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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
一章 疾風! 西上作戦開始!
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30家庭裁判!わたしのことは母上じゃなくてママと呼びなさい!(現代、左近のターン)チェック済み

 食卓を囲む左近と、カケルの妹、清香が、母、清美が作ったデミグラスハンバーグをつついている。


 清香は、ナイフとフォークで、左近は、「そこは武士もののふナイフやフォークよ何するものぞ!」たくみに操ってとはいかずテーブルマナーも何もあったものではなく、ガチャガチャ音を鳴らして、デミグラスハンバーグを切っている。


「母上、このナイフとフォークやら申す小刀と、串刺し器具は、昔、バテレンの館で宣教師のオルガンティノ殿から作法を学んだのだが、ワシはいっこうに馴染めなんだ。すまぬが母上、箸を所望しょもうしたいのであるが」


 清美はあらまと、あきれた表情で、


「カケルは一体どうしてしまったのかしら、病気がどんどん進行しているのか、日に日に、戦国武将みたいな話し方になっていってしまう……」


 清美の嘆きに見かねた清香が助け舟を出した。


「お兄ちゃん、いくら精神の病気だからって子供の頃から、わたしの皿のデミグラスハンバーグを、自分の皿の人参とこっそり取り替えてまで食い意地悪く好んでいたのに、まるで、お母さんの味を初めて味わったかのように言うなんて信じられない」


 清美は、頬をしたたる一筋の涙を指でぬぐって、


「いいのよ清香、お兄ちゃんはそういう病気だもの仕方ない。わたしたち家族が、理解して上げなくちゃね」


 清香は、決然と、


「いいや、いくら病気でもはっきり言うところははっきり言わなくちゃ。だって、お兄ちゃん好きなゲームは今までどおりに出来るんだものそこまで悪くないわ」


 左近は、ナイフとフォークを戦国時代に宣教師のオルガンティノに学んだ作法にならって、皿の淵へぞれぞれ引っ掛けて食をやすめて、


「母上、清香殿まことにすまぬ。ワシはどうして二人の心を悩ませるつもりなど毛頭ないのだ。出来うるならばワシも清香殿が申すとうりこの世に馴染みとうあるのだ。どのように振る舞えば良いな?」


 清香は、頭をひねって思案して答えた。


「そうね、まずは言葉遣いかしら、自分のことを”ワシ”はだれがどう考えても普通の高校生じゃないわ。ワシなんて荒くれた河内弁を使う富田林市出身の田中先生ぐらいだわ。ありえないそこを直して!」


 左近は困ったような顔をして、


「清香殿、そうしたいのじゃがワシは自己おのれの呼び方を他に知らぬどう呼んだものか……」


「簡単じゃない。普通に”ワシ”をやめて”ボク”にすればいいだけじゃない」


「”ボク”にござるか?」


「そうよボク」


「ウ~ム」左近は腕組みして思案顔。そう、左近の頭の中では自己は、ヒゲの戦国武将、あの関ヶ原を徳川家康の大群相手に勇ましく、疾風怒濤! 敵陣目掛けて主槍大千鳥十文字を片手に駆けた”おとこ”なのである。それが、自己のことをへりくだって従卒を現す”ボク”だなんて、武士の自意識が許さない。ここは一発ガツンとそれは出来ぬと言ってやろうか……。


「それは出来ぬ!  と、申したい所であるが、清香殿の申し出を素直にお受けいたそう。そうだな、ワシは戦国武将じゃのうて清美殿の息子で、清香殿の兄君、時生カケル殿であるのだな。ワシの思慮が浅うござった。以後、自己がことを”ボク”と申すとしよう。清香殿、ほかにはござらぬか? せっかくの機会だ遠慮のうなんなりと申してくだされ」


 清香は腕を組んで思案顔。


「そうねほかには、その”清香殿”ってのやめてほしいわ。今までどおり、私のことは”清香”呼び捨てでいいわ。わたしはそれだけだけどお母さんも何かあるんじゃない?」


 左近は礼儀正しく居住まいを正して清美に向き合うと、


「母上、なんでも遠慮のう申してくだされ」


 と、頭を下げた。


「カケル、わたしはやっぱりその”母上”ってのがしっくりいかないわ。今までどおり”ママ”って呼んでちょうだい」


「”ママ”にござるか?」


 清美はニッコリ微笑んで、


「そうよママ。あなたをこの胸に初めて抱いたときに初めてしゃべった言葉」


 懸命な読者ならお分かりだと思うが、この場合の左近は先ほども記したように、見かけは平凡な中肉中背がいいところ細身の高校生、時生カケルである。だが、その内、魂は、190cmを越える体躯に類まれなガチムチの膂力りょりょくを誇る”疾風怒濤 嶋左近”なのである、しかも、関ヶ原の戦いにおいてはその鬼神の如き活躍から、徳川の天下となった後の歴史書からは抹殺された。


 同じ関ヶ原の戦いで対峙した福岡藩、黒田長政の家中では、徳川家康が禁じた嶋左近の詳細な活躍は残されてはいないが、一兵卒の口伝により、「かかれ! かかれ!」 騎馬隊の先頭に立ち家康目掛けて、徳川の布陣を切り崩す勇志が語り継がれたほどの”おとこ”である。軟弱な”ママ”と言う呼び名は、歴史背景的に齟齬はあるにはせよ左近の口には望めない。男のプライド、”誇り”が許さないだろう。


「カケル、ママって呼んで?」


 そんな左近の背景はいざ知らず、カケルの母、清美は、左近の手をギュッと握って愛おしそうに語りかけた。


 左近は、清美の目をまっすぐ一部の曇りのない瞳で見つめて、まるで告白でもするように、


「ママ……上」


 と、呟いた。


 清美は”ママ”と呼んでくれた嬉しさで、目尻のシワも気にせず微笑んで左近を抱きしめた。


「カケル、ママ上で十分。わたしはあなたがこの胸に戻って来てくれたことが何より嬉しい」


 ”グ~!”


 母子の情愛たっぷりのシーンをぶち壊すように左近の腹の虫が鳴った。


「カケルったら、仕方ないわね。さあ、ご飯にしましょう」


 左近は、清美にぐっと抱きしめられ、頬にチュ! っとキスをされ解放されるのだった。


 キスをされながら左近は、ゲーム関ヶ原で、田峯城城主、菅沼定忠の嫡子、蜂の巣大膳に敗れた弱い嶋左近ことカケルの起死回生の策へ思いを巡らせていた。





 一方、カケルのオートプレイのパソコンの冷却ファンが「ガガ、ガガ」と、異様な音を立てていた。





 つづく










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