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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
一章 疾風! 西上作戦開始!
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27いい男、いい女を口説きたいなら、まず、腹をつかむこと(戦国、カケルのターン)チェック済み

「逆らう者は、何度でも、踏み潰すまでよ」


 田峯城城主、菅沼定忠に踏みつけられるカケル。


「弱き者は決して諦めませぬ。いずれこうして刃向かうにござろうに」


 菅沼定忠は渾身の力でカケルを蹴り飛ばした。


「ええい、小賢しい奴! こやつを痛めつけて、三度のメシも抜きそのまま打ち捨てておくのじゃ、よいな! 」


 カケルの胸を蹴りとばした。


 蹴り跳ばされたカケルは、何か閃いたように不敵な微笑を浮かべていた――。




 全身を痛めつけられた戦国の嶋左近と魂が入れ替わった現代の高校生、時生カケルは、牢獄へ打ち捨てられていた。


 木の竹ムチで打ちすえられたのか、剥き出しの身体は、切り傷とアザだらけだ。


「痛てぇ~、痛てぇ~、全身が火を吹くように熱い。盲腸の時に麻酔したけど、麻酔って大事だな、痛てぇててて……しかし、腹減ったな……」


「嶋左近殿すまぬなワシのためにムチ打たれてしもうて……」


 獄卒は懐からこっそり竹包みにくるんだ握り飯を取り出すと格子の隙間へ差し込んだ。


「おじさん、こんなことしちゃおじさんが罰を受けちゃうんじゃないの? 」


「ワシは武田が攻め寄せたこの城に詰めた日からいつ死んでもおかしくない身の上だよ。昨日の御城主様の剣幕を見てつくづく生きるのがイヤになった。いいから見つからないようにメシをお早う食え」


「サンキューおじさん! 」


 カケルは握り飯にガッツいた。


「おお、塩握りだね」


「もはやこの城にはそんなものぐらいしかのうなった。御城主様が作手亀山城の御城主様ぐらいに用心深いお方であったならひもじい思いもせずにすんだろうに、あとはいつ武田の兵が攻め寄せ、ワシらの息の根を止めるのが先か、このまま干上がって死ぬかの違いだけじゃ」


 ぐう~。


 腹が鳴った。カケルではない。獄卒のおじさんだ。


「おじさんもしかして、オレに食わせるために自分のメシを……」


「かまわん、かまわん、お早う食え」


 カケルは、握り飯を一つ取って、格子の外へ突き出した。


「おじさん、人間の命は皆、平等だよ。エライ人はエラくない人が困ることなく生きていけるような国や社会を作るからえらいんだ。ここの御城主様は間違ってる! 」


「そうは言っても左近よ。ワシら百姓の頭じゃ、御城主様には歯向かえん。それに、ワシらは御城主様に女房、子供を人質に取られておるでの、ワシが逆らえば、同じ村の者も連座しちまう。どうすることも出来ないて……」


 獄卒は、諦め悲しく、メシを頬張り涙を噛み締めた。


「おじさん、この城には明日の朝、武田が総攻めする計画になってるんだ。どうせ死ぬ気ならオレに協力しない? 」


「どうすりゃいいんじゃ? 」


 カケルは、格子に身を寄せて獄卒に耳打ちした。


「そんな、ことで良いのか? 」


「オレをここから出してくれたら、オレが誰も死なずみんなが生き残る道を段取りするよ」


 獄卒は、カケルを見つめて、


「信じていいんだな」


 カケルは、静かに頷いた。





 空に月が上った。まあるい月だ今夜も月は美しい。


 ヒュー、ヒュー、ヒュー。


 川石と土塀の隙間から風が吹き込んだ。


 何かを待つように目を閉じてあぐらをかくカケルが、静かに目を開けた。


「(忍んだ声で)左近殿、左近殿、段蔵にござる。脱出の準備が整いました」


「鳶加藤さん、そのことなんだけど、オレは逃げないよ」


「では、左近殿はどうされるおつもりで? まさか、座して死を待たれるおつもりか? 」


「いいや、おれはまだ死にたくないよ。だってまだ月代ちゃんに気持ちを伝えてないからね」


「ほう、()がれ(ひと)への執着にござるか、ならば、尚更、ここを脱出成されたほうがよからぬか? 」


「実はね。昨日の段階では妙案なんてなかったんだけど、今日、ホントに妙案が閃いちゃったんだよね」


「してその妙案とは? 」


「簡単なことさ」


「ほう城攻めを簡単と申されるか」


「うん。この城は武田に囲まれ、食料がもうないんだ。それが何日もつづいて城の兵たちはもう戦う気力もやる気もない」


「で、どうされるので? 」


「オレが中から城門を開ける」


 鳶加藤は、歓喜して、


「そこを一気に、赤備えの騎馬隊が雪崩れ込むと……」


「ちがう! それだと城のおじさんたちが死んじゃうじゃない」


「では、どうやって城を落とすので? 」


「鳶加藤さんには、山県のおじさんに相談して、オレが城門を開けたら、白米を一気に運び入れて欲しいんだ」


「白米ですと! 」


「そう白米。ここのおじさんたちは、腹をすかせているから、ごはんを食べさせるだけで、みんなこっちの仲間になってくれると思うんだ」


「ほう、それは人の心理を見事についた妙案。過つて、武田家にこの人ありと言われた名軍師、山本勘助殿でも思いもよらない策にござる。では、いかほど白米を用意すればよかろうか? 」


 左近は腕を組み、


「そうだな~、山県隊の持つてる米全部でいいんじゃないかな? 」


 鳶加藤は、頭に血がのぼって怒気を含んで、


「馬鹿を申されるな、そのようなことをすればたちまち我が山県隊が干上がってしまいます」


「大丈夫、心配いらない。そこはもう一つ、米を手に入れる算段がオレにはあるんだ」


「してその算段とは? 」


「獄卒の仲良くなったおじさんに聞いたんだけど、次の城、作手(つくで)亀山城の城主、奥平定能は用心深い男で、城の蔵には二、三年籠城できるほどの米を蓄えてるらしいんだ」


「わかりました。この鳶加藤も誰も殺さない左近殿の策に乗り申そう。すぐさま作手亀山城へ忍び込み、蔵の城米を確認しましたら、山県殿へ進言申し上げ、明日の総攻めの手筈をいたしましょう」


「頼んだよ鳶加藤のおじさん、田峰城は無血開城だ! 」




 つづく


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