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291 露店で出会った韮崎城の姫と山県昌景の弟子 嶋左近(左近のターン)

 「おい、商人、この簪と櫛は気に入ったもろうて行くぞ」


 露店で、赤色の金飾りのある着物を着た姫御料が、商人にそういった。


「へ、お代は300文になります」


「よし、わかった代金はあとで韮崎城へ取りに行け!」


 姫は、傲慢さもなく至極当然のこととして、そういった。


 商人は世間知らずの姫を見て、確かにこの出立ならばどこぞの金持ちの娘かもしれないと踏んで素直に答えた。


「へえ、韮崎城のどちら様へご請求にあがればいいので」


「韮崎城の等々力治右衛門に申し付ければよい!」


「へへぇ! ご城代の等々力様でございますか‼」


 商人は、度肝を抜かれた。よりにもよって、相手は韮崎城下一番の実力者、等々力治右衛門だ。娘がどんな人間かはしらぬが、露店の一商人が、通りすがりの姫からこちらへ代金の請求にくるように言われたといったところで、会うことはかなわず、門番のところで、「狂言を吐くなと」追い返されて終わりが関の山であろう。


「それでは、もろらってゆくぞ」


 姫は、露店の簪と櫛を持っていこうとした。


 商人は、いくら身なりの整った良家の娘であっても、こちらは商売だ。後払いが望めないのであれば、はいそうですかと、商品を持って行かす訳にはいかない。


「どろぼう!」


 商人は、思わず叫んだ。決して、この姫が盗人だと決め込んだわけではない。姫の身なりからどう言葉で追い返したものかと思っていたところに、姫が商品を持ち去ろうとしたからつい口走ったのだ。こうなると後には引けない。商人は、姫が手に持った簪と櫛を取り戻そうとつかみ取った。


「なにをするのじゃ、ワラワが武田信玄の娘 松と知っての狼藉か!」


 こうなると商人も引けない。


「御屋形様の娘の松殿だと? 寝言も休み休みいえ! さっきから黙って聞いて居れば、ご城代に代金をもらいに行けなど、浮世離れしたことをほざきやがって、お前はこの場で代金が払えないただの盗人っじゃねぇか! (商人は松の腕を引っ張って)さあ、こっちへ来い。番所へ突き出してやる!」


 と商人は意気込む。


「無礼者、なにをいたす。ワラワに無礼を働けばただでは済まぬと分かっての狼藉か! 離さぬか!」


 松姫も引く気がない。



 露店で大声を張り合う騒動だ。ぞろぞろと野次馬が集まり人だかりが出来た。



 少し離れた木陰から様子を見ていた左近と加藤段蔵が、


「段蔵殿、あれは真の武田の姫か?」


 と、尋ねた。


 段蔵は、声を潜めて、


「はい、あれは御屋形のご息女 松姫さまでございます」


 左近は、疑問に思い尋ねた。


「ほう、武田の姫がどうしてお一人で、城下を歩いて居られぬのだろうか?」


「はあ、私もわかりかねますが、あのお方は正真正銘、松姫様でございます。甲斐から織田家の岐阜へ輿入れいたす際、私は、しかとこの目で確認いたしております。まず、間違いございません」


「ならば、この騒動をなすがままに放っておくわけにも参らぬな」


「はい、左近様、どうか、松姫様を御救い下され」



 商人は、嫌がる松姫の腕を掴んで、強引に番所へ連れて行こうとする。


「痛い、痛いぞ、離さぬか!」


 松姫は、暴れて抵抗しようとする。しかし、男の力と女の力では敵いようがない。松姫は、渋々、商人へ引きずられてゆく。


「ちょっと、お待ちください!」


 と左近が商人を呼び止めた。


 気の立った商人は、邪険に「なんだ!」と答えた。


「お待ちください。その前に、……」


 左近は、道中着の懐から財布を開いて「まずはこれを」と300文を手渡した。


 商人は、300文さえもらえれば相手は誰だっていい。


「へえ、これさえいただけましたら」


 と、松姫の腕から手を離した。


 さらに左近は、200文を出して、商人に掴ませる。


「これは迷惑料だ。すまなかったね商人さん、あとはこちらでかたずけるから、戻って商いをおつづけなさいな」


 と、追い返した。


「へえ、ありがとうございます。それでは、私はこれにて」と、商人は足早に露店へ戻っていった。




 松姫は、商人から解放され、清々した心持になって、左近と段蔵に礼をいった。


「どこの誰かは知らぬが、ワラワが危ないところをよく助けてくれた、礼をいうぞ」


 この姫は不思議だ。高飛車な物言いではあるが、どうしてだか言葉に棘や傲慢さは感じられない。天性の人間性とでもいうのか、松姫の言動にはそれ自体に人を納得させる風格がある。これが天下の英雄 武田信玄の娘ということだろうか。


 左近は、松姫の眼前で片膝ついて、


「姫様、私は武田家の人間ではありませんが、駿河江尻城の山形昌景に師事する嶋左近と申します。横に控えるこの者は、先の武田忍び”透波衆”の頭を務めた加藤段蔵にございますれば怪しい者ではございません。姫様、もしよろしければ此度、城中をお一人で抜け出した理由をお聞かせくださりませんか」


 山形昌景の名を聞いた松姫は、心を強くして、


「おお、お主は父上がもっとも信頼していた昌景の弟子か、それは心強い。ならば、教えよう。これを見よ!」


 と、松姫は懐から一通の文を取り出して左近に渡した。


「こ、こ、これは!」




 つづく



皆さん、こんばんは星川です。


私は、歴史物専門だとお思いでしょうが、現代劇も書きます。


現在書いてるものは商業用ですので詳しくは言えないのですが、そこで、挿入歌を使います。

(まあ、著作権の関係でその曲風になるのでしょうが)


その曲というのは、ファンキーモンキーベイビーズの「ヒーロー」です。


家族のために頑張るお父さんを歌った歌です。


私、いい年齢なんですが現在でも独身。しかし、この歌のお父さんの気持ちがよくわかるのです。泣けてくるのです。


カッコいいって、元・ジャニーズの平野紫耀やフィギアの羽生結弦選手なんかは、王子様的なかっこよさだけど、ホントにカッコいいのは、家族のために頑張れる人だとおもいます。


そう、「クレヨンしんちゃん」の野原ひろし・みさえ みたいな父ちゃん、母ちゃんがホンマにかっこいいんだと気づきました。


ひろしとみさえは、ぼろっぼろになりながら仕事と育児をこなしています。ひろしは足を臭くしながら、みさえは髪を振り乱しながら。


学生のみなさんは、この後書きを、スマホで見てるでしょうか?


そのスマホと時間は、あなたのお父さん、お母さんからの贈り物だって知っていますか?


お父さん、お母さんが、あなたの自由のために働いて時間を作ってくれているのです。


あなたのホントのヒーローはおとうさん、お母さんかもしれませんね。



では、ブックマーク、ポイント、感想、いいね よろしくお願いいたします。



それでは、また、来週に。

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