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296 百姓たちの運命は? 血判状 岸川広家の裏切りに立ち向かえ‼(カケルのターン)

 岸川翔馬を人質として坂本城に捕らえおいた明智秀満は明智家の旗水色地に桔梗紋と、数本織田家の永楽通宝の旗を混ぜて、手勢300を率いて大原を目指し城を出た。


 大原へ着くと途中まで出陣していた岸川広家と合流した。


 広家は翔馬が居ないことを知ると秀満に縋るように尋ねた。


「秀満様、翔馬はどこに⁈」


 秀満は無表情に答えた。


「我が軍師 月光が事を終えるまで翔馬は坂本へとどめ置けということで人質に致した」


 広家はすごい剣幕で秀満に問うた。


「人質⁉ どうして翔馬が人質になどならねばならぬのですか!」


「此度、我らの援軍は主である日向守ひゅうがのかみ光秀の許しを得ないもの、城代である私の独断の合力だ。あくまで大原の一揆の鎮圧は岸川家が一人で行うことだ。我ら明智は、敵の威嚇のためのあくまで後詰を務めさせていただく」


 広家は驚いて、


「秀満様、それでは約束が違います。我らが大原の民に増税を敷いて明智に拠出するのは、こういう時のために、合力願うため、それでは何のために我らが明智様に税を拠出しているのかわかりません」


 秀満は冷たく、


「明智は約束通りこうして、援軍に来たではないか、広家殿、不満があるならば我らはこのまま引き返してもいいのだぞ」


 広家は、ぐぬぬと唇を噛んで、自分の膝を拳で怒りを抑え込むように何度もたたいて、


「いいえ、秀満様の合力、感謝します。大原は我ら岸川が全力で取り戻します。秀満様には、後詰として戦局を見守っていただきたい」


 そう言って、広家は自軍に戻っていった。


 広家の去った明智軍で秀満は、すぐに、月光に尋ねた。


「月光、これでよいのだな」


 月光は仮面の下で、静かな声で、


「いかにも、闘うのはあくまで岸川。我ら明智が織田家の旗を掲げて後ろにいるだけで、百姓中心の一揆勢は震えあがります」


「フッ、さすが未来を見通す軍師 月光だ。そなたの智謀には驚かされる」




 自軍に戻った広家は、若い郎党を見かけるなり、目を血走らせて、いきなり、


「明智秀満め、翔馬を人質にワシの足元を見おって、馬鹿野郎!」


 と、何も関係のない若い郎党を力いっぱい殴り飛ばした。


 さらに広家は、転げた若い郎党に馬乗りになって、その顔面を気を失うまで何度も殴り飛ばした。


 若い郎党が、口から血を吐き息絶えると、岸川はようやく怒りが収まったように立ち上がると、岸川勢30名に向かって号令をかけた。


「ええい、皆の衆、大原は自力で奪い返すぞ! 後ろには明智、織田家がついて居る。皆の者、百姓どもが二度と逆らう気が起きぬように徹底的に蹂躙して恐怖を植え付けろ!」


「皆、いくぞ!」


「おー!」


 岸川勢は、広家の号令に応えた。


「百姓の女は好きなようにして構わん、しかし、殺すな。我らが狙うは劉備お虎とその仲間どもだ。やつらを捕えてこの世の地獄を見せてやる!」



 大原の里の要塞化した楽造の屋敷では、楽造が伝えた人質の岸川翔馬の脱走で、宴会ムードが一気に冷めて、戦勝の祝杯をあげて歌い踊っていた百姓たちが青い顔してカケルたちを中心に話し合っていた。


 百姓の一人が、お虎に尋ねた。


「劉備お虎さま、例え、岸川翔馬が逃げても、その父親広家が血判した書状があるから、オラたちが京都所司代さまに申し出れば公平にオラたちの話がとおるのではねぇか?」


 お虎は、静かに首を振って、


「京都所司代の村井貞勝様の評判では、彼は高潔な人物ゆへ、岸川広家の血判を持ち込めば我らの申し出を聞き入れて仲裁してくださるだろう。だが、岸川広家はそれより先に我らを攻めてくる。攻めて、我らに渡した血判を反故にするだろう」


 別の百姓が青い顔して、


「だったら、岸川様に逆らったオラたちはどうなっちまうだ」


 お虎は、静かに、


「元の七公三民、いや、八公、九公、食い扶持すら奪うやもしれぬ」


 百姓は、お虎の膝に縋りついて、


「おらたちゃ、今でも、米ではなく粥をすすって暮らしているだ、これまでより重い税をかけられたら、もう生きていけない!」


 別の百姓が、


「おらたちゃ、自分から岸川様に頭を下げて、オラたちの考えが間違えを認めて頭を下げりゃ許してくれるんでないか?」


 百姓のその言葉に、菅沼大膳が、銅鑼声で吠えた。


「馬鹿者! そんなことが岸川に通じるか、自分から頭を下げて降伏などすれば、返って税の負担は十公にされてしまい、皆の衆は、雑草を食べて生きるようになるぞ!」


「オラたちゃ何にも悪いことなんかしてねぇ。オラたちゃ、楽造やあんたたちの口車に乗せられただけだ。鎌倉以来の武士のおやさしい岸川様ならわかってくれるだ」


 それまで、黙って聞いていたカケルが、静かに口を開いた。


「みんな、ホントにそれでいいの? それで、生きてるっていえるの?」


 百姓は答えた。


「おれたちゃ、あんたたちと違って武力を持たないただの百姓だ。オラたちはここ大原で静かに生きていければそれでいい」


 カケルは、ポツリと、


「岸川さんは、お百姓さんにもうそんな穏やかな暮らしをさせるつもりはないと思う」


「いや、岸川様はお優しいお方だ話を聞いてくださる」


「みんながそうしたいなら俺たちは出てゆくけどそれでもいいの?」


「それは……」


 百姓は口ごもった。


「みんな、もう、真実をわかってるでしょう。自分達の暮らしを取り戻すためには、税をむしり取る岸川と闘わなければならないって。戦って暮らしを取り戻さなきゃって!」


 百姓は俯いて自分の膝を叩いて、


「しかしよ、相手は鎌倉以来の武士だ。オラたちは戦の素人だ、いくらあんたたちが強くても、勝てるかどうかわからねぇ~じゃないか。オラ、死ぬのは嫌だ」


 カケルは、百姓の目をしっかり見つめて、


「戦うのは、俺たちはもうお春さんのようにみんなを殺させやしない。百姓のみんなは俺たちが岸川軍と戦っているあいだ山へ逃げていてください。俺たちがもし負けたらみんなの言う通り降伏してください」



 ”ぶお~ん、ぶお~ん”


 戦を始める法螺がどこかで吹かれた。


「これは岸川勢の襲撃かもしれない! 俺とお虎さんと菅沼大膳さん美里さんは、菅沼大膳さんの子分を手分けして指揮して、お百姓さんたちが逃げ切るまでの時間をここで稼ごう。月代さんは、お百姓さんたちは、はやく山に逃げて!」


「私も、皆さんと一緒に戦います!」


 カケルは静かに首を振って、


「いいや、月代さんは医者だから、もし、俺たちがこの戦を生き延びたらきっと手当てが必要になる。その時の出番にそなえて。それに、誰かが先導しないと今のお百姓さんの心ではバラバラになっちゃうよ。頼むよ」


「わかりました左近様。私はお百姓さんたちを連れて逃げます。きっと、生きてお戻りください」




 つづく


皆さん、こんばんは星川です。


いよいよ長篠の戦が近づいてきました。


ただいま、ストックに当たる最新話では、長篠侵攻を決めた勝頼が高遠城に入城しました。仁科信盛が城主ですが、それまでは実の兄である諏訪勝頼こと武田勝頼が治めていました。

高遠城は、ここから岐阜と三河に抜ける交通の要所で、母が同じ弟の信盛を置いた事からもわかるようにいかに重要だったかがわかります。


信盛が養子に入った仁科氏は、それまでに勝頼が名乗った諏訪氏の一族の姓です。このことから、勝頼の背景には諏訪氏の後ろ楯があったといえます。


しかし、この諏訪家の重用によって、武田の本流の家臣団との間に亀裂が生まれます。その辺の背景があって、勝頼と四天王派家老衆との対立が生まれたのかもしれません。




では、ブックマーク、ポイント高評価、感想、いいね よろしくお願いいたします。



それでは、また、来週に。

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