であった蹴鞠とか申すものであろう。やったことがない断ろう)
と、左近が断りの言葉をつきかけた時、
「北庵月代も見に来るぞ! だから、お前もくるだろ? ということで人数に入れとくから頼んだぞ! 」
と、右近は「ナイスアシストだろ?」 という表情を浮かべて去っていった。
そして、やっぱり誰もいなくなった。
つづく