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274侍の本分を果たし、野盗を正す!カケルの名裁きにより、野盗たちの運命は……(カケルのターン)

京の都の大門羅生門で、十人の野盗に襲われた柳生の女剣士 柳生美里が、頭の野盗に見事な胴抜きを食らわせたと思ったが、カーン! という鉄を打つ音とともに、美里は刀をポトリと落とした。


「へへへ……」


野盗の頭は卑げた声を上げ、腹に隠した鉄板を見せた。


「こういうこともあろうかと、用心していたのよ。まさか、女剣士を相手にこれが役に立つとは思わなかったがな」


「うううッ……」


美里は痺れた手を抑えうずくまる。 


「よし、おめえたち、女は無防備だ。取り押さえて手籠めにしちまえ!」


野盗たちが一斉に美里に躍りかかった。



羅生門の軒下で、美里への助太刀を制止されていたカケルと菅沼大膳、お虎と月代の四人は、これには黙っていることもできずに、「助けてあげて」とおろおろする月代の期待に応えるように腰の刀の鯉口に手をかけた。


カケルが美里を取り囲んで手籠めにしようとするのを制止するように、


「おじさんたち、侍がそんなことホントにいいの?」


野盗の頭は、卑げた声で、


「俺たちは大名たちに戦の時だけ駆り出される野盗だ。戦がなければ俺たちは大名の領地の外では何をやろうと自由だ。生きるために勝手にやらせてもらうまでだ。あんまりお節介が過ぎると、お前たちの仲間にも女が二人いるようだ。俺たちは十人いるたった一人の女じゃ皆まで満足できなかったところだ。お節介ついでにお前たちの女もこっちにいただこうか。やい、おめぇたち、起きねぇか、女が増えるぞ、奴らの女も奪っちまえ!」


美里に打ちのめされていた子分たちが、だらだらと起き上がった。野盗の頭の一声で、羅生門の軒下にいるカケル、菅沼大膳、お虎と月代が取り囲まれた。


カケルが、菅沼大膳と、お虎に目を合わせて、


「菅沼大膳さん、相手は十人、二人で行けるかな?」


菅沼大膳は、顎をさすって、


「う~む、美里殿が一人でのした相手だ。左近、今回はワシは見物しておるよ。最近、筒井の殿様への出入りで、やっとうの稽古をさぼっておるお主一人で相手にせい」


「ええ~、まじか、お虎さん助太刀してよ」


と、お虎に助け舟を求めると、お虎は、月代のをかばうように立ちふさがって、


「左近、もしもの時は、私が骨は拾ってやる。久しぶりに存分に刀を振るえ!」


「ええ、まじか、菅沼大膳さんもお虎さんも仲間なのに冷たいなぁ。しかたないか」


そういって、カケルは刀を抜いた。


野盗の頭が、


「やい、サンピン! ずいぶん俺たちを馬鹿にしてくれるじゃねぇか、ならばお望み通り、まずはお前をナマズにしてその後で、もう一人の大男を切り刻んで女二人はいただくことにする。やい、おめぇたちやっちまえ!」


そういって、野盗の頭は、手がしびれて抵抗できない美里を縄で縛って簀巻きし肩に担ぎあげた。



カケルは、九人の野盗に囲まれた。


カケルは武田家山県昌景隊の先鋒対象として、戦場で槍を振るい、徳川家最強の漢 本田忠勝と槍を交えたことがある。槍の腕なら天下有数の槍者だが、刀の腕は未知数だ。出たとこ勝負やってみなくちゃわからない。


カケルは、スッと、刀を抜いた。無銘の刀ではあるが、くろがねの刃紋は美しくなかなかの拵え(こしらえ)に見える。


カケルは、美里と同じくクルッと刃先を返した。あくまで殺さずの峰打ちで済ませるつもりだ。


「じゃあ、行っちゃうよ!」


カケルは早かった。美里が稲妻ならば、カケルの剣は走るような炎だ。


カケルは、野盗の子分たちが身構える間も与えず、次々に、叩きのめしてゆく。


「……ここのつ! 後は、お頭さんあんた一人だよ」


野盗の頭は、目を丸くした。柳生の女剣士美里とといい、この左近とか申す大男、おそらく高みの見物を決め込んだ、もう一人の大男も、もしかすると鋭い視線でこちらを睨む女侍も、この左近とか申す侍の仲間だ一騎当千のつわものかもしれない。こんな化け物を相手にしたら、命がいくつあっても足りない。野盗の頭は、簀巻きにした美里を放り出した。


「すまね、あんたたちみたいな化け物は、京の都じゃであったことがない。もしかしたら、あんたたちどこぞの名のある侍か? 織田家の柴田か? それとも明智? いや、日の出の勢いの羽柴かもしれねぇ、どこの家のお侍なんでぇ?」


カケルは、菅沼大膳とお虎へ振り返って、「言ってもいいのかな?」と目で合図を送った。二人は静かに首を落とした。


「俺たちは大和国 筒井順慶が家臣嶋左近と、その従者」


野盗の頭は首を捻って、


「筒井家? あの松永久秀にいいようにされてた弱兵の筒井家にあんたたちのような強者つわものが三人もいるのか、今度、俺たちは信貴山の松永久秀の呼びかけに応じて、足軽として参戦しようと思っていたが、相手にあんたらのような化け物がいるってんなら話は別だ。俺たちゃどこか別のところへ仕えるとしよう」


カケルは不審に思って、


現在いまは、筒井も松永も同じ織田家に仕えているはず、確かに、本願寺との戦に備えて準備はしなくちゃだけど、両家とも、調停工作にお金がかかって新しい兵を集める余裕はないはずなんだけどなぁ」


野盗の頭は呆れて、


「あんた知らないのかい? 松永久秀はそんな一筋縄じゃいかない人間さ」


「一筋縄じゃいかない?」


「そう、松永久秀って大名は、表じゃ織田信長に仕えていても、腹の中じゃ何を考えてるかわからないってことさ。せいぜい気をつけるこったな。なあ、俺の知ってることはすべて教えたから、今回のことは見逃してくれ、俺たちゃ心を入れなおして、どこかの足軽として真面目に働くからさあ。なあ、頼むよ」


カケルは、野盗の頭の言葉に即決ができず菅沼大膳に助言を求めた。


菅沼大膳は、すぐに刀を抜いて、


「こいつらは所詮、野盗。性根しょうねが腐っておる。生かしておくならば、それ相当の処置をしておかねば……、そうだのう、こやつらの片腕一本奪っておこうか」


「ひぇ~」


野盗の頭は、カケルの足元にすがった。


「左近さん、そんな物騒なことはよしてくれよ、なんとか穏便に、俺たちも生きるために仕方なかったんだ」


カケルは、お虎に助言を求めた。


「お虎さんどうおもう?」


「こいつらは性根が腐っておるのは間違いない生かしておいたら社会の毒だ、どうせこ奴らは、ここを言い逃れしてもすぐに、別の場所で野盗にもどって、この度のように、また女、弱き者から奪い取ろうとするだろう。左近、殺しておこう」


菅沼大膳とお虎の助言を受けたカケルは天を仰いだ。


その時、いままでおびえて黙っていた月代が口を開いた。


「嶋の殿様、確かに、この方々は悪さを働きました。ですが、この人たちも生まれながらの悪人だったわけではないと思うんです。どこかで、性根を叩きなおす修行をすれば、このひとたちの申すように生まれ変わることができると思うのです」


カケルは、月代の言葉に共感をもって、


「では、どうしろとおっしゃるので?」


「できますれば、筒井家。いや、嶋家の足軽として雇い入れたらどうかと思います」


月代の言葉に、お虎が、小言をはさむように、


「これだから家の経営を知らない素人には困る。たとえ、足軽とはいえ十人も人間を雇うということはそれだけ金がかかるということだ、朝廷工作に一万貫を用立てるのに四苦八苦している嶋家にそんな余裕がどこにある!」


「それは……」


月代も、お虎の正論にはついて出る言葉がなかった。


「わかった!」


カケルが、ポンと、手を打った。


「なんじゃ左近、また、いつもの突拍子もない閃きか?」


と、菅沼大膳。


「うん、雇うとお金がかかるんでしょ、ならば、必要な時には嶋家の足軽として働いてもらい、それ以外の時は、戦の稽古と農作業をしてもらえばいいじゃない」


「そんな、都合の良い仕事ができる師匠がどこにおるのだ?」


と、菅沼大膳。


カケルもお虎も月代も、まっすぐに菅沼大膳を見つめている。


「どうしたのだお主たち、まっすぐにワシを赤子のようなよどみのない目で見つめて、……ワシか、ワシは嫌じゃぞ。ただでさえ左近の御守りだけで精一杯なのだ。とても、十人も野盗上がりを教育することなどできぬぞ!」


菅沼大膳がそう言うと、すかさず、野盗の頭及び、倒れていた野盗たちが足元に擦りついて、


「お頭!」


「おい、まて、俺は、お前たちのお頭ではない。やめぬか、はなれぬか!」


カケルは、菅沼大膳を笑いながら見つめて、


「よーし、野盗の皆さんは、菅沼大膳さんの配下にしちゃおう。大膳さんも、嶋家の一翼だから、いつまでも一騎当千を気取ってる場合じゃなくて兵をつらなきゃね決ーまった!」


「おい待て、左近殿、ワシは承知してないぞ!」


カケルは、菅沼大膳の言葉を無視して、


「野盗の皆さん、菅沼大膳さんは、厳しいけど優しい人だから、今後しっかり面倒みてもらうように頑張って!」


「へい、左近の大将!」


「おい待て、左近殿! ワシは承知しないぞ‼」


「よろしくお願いいたしやす、菅沼大膳のお頭!」


こうして、羅生門の野盗たちは十人は菅沼大膳の配下に収まった。


カケルたちが、ひと悶着している隙に、月代が簀巻きにされている美里の縄をほどいてやり、


「嶋の殿さまは心の広い素敵な殿様でしょう。不思議とあの方の元には人の輪ができるのよね」



縄をほどかれた美里は、カケルの元に進み出でて、


「助太刀かたじけない嶋左近殿、己の力を過信して不覚をとったこの柳生美里、この御恩一生わすれませぬ」


カケルは、笑って、


「いいよ、気にしないで柳生美里さん、困っている人がいれば、見て見ぬふりして通り過ぎないのがきっと、侍の本分のような気がしてるんだ……それに、ただのお節介だから」


カケルは、そういうと、


「さあ、いこうか京の都は広い。急がないと、朝廷へ着く前に日が暮れちゃう」




つづく




皆さん、こんばんは星川です。

老健で余生を過ごしていた母が旅だった。

苦しむことなく、息を引き取った。


葬儀も、スグに集まれる家族だけで、通夜、告別式を行わない小さな火葬式にした。

丸一日、小さな安置所で母との時間を過ごした。


飾りはなく必要最低限で質素よ。でも、ずっと、母を囲んだ家族の時間。

母にしてあげられることはまだあるかもだけど、思いつく限りのことはすべてした。悔やむことは何もない。

「静かに眠ってるね」


お坊様の後、YouTubeで阿弥陀経と般若心経を帰るまで聞かせてた。

仏は喧嘩しないからね。


火葬の日の朝も、念入りに釈迦弟子の13佛のお経を聞かせたら笑っているように感じた。


母の見送り後を喜ぶのは不謹慎だけど、ホントに、老健の方も、葬儀社の方も良くして下さった。

駆けつけた甥っ子も、夢を語ってくれた。


ホントに最良の見送りができた。

ホントにホントにホントに、母を支えてくださった皆様、ありがとうございました。


今回は、私の母が極楽浄土へ辿り着けるように、皆さんの心でお経を唱えてあげて下さい。


それでは、また、来週に。

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