29蜂の巣大膳とカケルの決闘!(戦国、カケルのターン)チェック済み
"あきらめるなカケル殿!"
カケルの心へ神の啓示か天の声が聞こえるような気がした。
"カケル殿、ここは蜂の巣大膳を討ち取り、時間を稼ぎ、鳶加藤と山県殿を信じて時を待つのだ"
なんだ? この声は??
カケルは、田峯城内で牢獄の獄卒の心の内を知り、協力して城主、菅沼定忠への反乱の指揮をとった。
武器庫を奪取し、山県昌景に授けられた武田の先鋒、赤備え隊のそのまた最先鋒で斬り込み隊長の証、朱槍大千鳥十文字槍を取り戻し、馬屋で愛馬、霧風を取り戻した。
しかし、田峯城を取り囲む山県昌景と示し会わせたタイミングでの決起とはならず、多少、タイミングが早く反乱を起こしたばっかりに、城主、定忠の嫡子、蜂の巣大膳に見つかり窮地に追い込まれた。
その時、カケルの頭の中でハッキリとした声が聞こえたのだ。
「ああ……、これが幻聴というものか、月代ちゃんの家、精神病院だからなんとなく知識あったけど、こんなにハッキリ聞こえるものなのか、ピンチだもんな……」
カケルの呟きを聞いた脇に控えた五作が、槍を持つ手もガタガタ不安に震え、おっかなビックリ、カケルに訊ねる。
「左近殿~、おらぁたちゃアンタがそんな弱気なこと言うと不安になるでよぉ~、いつになったら、武田の城攻めははじまるだか? 」
カケルは、幻聴で意識がぼんやりしながら、五作へ虚返事を返す。
「(カタコトのロボット言語のように)ダイジョブだよ。しんぱいありません」
五作は、うわぁ~と焦りが隠せなくなって今にも逃げ出しそうな声をあげる。
「左近殿が壊れちまっただ。おらたちいったいどうしたらええだよ~」
と、今にも泣き出しそうだ。
"カケル殿、しっかりいたせ!"
「うわぁ~、またおっさんの声の幻聴や。オレ、終わった。絶対、終わった! 」
"カケル殿! ワシが本物の嶋左近じゃ!! 漢たるものどんな逆境にあっても絶対にあきらめてはいけない。気を強う持て"
「嶋左近って、オレのこの体のこと? なんでオレは嶋左近になっちゃったの? 」
"それはわからぬ。今、わかっておるのはカケル殿とワシが入れ替わっていることだけ すまぬ"
と、カケルがぶつくさ言いかけた時、腹のそこから響く怒号で、蜂の巣大膳が怒鳴った。
「なにを一人でぶつくさ言っておる。ん! よくみれば、お主父上に捕らえられた、嶋右近やら、う○こやら申した腰抜けの木偶の坊ではないか」
カケルは、蜂の巣大膳の罵りに頭の中のモヤモヤが吹っ切れたように、
「右近でも、う○こでもけっこう。蜂の巣大膳いざ、勝負! 」
と、言うやいなやカケルは霧風の腹を蹴って蜂の巣大膳目掛けてまっしぐらに駆け抜けた。
カキンッ!
蜂の巣大膳は、カケルの大千鳥十文字槍をアワやのところで態勢を崩しながら手槍で受け止めた。
「なかなかやりおるわい。今度はこちらから行くぞ! 」
今度は蜂の巣大膳の反撃だ。
すぐそばの城兵から馬を奪いとるやいなや、カケル目掛けて駆け出した。
せいやっ!
カケルも呼吸を合わせて突き抜けた。
一迅の風が吹き抜けた。
そこにはカケルが横たわっていた。
蜂の巣大膳の凪ぎ払いを胴へ受けて吹っ飛ばされたのだ。
「さ、さ、左近殿が殺されてしまっただ……」
反乱の大将を失った五作をはじめとした50人は浮足だった。
「オラはまだ死にたくねえだ~」
反乱分子の一人が槍を捨て城門へ向かって逃げ出した。
しかし、がっちりとハマった閂がびくともしない。
「それ、大将を失って反乱分子どもが浮足だったぞ、者共かかれ! 」
蜂の巣大膳の号令一つで城兵が反乱分子を一揉みにした。。。かに見えた。
ドカンッ!
突然、蜂の巣大膳が倒れた。
「あっぶね~、本気で死ぬかと思った。天国には、天使はいなくて、死んだ人を事務的に振り分けるおっさんがいるのね」
と、強か胴を叩かれ息の根をとめられたカケルは天国の一丁目一番地まで行っていたのか訳のわからないことを言いながら、なんとか大千鳥十文字槍の十文字に、蜂の巣大膳の足を引っかけて転がしたようだ。
カケルは大千鳥十文字槍を杖にふたたび立ち上がった。
転がされた蜂の巣大膳は、顔を真っ赤にして、
「こしゃくな小僧よ。こんどこそ容赦はしないぞ! 」
手槍を掴んで立ち上がった。
「おれは、あきらめが悪いのが取り柄でね」
蜂の巣大膳は、槍をカケルへ向け今度こそその胸板へ穴を開ける勢いだ。
「おれは、人を踏みつけにする人間を許さねぇ! 」
カケルは大千鳥十文字槍を回旋して、蜂の巣大膳へ槍の穂先を向けた。
パソコンの画面でイベントを睨む左近は、がっちりどんな結果でも受け入れるように不動の構えだ。
と、そこへ、
「お兄ちゃ~ん。ごはんだって、今夜はデミグラスハンバーグだって、早くこないとワタシが食べちゃうわよ~うへへ」
カケルと蜂の巣大膳の決闘を厳めしい表情でいきさつを見守る左近の腹が、ぐぅ~っとなったのは言うまでもない。
つづく