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270山県昌景の娘お虎さんも怖いけど、医者の娘は優しそうに見えてもっと恐い(カケルのターン)

 京の都へとつづく街道筋で、お虎と菅沼大膳が、互いに得物を抜いてバチバチといつもの調子で喧嘩をし、お虎の朱槍がスッと菅沼大膳のほほ痘痕あばたを切った。


 と、そこへ息を切らせて薬箱を担いだ小柄な北庵月代が追いかけて来た。


 痘痕を切られ頬から血を流す菅沼大膳を見かけると、月代はすぐさま、竹筒の水で菅沼大膳の傷を洗い清め、薬箱を開いて合わせの貝殻で包んだ軟膏を小指ですくって、傷口に塗りつけた。


「菅沼様、蒲黄がま(食用のガマの花粉)とヨモギを混ぜ合わせた北庵家秘伝の軟膏でございます。これを塗っておけば傷口が膿んで化膿する心配はございません」


 菅沼大膳は、月代の手を握って、拝み居るように頭の上におしいただいて、


「おお、月代殿こそ、佐近殿の嫁にふさわしい。女だてらに槍働きの荒くれ者のお虎とは違って、女子おなごらしい、細やかな気遣いがある。ワシは、佐近殿の嫁には、月代殿に一票を入れるぞ!」


 お虎は、菅沼大膳の言葉など痛くもかゆくもないといった表情で強がって、


「私が、いつ佐近の嫁にしてくれと願ったか! 私は、自分より強い漢。父、山県昌景のような真の漢でなければ相手にせぬわ!」


 菅沼大膳は、月代に甘えるように頬の傷を突き出して、


「月代殿、お虎はああ言って強がっておるが、佐近殿にフラれて後で泣きをみるのは、お虎じゃ。ワシは、なにがあっても月代殿、佐近殿の嫁にはそなたに一票いれるぞ!」


 月代は、菅沼大膳が突き出した軟膏を塗った傷口に、綿をあて、包帯でミイラのように頭をぐるぐる巻きにした。


 頭を包帯でぐるぐる巻きにされた菅沼大膳をみたお虎が笑い出した。


「ははは、菅沼大膳。図体のデカいむさ苦しい男がペラペラ能書きばかり話し居るから、月代にも嫌われて、包帯で口まで塞がれてしまったのうはっはっは~」


「なむむうむ・・・」


 口を塞がれた菅沼大膳が言葉にならない言葉で文句を言い返す。


 手当をしている月代が、菅沼大膳の喉元に回った包帯の縛り眼をキュッとキツく引きしごいた。


 菅沼大膳は、手綱を引きしごかれた乗馬のように声が出ない。


「菅沼大膳様、お虎さんは歴とした武田家四天王と謳われる山県昌景様の姫君であらせられますよ。いくら気心の知れた間柄とは申せお言葉はお慎みあそばせ」


「くっくっく苦しい、月代殿、包帯を緩めて下され」


「菅沼大膳殿、おきおつけ遊ばせ、医者と患者の関係は、医者がさじ加減をまちがえば、命を奪いかねないものでございます。いくら男丈夫の菅沼大膳様でも、医者と患者の関係の間は、私の掌の上でございます。お心にお留めおき下さい」


 菅沼大膳は、顔に巻かれた口元の包帯を手でこじ開けて、


「前言撤回じゃ、佐近殿の嫁には、お虎さんも槍を握って恐ろしいが、月代殿も可愛らしい顔して薬のさじ加減一つで、ワシの命を奪いかねない恐ろしい女じゃ、佐近殿、嫁選びはもう一度慎重に選ぶのじゃ」


 と、菅沼大膳はカケルに注意した。


 カケルは、呆れたように、


「いやいや、たぶん、思うけど、お虎さんと月代さんが、菅沼大膳さんにキツく当たったのは、菅沼大膳産がデリカシーがなさ過ぎるからなんだよね~」


 菅沼大膳は呆けた顔して、放屁一発。


「デイかシーとはなんじゃ? まあ、何のことかはわからぬが、ワシはワシ、どこでもかれでも屁をする佐近殿お主と同じ真の漢よわっはっは~」


 よくわからない。菅沼大膳の論理構造は、漢は豪快なもので細かいことにはこだわらないというところか。まあ、菅沼大膳は心に裏表のないいいやつなのは間違いないことだけは確かだ。



「おお、あれをご覧下され、多少朽ちて崩れてはおりますが、あれが都大路の玄関口羅生門にござりますな、ワシは田舎者ゆへはじめてみた」


 菅沼大膳が、感嘆の声を上げた。


「へ~。あれが芥川龍之介の小説で描かれた羅生門か、もっとおどろおどろしいお化け屋敷みたいな所かと思っていた」


 カケルも、菅沼大膳につられて応じた。


 お虎が、ポツリと、


「あれは、羅生門ではない。羅生門は、平安期に消失しておる。あれが、羅生門に見えるのならばそれに似た別の何かじゃ」


 戦国期の羅生門は、お虎のいうとおり公家の藤原氏が治める時代には国が乱れ消失している。しかし、目の前には、たしかに羅生門らしきものが見えている。


 カケル、お虎、菅沼大膳、月代の一行は、あるはずのない羅生門を潜った。


 羅生門の門を潜ると、二階へつづく階段がある。そこからなんとはなくプンと生臭い匂いが漂っている。


 ダッダッダッダ!


 階段を刀を水平に流して剣士が駆け下りてきた。


「あっ、柳生美里さん!」


 羅城門から駆け下りてきたのは、カケルの嫁候補 柳生美里だ。


 美里は、カケルを横目で会釈すると、足早へ広場へ駆け下り刀を構えた。


「女、待たぬか!」


 美里を追って裸体に麻の羽織を腰で縛るだけの野盗風の男たちが、10人ほど追いかけてきた。頭はいつ風呂に入ったのかわからぬほど脂ぎって、見るからに臭い出しそうだ。


 野盗の頭が、美里に向かって、


「おい、女、ワシらが死んだ人間の身ぐるみを剥いで金に換えるのが何が悪い。ワシら野盗は人から物を奪い取って糧にするのが生業じゃぞ」


「ちがう、お主たちも侍だ!」




 つづく

皆さん、こんばんは星川です。


本日は私用でご多忙につき、後書きはなしとさせていただきます。




ブックマーク、ポイント高評価、感想、いいね 引き続き応援よろしくお願いいたします。



それでは、また、来週に。

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