276領民が収めてくれる米と野盗たち、その上でぬくぬく暮らす侍は、領民たちの置かれた環境の厳しさには心及ばない ~飢餓と脅威にさらされる日々、ただ生き抜くために(カケルのターン)
翌朝、美里はカケルの宿を訪ねてきた。
「嶋左近様、先日は、私の危ないところを救っていただきありがとうございました」
「いや~、いくら剣の達人の柳生家の娘であっても、十人対一人じゃ危ないことになるよ。さらに、相手は筋肉隆々の野盗でしょ仕方ないよ」
「いや、あんな百姓上がりのなまくら刀を腰に差した侍とも呼べぬ者に後れをとるとは、柳生の娘として父 柳生宗厳に合わせる顔がありません。あのような野盗など、父や兄 十兵衛のように柳生の奥義さえ習得しておればどうということのない者たち恥ずかしい限り……」
美里は、相手が野盗といえども、後れを取ったことは事実ではあるが、それを素直に認めることができず、言い訳に言い訳を重ねた。
すると、顔を真っ赤にして黙って聞いていた菅沼大膳が、口をはさんだ。
「おい、柳生美里! お主は、剣の達人のようだが、人間としては三流のようだな」
美里が菅沼大膳の言葉に、眉を吊り上げた。
「おお、これは、左近様の従者の菅沼大膳様とか申しましたな。この柳生美里になにかいいたき事でもおありなのでしょうか?」
ドーンと菅沼大膳は、胡坐をかいたひざに手を置いて身を乗り出した。
「柳生美里、野盗が襲ってくる理由を考えたことはあるか?」
と説いた。
「野盗が襲ってくる理由だと?」
「そうだ、理由だ」
「それは、私は剣に生きる柳生の娘として、一日でも早く奥義を習得することと心得ております」
すると、菅沼大膳は、お虎に話を向けて、
「だそうだお虎殿」
綺麗な正座をして話を聞いていたお虎は、眉と目を細めて、柳生美里をみて
「剣に聞こえし柳生の娘もこのような考えであったか……」
と、呆れた顔をした。
菅沼大膳とお虎に呆れられたと思った美里は、主である左近に膝をぶつけるくらいに詰め寄って、
「左近殿、我ら二人の話を黙って聞いていないで、何かお答えください!」
カケルは、「う~ん」と、宙に目をやって考えた。
「オレ、思うんだけど、野盗さんたちは、剣だけに一心に生きる美里さんと、生きる環境が違うんじゃないかな?」
「生きる環境?」
「そう、美里さんは柳生の里の領主の娘さんで、食うために働かなくたって領民が米を収めてくれるけど、野盗さんたちは違う。自分たちで働いて米を作ろうにも、その土地がない。真面目に働こうとしても、その働き口がないんだ」
美里は、眉間にしわを寄せて、
「左近様、野盗たちは働くの理由をつけて放棄して、甘えているのでございます!」
カケルは、困った顔をして、
「美里さんからみれば、そう受け取れるかも知れないね。でも、野盗さんたちは、どこかで特別に学問を学んだわけでもないし、都にだって詳しくないから、都の外れの羅生門で、死んで捨てられた人間の髪から鬘を作っていたり、衣服をはがす追剥のようなことをしてたんじゃないかな?」
「そのようなことをせずとも、京都所司代に申し出て、なにかと援助してもらえばよいような物ではございませんか」
カケルは首を振って、
「身分の高い侍なら京都所司代も暮らしが成りゆくように取り計らってくれるかもしれないけど、野盗さんたちは元は百姓だからね」
「野盗たちも足軽として、一度でも戦場に出たなら、侍の信念があるはず、奴らにはそれがなかったから私は刀の錆にしようと考えたのです」
カケルは、優しい目をして、
「山県のオジサンに鍛えられるまでは、オレも二階から目薬で、美里さんに近い考えだったけど、オジサンにかなり鍛えられたからね、現在では、オレも多少、野盗さんたちの生きるために誇りや信念を犠牲にしていることがわかるんだ。できることなら、皆、美里さんの言うように生きたいよ。でも、世の中には生まれた環境が劣悪すぎてそうできない人間は必ずいるんだ。それを『お前は、罪を犯したから切って捨てる』では、人情がなさすぎるよ」
「人の情でございますか?」
「おれも、まだまだだけど、山県のオジサンから教えられたことの一つに”人の痛みを知る心”人情があったような気がするなあ。まあ、信念を貫くことも大事だけど」
初めは野盗を憎んでいた美里だったが、カケルの話を聞くことで、彼らが生きるためには仕方がない環境にあることを理解し、自分の矜恃を見直すようになった。
すると、美里は、左近に向かって、居住まいを正し、きれいに正座をして、スッと頭を下げた。
「どうしたの美里さん?」
「嶋左近様、私、柳生美里感服いたしました。このような経験は父 柳生宗厳以来はじめてにございます。私は決めました。嶋左近様の弟子になり修行を積み、そして、左近様の妻となります!」
その言葉に、部屋にいた山県お虎と、北庵月代が顔を見合わせた。
左近を囲んで、武田の赤備えの大将 山県昌景の娘 山県お虎と、畿内でも名医と名高い北庵法印の娘月代、剣豪として名高い柳生宗厳の娘柳生美里の三つ巴の正妻は誰かの嫁とり合戦が始まる予感がした。
一人蚊帳の外の菅沼大膳は、何日も風呂にも入っていないのか、ボリボリと野盗とおなじように開けた胸の垢を掻いて、『バフンッ!』と大きな放屁をかますのだった。
つづく
皆さん、こんばんは星川です。
母との別れから数週間たち、落ち着いてまいりました。
ここでようやく学習意欲も回復してまいりました。
そこで、本日は、最近学習した本を紹介いたしたいと思います。
前提として、私には、メンタルの病気があり、健康な人より疲れやすい、記憶力が低いなどあります。この後書きにはよく健康について述べさせて絵いただいています。
今回は、二冊あります。
「あたらしい栄養学」吉田企世子・松田早苗
2016年の本で最新ではありませんが、食品についてすごく勉強になりました。
・食の効能
その食品でどんな栄養と作用があるか
・栄養処方箋
症状別に栄養学でのs健康対策
・栄養素早引き事典
血液検査の項目に対応した食事的アプローチ
食事で健康になろうじゃないかってことです。
機会があればぜひお探しください。
次に紹介するのは
「最高の休息法」
脳科学の観点から疲れと回復を研究した本です。
面白かったのが、すべての疲れは脳が感じているとのこと。
この本では、脳を休めるために瞑想(禅の呼吸法)、現在ではマインドフルネスとももうします。
呼吸法と、考え方で脳内物質による疲労回復法を紹介しています。
たとえば、大事な人を思い浮かべて、その人の
・安全でありますように
・幸せで心やすらかでありますように
・健康でありますように
と慈しむこころで願いますと、自分の心が前向きに整うようです。
他にも、疲れた時に回復する5つの習慣
・仕事と休息の切り替え
・自然に触れる
・美に触れる
・没頭する
・故郷を訪れる
これは、脳内物質セロトニン、エンドルフィン、ドーパミン、オキシトシンなどの作用を利用して疲れを取ろうという発想です。
まあ、休むことなんですけどね。
最後に、まとめとしまして、大事なのは、
・睡眠(ぐっすり7時間ほど)、
・食事(栄養のバランスをとる)、
・運動(高負荷のうんどうではない)
この三つを丁寧に扱う者が最高のパフォーマンスを発揮するということです。
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それでは、また、来週に。