表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
356/400

356『下間頼廉と仁十郎の馬鹿仕合(カケルのターン)』

 新堀城の広間に、僧衣を背中にたすき掛けで帰還した下間しもずら頼廉らいれんと、高屋城の武将、遊佐ゆさ信教のぶのり重臣おとな田中兵左衛門(嶋左近の叔父、東樋口ひがしひぐち仁十郎じんじゅうろう)が向かい合った。


 頼廉は、控える仁十郎に向かって問うた。


「高屋城は先頃、落城したと聞く。して、田中殿の主、遊佐信教殿はいかがいたした」


「は、我が主、遊佐信教は、城を撃って出た最中さなかに、城主の三好みよし康長やすながの織田方・松永久秀の調略により裏切られ、後背こうはいを突かれ散り散りになり、我らはこうしてこちらへ逃げ参った次第にございます」


 頼廉は、仁十郎の話を、瞬きもせず見定めていた。


 どうやら、頼廉は、仁十郎の話を疑い半分で警戒して聞いているようだ。


(下間頼廉という男は、相当に手強いようだ。ワシの芝居がどこまで通用するか、いや、芝居などしておっては、頼廉の懐には入れない。ここは、何か頼廉を一発で信用させる決め手がないとどうにもならぬ)


 仁十郎は、腹を決めて頼廉に申し出た。


「我らは、南無阿弥陀仏の本願寺の僧兵とは違う。こちらの厄介になるのは不本意にござる。我らは、武士にござれば城から討って出ることがあれば、我らに先鋒を申し付け下さりたい!」


 頼廉は、仁十郎の目の奥をのぞき込むようにしっかりと見定めて、静かに言った。


「お主、死ぬ気か?」


 仁十郎は、淀みのない目で頼廉を見返して言った。


「左様にございます。我らも本願寺と手を結び織田家と事を構えた時より、命は南無阿弥陀仏に預けてございます」


 そう言うと仁十郎は、腰の短刀を引き抜いて、自分の白髪交じりの髷を切り落とした。


 仁十郎の覚悟に、頼廉は、深く頷いた。


「うむ、田中兵左衛門殿、そなたの兵一人一人の名前を伺いたい」


 と、頼廉は、紙と筆を持ってこさせ、仁十郎の兵の名前を一人一人確かめた。


 そして、頼廉は数珠玉を持ってこさせ、自己おのれで筆を取り、一つ、一つ、丁寧に、名を刻んでいった。


 頼廉は、100人全員の名前を刻み終えると、「よし、これで田中殿、そなたの兵も某の兵となった。皆、阿弥陀様に守られておる。御仏を信じて戦をすれば死して極楽は約束された」


「我ら高屋城の敗残兵を迎え入れて下さり、かたじけのうございます。我ら高屋の兵は、これからは頼廉様と共に、阿弥陀仏を信じて戦いましょうぞ」


 と、心にもない言葉を発した。


「うむ、田中殿、そなたは信用できる。新堀城を囲む筒井の兵は、南の筒井順慶本隊はそれほど屈強とも言えぬが、東の家老、森好之、松倉右近の兵は中々骨がある。それよりも、そなた達を北面より追撃した先ほどワシと一騎打ちを演じた大男と女武者を従える若造が、どんな手を使ってくるか先が読めぬ。歴戦の雄のそなたには、北面の若造に備えていただきたい。よろしく頼むぞ」


 と、仁十郎は、カケルと対峙する持ち場に配置された。




 夜更けて――。


 仁十郎は、声を潜めて配下の3人小頭に命じた。


「よいか、新堀城が恐ろしいのは、有り余る鉄砲と弾と弾薬だ。おそらく、この城中のどこかに倉がある。お前たちは、それとなく城兵と話をして、倉の在処ありかを聞きだすのだ。梅吉、竹三、松之介危険な仕事だが嶋家のため頼んだぞ!」


 と、間者かんじゃ放った。


 梅吉は、五箇荘から逃げて来た平職人に酒を持って近づいた。


「おう、我らは、ここでは新参ゆへ勝手がわからぬ。酒でも飲みながら色々教えてくれぬか?」


 職人と言うものは、呑む・打つ・買うに目がない。酒が入れば、次第に饒舌になり、ポロリと知ってることなら気さくに話して聞かせるものだ。


「鉄砲倉なら知ってるが、ここでは鉄砲は皆、頼廉様のお弟子の僧兵が一挺いっちょうごとに管理しているから、俺たちがどうこうする話じゃねぇーぜ」


 と、こぼした。



 竹三は、イモリの塩焼きを持って僧兵に近づいた。


 僧兵は、皆、頼廉を慕っている。簡単に情報を教える者はない。一向宗の門徒は、南無阿弥陀仏を唱えれば、あの世で阿弥陀様が助けてくださるというものだ。漁師や、猟師、罪人だって救われるのが一向宗だ。肉を食らうことだって許される。


「僧兵殿、弾や弾薬はどちらにござるのです。我らがこちらへ逃れてくる際、放たれた弾は少なくはなかった。どのようにして、筒井に包囲された状態で調達いたしておるのでござるか」


 僧兵は、イモリを噛み切りながら竹三に耳打ちした。


「実はな、筒井の兵の中に手配する者がおるのよ」


 竹三は、目を丸くして言葉をつづけた。


「なに? 筒井に裏切り者がおるのか?」


「そうよ、筒井の喉元には、金で動く人間が侍大将におるのよ」


「なんだと、侍大将におるのか!」


 侍大将とは、カケル(嶋左近)のように数百人を指揮する武将のことを言う。筒井家で考えれば、家老の森好之、松倉右近、他には、一門衆の誰かが想定される。


「それは、一体誰なのだ?」


 僧兵は、首を静かに振って答えた。


「某のような一僧兵には、そこまでの情報は入ってこぬよ。イモリの塩焼きありがとうな」



 梅吉から鉄砲の管理、竹三から武器弾薬の調達の話を聞いた松之介が、難し顔をした。


「つまり、際限なく新堀城が鉄砲を撃ち込んでくるのは、筒井家に裏切り者がいるのだな。よし、梅・竹、お前たちは先に仁十郎様にその旨を報告せよ。ワシは、組しやすい重臣おとなを見つけて、倉の場所を聞きだしてみる」



 つづく













どうも、こんばんは星川です。


ついに、『カクヨムコンテスト10』が始まりました。


参加作品は『異世界で大逆転ポジラー』です。


拙作を執筆するに当たって、人気作品をリサーチしたのですが、日常であったり、ざまあであったり、職業者……と、ニッチな作品が多いので、「私にはそんなニッチな作品は書けない」とそうそうに諦めて、古き良き90年代のテイストの王道・異世界転生物を出品することにしました。


理由は、最近リメイクされた『ドラゴンクエスト3』が80万本売れていること。やっぱり、王道あってのニッチ。それに、WEB小説界隈はニッチばかり花盛りで、王道どこ行った!


ぐらいで、探すのに苦労する始末。


そこで、私はやはり王道で勝負です。


小説化になろうさんで、カクヨムオンリーで上げる作品を宣伝するのは、憚られますが、マジで応援してください。レビューポイント☆つけてください。


『カケルと左近』の読者の皆様ならば、面白く感じるはず。現在、8万字超えて、12万字で結末。工程的には12月中に下書きで完結できるはず。


体調崩して、病院送りになったりとかしなければENDマークまで確実です。


現在、エピソード4まで公開しています。


1話2000字前後、たまに、3000字ぐらいのエピソードもありますが、短く仕上げています。


毎日、お昼12:00最新話を公開いたします。


ぜひとも応援してください。



では、現在2024/11/30 18:15分。『カケルと左近』のストックに取り掛かります。


それでは、また来週に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ