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314高屋城攻防戦:信長に尽くす原田直政と命を惜しむ筒井順慶の選択(カケルのターン)

 元旦の朝、京の都は炎に包まれた。織田信長の軍勢が、足利義昭を追い落とすために、宮中や寺社を焼き払ったのだ。義昭は、将軍の地位を剥奪され、中国地方の雄・毛利氏に助けられて柄の浦に逃げ延びたが、そこで諦める気はなかった。復権のために、各地の反信長勢力に糸を引いていた。


 義昭が最も期待したのは、大坂石山寺に籠もる本願寺顕如だった。顕如は、浄土真宗の教えに従って、信長の権力に抵抗する一向一揆の盟主として、多くの農民や武士を率いていた。義昭は、顕如に接触して、信長に対抗する同盟を結ぶように働きかけた。


 義昭の構想は、かつての信長包囲網を再現するものだった。信長を大坂の石山本願寺、摂津の池田勝正、讃岐の十河一行、阿波の三好康長、紀伊の雑賀孫一、そして、河内の遊佐伸教に囲ませて、一気に叩くのだ。


 石山本願寺と雑賀宗は、信長にとっても手強い敵だった。彼らは、南無阿弥陀仏の念仏で心を一つにし、死を恐れずに戦う猛者たちだった。それだけではなく、彼らは、信長と同じく新兵器鉄砲を駆使するのだ。時には、織田の鉄砲隊を上回る腕前を見せることもあった。


 本願寺を攻めるには、長期戦になることは必至だった。長期戦に耐えることができたとしても、東の武田勝頼が動き出したら、信長は東西から挟撃される危機に陥るだろう。信長は、東西に厄介な敵に囲まれていた。


 信長は、まずは河内高屋城を落とすことにした。高屋城は、本願寺の補給路を遮る要衝だった。信長は、伊勢から柴田勝家、近江坂本から明智光秀、山城から細川藤孝、そして、河内の隣国大和から原田直政と筒井順慶に兵を動かした。


 高屋城は、古墳を利用した堅固な三層構造だった。本丸は、古墳の上に築かれ、二の丸は、本丸を取り囲んでいた。三の丸は、二の丸を含めて高野山への道を守っていた。攻める方向は、大坂からの天王寺、住吉、下八尾の三方だった。


 天王寺と住吉からは、大坂に拠点を持つ石山本願寺と、紀伊に勢力を広げる雑賀宗の二手に分かれて攻められた。大和側の支流石川のさらに支流が流れる高屋城の攻め口は、下八尾を任された大和衆の仕事だった。


 大和川を下って、河内国分に陣を張った原田直政と筒井順慶、松永久秀は、信長の苦戦を知って、信長本軍の撤退を助けるために、敵の注意を引く作戦を立てた。


 死に物狂いで戦う一向一揆と鉄砲を相手に、原田直政は悩んだ。東から高屋城に矢を放つだけならば、難しくなかった。しかし、住吉と天王寺で南北から追い詰められる信長本軍を逃がすには、殿軍を引き受ける者が必要だった。北を本願寺、南を雑賀衆、東を高屋城に囲まれて追われる殿軍は、生きて帰れる見込みがなかった。その役目を引き受けられる兵といえば……


 原田直政は、筒井順慶と松永久秀をじっと見た。順慶は、原田直政の言葉に不快感を隠さなかったが、うつむいた。久秀は、自分の功績を認められたことに満足したが、殿軍の役目を引き受ける気はなく、眉をひそめた。


 原田直政は、深いため息をついて、視線を定めて、こう言葉を続けた。


「のう、筒井殿。お主は、先ほど蘭奢待の切り取り工作に成功したが、久秀のように兵を失ってはおらぬ」


 順慶は、直政の言葉を遮るように、


「あいや、筒井は筒井なりに苦労をしております」


 原田直政は、眉を寄せて、松永久秀に問いかけた。


「我らは対本願寺のために鉄砲を調達し、訓練に明け暮れております。こんなところで殿軍を引き受けて、鉄砲隊の精鋭を無駄死にさせるわけにはまいりません」


 直政は、久秀も言葉に差し支えないと頷いた。


「とのことだ、ワシもおおむね同じ考えじゃが、筒井殿、大殿のため、お主、殿軍を引き受けてはくれまいか。お主が引き受けてくれるのが一番頼もしいのじゃ」


 この原田直政の申し出は、順慶に自分の命を捨てろと言っているようなものだった。


 これには、順慶に付き従う家老の森好之が憤った。


「あいや、おまちくだされ原田殿。大殿から命じられた蘭奢待の切り取りの朝廷工作は、一万両もの工作費用が掛かりました。これは鉄砲を用意した松永殿の功績に全く劣る功績ではありますまい。我ら筒井と松永の功績はほぼ同列に評価されて然るべきにございます。此度の殿軍を引き受けよとはあまりにもの仰せ。我ら筒井としても、大殿への忠義はあれど簡単には首を縦へは触れませぬ」


 森好之の言葉を聞いた原田直政が覚めた目をして順慶を睨んだ。


「筒井殿、お主は、とても良い家臣をお持ちの用だ。ここまで主人思いの家臣を持つと、確かに、おいそれと命を散らさせるわけにはいかないであろうな」


 直政にそう言われた順慶は顔を上げた。


「原田殿は、筒井にどうしても殿軍を任せたいようにございますな」


 直政は、順慶と久秀の態度に苛立ちながらも、どちらかに殿軍を引き受けさせる方法を考えて、顎を摩った。


「いや、そうは申してはおらぬ。ただ、筒井殿なら見事役目をやってのけようという信頼からだ」


 順慶は、苦虫を噛みつぶしたような表情で、


「わかりました。大殿を逃がす殿軍筒井が引き受け申す」


 と、そこへ、


「ただいま、蘭奢待切り取りの役目を終えて、嶋家50駒帰参いたしました」


 カケルと嶋家の面々が陣幕に現れた。

皆さん、こんばんは星川です。本日もあとがきエッセー載せておきます。


『競馬はギャンブルじゃなくて戦略だ』


友人というにはおこがましいが、よく世の中のことを教えてくれる人生の先輩がいる。


人生の先輩は、まずは競馬を教えてくれた。


競馬はギャンブルだから止めた方がいいのはわかっているが、人生の先輩の競馬は一味違うのだ。



競馬にはG1、G2、G3という馬主に入る賞金額の高いレースがある。


ボクは、2、30代のころ師匠とこのG1だけは二人それぞれ日刊スポーツを広げて1着から3着までを当てる3連単を買っていた。


買うのは600円だけ、自分の読みと勘を鍛える目的で買っていたのだ。


師匠は、新聞の隅々まで読んで、狙いすませて買い目を絞る。ボクは、なんとなく新聞を読んで買う。


勝率は、師匠より勘で買ってる僕の方が勝率がいいので不思議だった。


それが、好事て馬券を当てるより、競馬雑誌になにか書いた方が回収率はいいだろうと、「男の読みと女の勘」でどこだったかは忘れたが、ボクが初稿を書いて師匠に手直しをしてもらい馬券以外で小遣い稼ぎをしていたぐらいには、競馬をたしなむ。


と、言っても、競馬はギャンブルだとちゃんと認識しているので、ボクは最近、人生の先輩の隠していた実力を垣間見るまでやめていた。



人生の先輩は61歳、白髪で細身、ボクが175cmほどであるが見上げるから背が高い。バブルの前ぐらい。当時、人生の先輩が高校生の時にバイト先で『うどん屋』が儲かると友人から聞いて、高校を中退してすぐ『うどん屋』をはじめたほど目先と行動、思い切りがよい性格だ。


バブルのころの商売は、なにをやっても儲かる時代だった、儲けを遊びで使い果たして借金するような遊び人でなければ、必ず食っては行ける時代だった。


人生の先輩は、その頃に、相当儲けたのだろう。店をたたんだ現在でも、着るもの履くもの着ける物が、目立たないようにワンポイントのマークだけの製品を選んではいるが、すべて海外の高級ブランドだ。


それでいて、人生の先輩は、回りは庶民ばかりのボクのいるコミュニティーに参加して、一緒にテニスを楽しまれたりしている。



ボクは、どちらかと言うとおしゃべりに見えるが、極度の人見知りである。おしゃべりの仮面を被ったコミュ障だ。


だから、多数の人と話す時は、だいたい何の役にも立たない馬鹿話をしているのが常だが、ある時、他の人と競馬の話になって、若い頃、絶対王者のディープインパクトが走る2005年の有馬記念で、ディープを買わずに、ハーツクライという馬を勘で一万円買って17万ほどになったと言う話をしたらば、人生の先輩が興味をもって、


「星川くん、あのレース勝ったの?」


と、尋ねて来たから、


「はい、当時、日本へは期間限定の短期免許で来ていたルメール騎手の驚異的な勝ち方に注目していて、勝負しました」


と、言ったらば、


「星川くん、日頃話してる冗談だけじゃなくて、ホンマにおもろいね」


と、なぜか気に入られて、それからLINE交換して付き合いが出来た。



人生の先輩は、庶民的な値段でも美味い店を教えてくれる。フグとか、焼肉とか、マジで価格は安くてうまい店ばかり教えてくれる。


最近は、忙しくて生活に追われて、お付き合いできていないのだが、土日は決まって、競馬の予想を教えてくれる。


人生の先輩の買い方は師匠と似ているが、もう少し、ゆとりがある。


師匠は、1着から3着までを、着順が入れ替わってもいい買い方の3連単ボックスという買い方だったが、


人生の先輩の買い方は、1着に2頭、2着に4頭、3着に2頭の3連単フォーメーションという買い方だ。

(ボックスとか、フォーメーションの説明は割愛させていただく)



師匠と馬券を買っている間は気づかなかったのだが、この人生の先輩の買い方を見ている内に目から鱗が落ちた。


「あ、これ、物書きの見方と一緒だ」


脚本家の超大御所に橋本忍さんという方がいる。すでに亡くなられているが、世界の黒沢映画を支えた人物だ。


橋本忍さんは、漢を書かせたら右に出る者はいない。(たぶん……)


その橋本忍さんも、競馬ではなく競輪を嗜んでいた。


若い頃は、物書きはストレスたまるからギャンブルでパーッと発散してんのやろうと。師匠を見てもそう思っていたが、どうやら、そうではない。


橋本忍さんも、師匠も、人生の先輩も、ギャンブルなんかしていない。彼らは、戦をしているのだ。


戦とは大仰な表現であるが、競馬にも「孫氏の兵法」の基本知識が必要だ。


まず、東京、中山、阪神、京都、他に地方6ヶ所ある。


コースごとに、特徴がちがう。もちろん、天候も見ないといけない。騎手の腕、馬の状態、厩舎の調教、レース展開。読み取らなければならない要素は多数ある。その上で、彼らは、読み切って買うのだ。



で、今日、ボクも東京11Rデイリー杯クイーンカップを買った。


買い方は人生の先輩の買い方だ。


ボクの予想は、一着は横山武か川田。二着は横山武と、川田、ルメールと松山。三着は、ルメールか松山。


展開とか読みの理由と根拠は端折らせていただくが、1着は川田、2着はルメール、3着は横山和となり勝負に負けた。


横山兄弟の今日の力関係を間違えて負けた。


「うーん、まさか、横山武が逃げに出るとは思わなかった」


そんな、勝ちに行く大胆な騎乗ができるから横山武買っただけどね。結果、その弟、武のおかげか、お兄ちゃんの和が粘り込んで3着と相成った。


いやー、競馬奥が深いわ。


庶民が自分の頭を磨くには、ギャンブルだといって競馬を一概に拒否すべきではないと最近は思うようになった。

(まあ、本読んで行間がわかるように稽古すりゃいいのだが、『それを言っちゃぁおしまいだ』汗)


最近は、この人生の先輩にも稽古をつけてもらっている。ホンマ、世の中は人生の先輩、いや師匠ばっかりや。


〈了〉




では、ブックマーク、ポイント高評価、感想、いいね よろしくお願いいたします。

このあとがきエッセーはカクヨムさんで『戦国時代と現代のはざまで タイムスリップ歴史小説家 星川亮司の冒険と思案』と題してエッセー集としてまとめて行く予定です。そちらには、こちらのあとがきにはないエッセーも書いてゆければと考えております。そちらもよろしく。


それでは、また、来週に。

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