321 鶴岡山砦の猛虎とその妻 山県昌景からの伝言(左近のターン)
鶴岡山砦の物見やぐらにのぼり、砦の主、下条智猛はその虎のような鋭い光を眼下に広がる山道の登り口につらなる小さな棚田が点在する山の裾野に光らせている。
その瞳はリンリンと輝き、何者の侵入も許さないといった眼光である。
と、そこへ、家老の伊右衛門が、下条智猛のいる櫓へのぼってきて声をかけた。
「殿、お方様が眼をあけられました」
そのことばに虎のような眼光が一瞬ゆるんだ。
「うむ、スグに戻るゆえ伊右衛門しばらくここの見張りを頼む」
そういって櫓をおりた。
智猛の向かった先は、江戸時代でいうところの陣屋。この戦国期では館といった。いわば、鶴岡山の主の館である。
「信代、信代よ、目を覚ましたか」
そういって智猛は、鶴岡砦の館の一室に、武田菱の家紋が入った袋に入った守り刀を枕元に置いた智猛の正室信代が、病にでもふしているのか面やつれして、玉のような汗をかき、侍女に額の汗を手拭かれている妻の信代のもとにやってきた。
智猛は、侍女にたずねた。
侍女は、静かに首をふって、
「お方様は、一度、目をあけられましたがスグこのように、額に汗をして、また、眠りにはいられました」
智猛は、落胆したように、深いためいきをついて、
「どうしてだ、なぜ、信代は目をまともに開けられぬのだ。国中のどんな医者にみせても、体に悪いことろはないというばかり、どうすれば信代は目をさますのだ」
智猛にそういわれた侍女は、首をたれて、
「お方様は、アレ以来、口を閉ざされたきり粥すら口にされません」
智猛は、悔しそうに膝をたたいて、
「うむ、そのことはワシも心くるしい。だが、それも、戦国のならいではないか、ワシにはどうすることもできぬ」
侍女は、信代のおおつぶの汗を拭いてやり、目をふせて静かにこたえた。
「お方様と私は、武田の家から智猛殿様さまに輿入いらいのつきあいでございます。お方様は殿さまのお心は身に染みてご存じにあられます。しかし、あのことだけは、どうしても手放したくなかったのでございましょう」
信代は、武田信玄が侵略した領主の中の一人が生んだ美貌の側室であるが、母に似てとても美しく、信玄の血を受け継いだのか聡明あった。、武田家中でも重臣の倅たちが「ぜひ、わが妻にと引く手あまたな娘であった」
智猛は、宙をにらんで、ながれだしそうな涙をこらえて、
「アレのことは、本家の裏切りゆえ遠山一行が、病がちの信代ではなく、跡継ぎの智千代でなくてはならぬと言うキツイおおせじゃ。ワシがいくら戦場で活躍して忠誠を見せようとも本家の裏切りのこともあり信用されんのだ」
「智千代さまは、右足がうまれつき不自由ではございませんか、それをなぜ無理やり引っ張っていかれたのでございますか」
「遠山殿は、どうしてもワシを手駒としておいておきたいのよ。そのようなことはせずともワシは信代がおれば裏切ることなどありえぬのに」
侍女が、悲し気にこたえた。
「武田の女のお方さまと、智猛の殿さまは、もとは敵味方。たとえ、どんなに愛しおうてもなさぬ仲。それをお方様が智猛様を一目見て気に入り強情をはり、あの武田の御屋形様をご自身で説得いたしまして嫁にはいられましたゆへな」
その頃の智猛は、たしかにたくさんの戦で兜首をあげるほどの光るものはもっていたが、悪い癖で、兜首はあげるが、その足軽たちは槍を奮って威嚇するだけで、ほとんど追い払ってしまった。それは、確かな武勇ではあったが立身出世を狙う直属の重臣からは嫌われていた。、どんなに兜首をあげてもかんたんに上役に手柄をくれてやり、騎馬を任されるほどの身分にはなりえなかった。出来た小頭として、それはせいぜい、五人、多くても十人しか従えないでしかない強いが欲のない男であった。それをどこで聞いたかのか、智猛の人柄を一目で気に入った信代が聞きつけ父である信玄を自ら口説き落として嫁となったのだ。
「うむ、ワシの武勇があるのは、一身に並以下の男であったワシを信代が励まし、支えて、くれたから今がある。なんとしても信代が眼をあけてくれねばこまる」
「はい、智猛の殿さまのお気持ちは、わたしならずとも家中の者すべてぞんじております。智千代さまのことさえなければ……」
「そうだ、智千代と信代さえここにおれば、ワシは、敵に、あの武田の赤備え山県昌景がおってもそうかんたんに負けることはない」
「殿!」
そういって、家老の伊右衛門が、見張り櫓からおりてきて片膝をついた。
「見張りはどうした伊右衛門!」
「はい、それが武田の陣地から、たった一人で山をのぼってココへ参った者がおります。いかがいたしましょう」
「武田のワシを調略しようという使いか? それなら、ワシは武田へくだることなどないと負い返せ」
「いえ、それが、どうやら今回の使者は、殿に大事なものを返しにきたともうしております」
「ワシを大事なものを返しにきただと?」
「はい、そして、コレを」
と、伊右衛門は懐から、二つの文を取り出し差し出した。
その内の一つを開いた智猛は、
「これは、ワシが遠山殿へ宛てた文ではないか、そのものはコレを知ってそうもうしておるのか」
「おそらく」
「この文は、わかるがもう一つの文はなんだ?」
「もう一つの文は山県昌景からの伝言であります」
「なんだと、山県昌景がワシになんのようだ?」
「某にはわかりません。ただ、『任せておけ』と一言」
「使いの者はまだおるか、その者にすぐに会う」
「武田家 山県昌景が家来、島左近ともうすようにございます」
智猛は、遠山一行に宛てた文を握りつぶしてた。
「うむ、一度、左近と申す者に会ってみよう」
つづく
『超めでたい凱旋:おかえりおすず!』
2024年3月30日 選曲『超めでたいソング』(FRUITS ZIPPER)
今日、兵庫県の西宮ガーデンズへ推し事へ行って来たでござる。
なんと、西宮が生んだスーパーアイドル鎮西寿々歌殿が、FRUITS ZIPPERのメンバーを引き連れ凱旋致したにござる。
(はッ! 小説家でなろうで、このサムライ言葉の言い回しだと、左近の口調に思われてしまう。詳しくは、カクヨムの方で『スポットライト:金の微笑みと黒い涙』って短編上げたので、あちらで星川亮司で検索みてちょ♡)
で、文体を普通に戻す。
本日、星川は、芸人目指してる友人連れて、リリイベ(4月10日CDリリースのイベント)に行ってきました。
西宮は、星川の住むダウンタウンの川を挟んで、お隣だからスグ行ける。
友人の都合もあり、⒘時からの2部からフリー観覧(無料)させていただきました。
会場は、西宮ガーデンズ。関西でも、1、2を争う大商業施設で、昔は、阪急ブレーブス(現在のオリックスバッファローズ)の本拠地、西宮球場跡地に立つ。周辺経済人口は160万人を誇る。主要駅は阪急西宮北口。
(関西は、大阪ー神戸間を、三本の鉄道会社が凌ぎを削っている。ここからは、星川の独断と偏見です。南から、労働者階級の阪神電車、真ん中をサラリーマンのJR、北を富裕層の阪急電車が走っている。)
その4階フロアーの木の葉ステージが会場だ。木の葉に見立てたスチールの大きな屋根と、壁面にコンクリートの階段のような客席、イベントの無い時は、噴水広場となるステージ。最大収容人員1,000人くらいだろう。
木の葉ステージは、関西のアーティストの登竜門のような会場だ。ここを一杯に出来たら、次は2,000人規模のなんばハッチが見えてくる。大事な試金石的な会場だ。
と、言っても、すでにFRUITS ZIPPERは武道館2DAYSを控えているから、ここは、運営さんが、「アイドルやるまで死ねない!と、覚悟を決めてFRUITS ZIPPERの活動に挑んだ、おすずの夢一途を叶えてやろう」と言う、暖かな親心だろう。
その気持ちに、答えるように、今日は晴天快晴、コートを脱いで外を歩けるほどの陽気だった。
フリー観覧する星川と友人は、無料なので、ファンの皆様の邪魔にならぬよう。最後方の隅っこでステージを待っていた。
フリー観覧エリアは、FRUITS ZIPPERのステージの背中に当たる。背中から、着席していらっしゃるファンの方を見ると、皆さんしっかりサイリウムを持ち、中には、推しカラーのTシャツ(名前入りの方もいた)。
一方、こちらの背中側は、結構、おもしろかった。
日曜だと言うのに、制服で来ていた中学生? 猫耳をつけた熱心なファンの方、そして、二度見したのだが、買い物用の車いすを押したお婆さんがチラリと顔を出されていた。
「へー、さすが、おすずの地元だねぇ」
と、感心していたらステージが始まった。
内容は、詳しくは書かないが、おすずの凱旋ステージだ。
どの曲も、おすずの気持ちが歌に籠っているように、胸に詰まるものがあった。
すると、友人が、
「どうしたんです星川さん、人間の心を持ってるみたいにウルっとして」
「いやねぇ、オイラね、FRUITS ZIPPERの始め知ってるからツイ浪花節に目覚めちゃって」
と、目を半袖で拭った。
ステージは中盤、るなぴ(仲川 瑠夏)が、おすずの凱旋を盛り上げるように最後の曲『超めでたいソング』のコール!
「おめでとう!」→「おかえり~!」
に、言い換える演出をする。
すると、友人が、
「どうしたんです、星川さん、目から水が漏れそうですよ。故障ですか?」
と、問う。
星川は、また、半袖で目を隠して、
「ちゃうわい、ただの花粉症だい!」
と、強がった。
「超めでたいソング」も、いよいよ、クライマックスを迎えた。
「おかえり~!」
前後左右の客席が一体となり、おすずを出迎えた。
ステージ中央で、スポットライトを浴びて歌うおすずの瞳には、涙が光っていた。その姿を見た瞬間、胸が熱くなり、思わず目頭が熱くなった。
この先は、背中からは見えないので、詳しく書かないがとても感極まるものがあった。
「いいねぇ~地元への凱旋。とてもいい」
と、星川が、腕を組んで、瞼を閉じて、これまでの FRUITS ZIPPERの軌跡を思い出しながら、うんうん頷いていると友人が、
「あれぇ~、星川さん、クライマックスで、うたた寝ですか、ホントやる気ないんだから」
と、言われ、どう思ったかは、私と読者だけの内緒事である。
〈了〉
それでは、
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では、また、来週!