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294岸川翔馬の策略、月代の思いつき、仮面の武将月光(カケルのターン)

 岸川たちを追い返し、自分たちの望み通り三公七民の税率を獲得し、大原の荘園の民たちと宴に興じるカケルたちの元へ、脱走した岸川翔馬に切り殺されたお春の死を伝えに、大慌てで草履を滑る地面でスっ転びそうになりながら駆け込んできた青い顔した楽造が叫ん

 だ。


「みんな、岸川翔馬が逃げた。お春が……お春が……殺されちまった」


「なんだって!」


 楽造の言葉を聞いたカケルが、菅沼大膳が、お虎が祝いの杯を落とした。


 カケルは、冷静を装って、


「楽造さん、お春さんが岸川翔馬に殺されたって本当なの!」


 楽造は、がっくり肩を落とし、今にも泣きだしそうに、鼻水をすすりあげて、なんとか言葉を選んで報告する。


「おそらくよ、お春は気がいいからよ、言葉巧みに岸川翔馬の野郎の口車に乗せられてしまったんだろうさ。お春はオラの妹のようなもんだ、翔馬の野郎ただじゃすまさねぇ。ぜってー復讐してやる」


 お虎が、冷静に話を整理して念を押す。


「楽造、落ち着くのだ。お春のことは一旦おいて置いて、岸川翔馬が逃げたのは間違いないのだな」


 楽造は、目を真っ赤に充血させて答える。


「うんだ。岸川翔馬の野郎は、卑怯にもお春の背中から斬りつけて殺しやがった。ちくしょー、ちくしょー、お春じゃなくオラが喰いもんを取に行きゃよかった。お春は、こんなやくざ者になったおオラにも幼い頃と変わらず接してくれたのにちくしょー」


 菅沼大膳が、カケルに顔を向け、


「左近、翔馬が逃げたとあっては、岸川広家との血判状も無効になる。下手をすると、すぐさま取って返して、再び攻め込んでくるぞ、どうする?」


 カケルは、岸川広家を負い返して、酒を飲み戦勝の宴に酔いしれる大原の民、野盗上がりの菅沼大膳の兵を見渡した。皆、小競り合いとは言え、農民が鎌倉以来の武士を負い返したことで、酒を飲みすっかり宴に酔いしれ気の抜けた大原の民を見回しこう告げた。


「みんな、捕らえていた岸川翔馬が逃げた。こうなったらいつ岸川広家が再び攻めてくるかわからない。みんな、酒を捨て、すぐに、水を飲み顔を洗って、すぐに体から酒を抜くんだ」


 カケルが、そう言っても、大原の民は岸川勢との戦で、すでに緊張の糸が切れて、すっかり酔い潰れている者もある。とても、カケルが戦に備えるように発破をかけたところで、もはや、兵として使い物にならない。


 カケルは、菅沼大膳とお虎、柳生美里、北庵月代に尋ねた。


「みんな、これじゃとてもじゃないが、日頃から兵馬を鍛える岸川の兵が攻めてきたら、ただでさえ武器を握ることの少ない大原の民では戦さにならない。どうしよう」


 菅沼大膳が、豪快に


「左近、私、菅沼大膳、美里で一人10人を相手ならばなんとかなろう。それ以上は無理だわはっは~」


 つづいて、お虎が


「いや、それでは、大原の民を指揮する者がおらん。少なくとも我らの内一人は、大原の民を指揮いする者がいなくてはなるまい」


 つづいて、柳生美里が、


「どこかに、援軍を頼みに行くということはできませんか?」


 カケルは、難しそうな顔をして、


「ここから筒井じゃ遠すぎる。例え、筒井に援軍を要請しても到着する頃には、すでに岸川勢がここを襲撃したあとになっちゃうだろう」


 カケルも、菅沼大膳も、お虎も美里も、試案が尽きた様子で、肩を落としたとき、今まで、黙って聞いていた月代が、口を開いた。


「みなさん、私はただの医師の見習いで戦のことはまったくわからないのですが、ぼんやり思いついたことがあります。役に立つかどうかはわかりませんが……」


 と、控えめに口を開いた。


「月代さん、どんな案なの?」


 と、カケルが応じた。


 月代は、控えめに、


「私の考えは……」




 カケルたちに捕まっていた岸川翔馬は、父 広家の元へ舞い戻ると、すぐに、逃亡中に思案を巡らせていた作戦を耳打ちし、了解を得ると、その日のうちに早馬に乗り大原小出石の峠を越えて、近江伊香立の山道をひた走った。湖西へでると、馬を乗り継ぎ下って坂本へ入ったころにはすっかり辺りは明るくなっていた。


 ――坂本城。


 岸川翔馬は、門番に父 広家から預かった文を手渡した。


「大原の岸川広家の嫡男 岸川翔馬にございます。すぐに、城主の明智光秀様にお取次ぎ願いたい」


 門番は、眉を寄せて困った顔して、


「岸川殿、生憎ではあるが、現在、城主の明智光秀様は、大坂の石山本願寺攻めに出兵しておられるゆへご不在じゃ。出直してこられよ」


 翔馬は、尚もくらいついて、


「ならば、城番はおられるぬか!」


「一門衆の明智秀満様ならおられるが」


「秀満様なら、多少、祝いの席での面識もある。岸川翔馬が来たと言えばイヤとは申されますまい、すぐにお取次ぎ下され」


 坂本城の広間に通された翔馬は、秀満と面会した。光秀をはじめとした本隊は出払ってしまっていて、現在は、秀満とその二、三名与力だけである。そこに、もう一人、小柄な仮面の頬面ほほずらをつけた男が一人いた。


「岸川翔馬殿、このような朝早くに何用であるか」


「はは、秀満様、火急の用にてまかり越しました」


「火急の用とな?」


「はは、非常に申し上げにくいのでございますが、現在、我が領内にて、一揆が発生いたしましてその鎮圧に明智様の御助力を願いましたいと存じます」


「なに、岸川家は鎌倉以来の大原の領主ではないかそれがどうして?」


「はは、明智様の御命令通り朝廷へ治める税以外に、こちらへの兵役免除のため拠出する約束の軍資金を調達しようと税を掛けたところ百姓どもが反旗を翻しました。それだけなら、我らだけで難なく鎮圧できるはずでございましたが、一揆勢に、『三国志』の蜀の劉備、関羽、張飛の末裔を名乗る武勇の者が現れ、一揆を率いております。これが、名前にたがわぬ一騎当千の兵で、我らも手を焼いております。ここは、明智勢の助力を願い奉ります」


「『三国志』の劉備、関羽、張飛の末裔?」


「左様に、ございます。我らも鎌倉以来の武勇の士、一歩も引かぬ戦いを繰り広げましたが、奴ら卑怯にも、我らに組する無辜むこな女子供の民を人質に取り、迂闊に手が出せない状況にございます。しかし、奴ら我らが手を出せぬのをいいことに、我らの民の娘に乱暴を働き、ことを終えると切り捨てました。我ら誇り高い岸川の武士はそんなことは許せません。ここは、明智勢に後ろ楯になっていただき、一揆撲滅に尽力いたしたい所存にございます。秀満様なにとぞご助力くだされ!」


「ほう、月光この文をみよ」



 秀満は眉を寄せて考え込んだ。そうして、仮面の男 月光をみた。


「岸川殿、その話は真か?」


「秀満様、この鎌倉以来の武士、岸川翔馬が嘘を申す訳がございません。 ご覧くだされこの文は父から預かった証文でございます!」


 翔馬は秀満に文をわたした。秀満様は文に目を通した。


「これは……義父 光秀から、広家に宛てた文ではないか兵役免除と軍資金拠出が書かれておる……」


「そうです。この文をもって百姓たちにに見せました。しかし、百姓どもは劉備の末裔共の口車に乗せられたあとの始末で、信じずあべこべに反旗を翻しました。なによりの証拠に、ここには光秀様の花押が押されております」


「確かに、これは義父の花押」


 秀満は顎に手をやると、少し思案にくれて、月光に文を見せた。


「これは、明智が税と引き換えに岸川の兵役を免除した約束であって、明智が岸川へ援軍を約束した文ではありませぬ」


 月光は、低い落ち着いた声でいて、元は女の様に高い声印象を受ける声だ。


 ぐぬぬと翔馬は言葉をにごらせて、


「そうですが……」


「それに岸川殿がいう『三国志』の英雄の末裔とはなに者だ、いったいどこから現れたのだ。目的はなんだ」


「それは……」


「また、岸川殿の申す人質はどこに捕らわれておる。どうやって、救出する!」


「それは……」


「さらに、岸川殿のもうす女子供への乱暴狼藉はどのように行われた誰がみたのだ!」


「それは……」


 翔馬は唇をかんだ。


 翔馬は月光の質問攻めに答えられなかった。あべこべに翔馬が秀満を、月光の冷静な判断で嘘を露見させた。


「秀満様、この男の言葉には、つじつまの合わない嘘がございますぞご用心を」


 秀満は、言葉少なだが、確信を得た月光の言葉に、大きく頷いた。


「月光、まあ、事をそう荒立てるな。私は馴染みある盟友の翔馬、お主の申す通り、確かにそのような卑劣な者どもを野放しにはできぬ。すぐさま、私の手勢300を率いて合力いたそう。しかし、闘うのはあくまで岸田の兵だ。明智は後詰として戦場で待機いたし静観する」」


「はは、秀満様、有難きお言葉、痛み入り申す」

(はは、月光とやらはなかなかに鋭い。一瞬、焦ったぜ、しかし、秀満は甘ちゃんで、ちょろいぜ……)


「よし、行くぞ、盟友 岸川家を苦しめる『三国志』の英雄を騙る賊どもを懲らしめてやる。よいな、月光!」


「あいや、待たれよ。秀満様、翔馬殿の申す事にやはり、疑問が残りございますれば、我らが岸田に合力の間、翔馬は人質として坂本へとどめ置くのが肝要かと」


「うむ、わかった。だれか翔馬を捕えよ。事が終わるまで翔馬を坂本にとどめ置くのだ」


 月光は、静かに頷いた。





 つづく








皆さん、こんばんは星川です。


福井から帰ってから体調を崩し気味で、読書などのインプットがあまりできていませんでしたが、今週は、少し回復してきて、本を読めるようになりました。

中でも、私の楽しみの井原忠政先生の「三河雑兵心得シリーズの最新作 小田原仁義」を読みました。


今回は、天下人になった秀吉の最後の戦い 関東の覇者 小田原 北条氏攻めです。

天下人秀吉と、その一番の部下となった家康の難しいかじ取りを、最前線の植田茂兵衛は行います。40代となっても茂兵衛はヤッパリ体張ってます。


茂兵衛は中間管理職です。上から突かれ、下から突かれ、もう大変。ホント茂兵衛の心境に同情します。


でも、あれですね。そんな状況でも、茂兵衛は家族大事、家中大事な思いがある。己の立身出世のために人を犠牲にする気がない。そこが茂兵衛のみりょくなんだなあと。


で、私事なんですが、ただいま2023年9月23日AM11:39。ストックの最新話303話を書いておりまして、ここのところ内容が薄くなっておりましたが、筆圧がもどってきました。

303話辺りから、これまで、いつ長篠の戦に入るねんと思われていた歴史が動き始めます。


まだ、先の11月19日頃の公開になると思いますが、その辺から動き出します。皆さま、飽きずに応援くださいまし。




では、ブックマーク、ポイント高評価、感想、いいね よろしくお願いいたします。



それでは、また、来週に。

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