267佐近の漢と秘策(佐近のターン)
――長篠城
長篠城は豊川と宇連川が合流する切り立った断崖にある天然の要害である。ここは、徳川家の影響の強い三河国にあるが、現在は、甲斐国・信濃国を領する武田勝頼と国境を接していることから侵略され武田領となっている。さらに、長篠城が重要なのは、尾張国の織田家とも国境を接していることだ。
そう、ここ長篠城は、織田・徳川連合と武田家の激突を誘発しやすい環境にあるのだ。
長篠城を傍観する丘に差し掛かった渡辺勘兵衛こと嶋左近と、剣豪 奥山休賀斉と徳川の忍衆 服部半蔵配下の疾風、捕虜となった武田忍 美里の四人は、長篠城に向かって続々と運び込まれる切り分けられた木材に驚きの声を上げた。
「疾風、あれはなんだ?」
奥山休賀斉が、先行して偵察してきた疾風に訊ねた。
「武田は、領国の最前線の長篠城の防備を固め,長期戦に持ち込もうとする算段です」
「と、いうことは、城主の菅沼正貞は武田と共に徳川に本気で刃向かうつもりか?」
「利口な奥平とは違い、田峯城の菅沼定忠はじめ菅沼一族は此度の決戦には武田に与するようにございます」
「う~む、ということはワシらが素直に長篠城に助けを請うても、正貞は、木偶人形の脅威をワシらが訴えたところで簡単には協力してもらえぬのであろうな」
「そうなりますね」
腕組みして、眉間に皺を寄せた奥山休賀斉が、佐近に突然話しを振った。
「渡辺殿、そろそろ名案を教えてくだされ」
岡崎街道から長篠城へ向かう道すがら佐近は、武田忍の三ッ者 秋山十郎兵衛の使う死兵の秘術 木偶人形へどのように立ち向かったものか思案していた。しかし、そんな閃きなどおいそれと思いつくはずもなく、佐近は奥山休賀斉に話しを振られるまで無策であった。
しかし、佐近も熱田で稲葉一鉄から与えられた遊郭に売り飛ばされた稲葉の娘たちを買い戻すため、この奥山休賀斉を通じて、すでに徳川から金を融通してもらっている。
「できませぬ」と、簡単に話を放り投げると佐近の”義理”が立たない。義理が立たぬということは佐近が大事にしている漢ではなくなる。
「男」と「漢」は違う。「男」は性別を表す言葉であるのに対して、「漢」は己の生き様をかけた美学・志を必要とする。
戦国のこの時代、名を上げた漢たちはそれぞれの美学を掲げて戦った。
織田信長は「天下布武」。日ノ本(日本)を武力をもって一つにする。
武田信玄は「風林火山」中国の孫子の兵法を礎に戦略を立て、敵を討ち滅ぼす。足利将軍の呼び掛けに応じて上洛の途につくが、夢半ばで病に果てた。
上杉謙信は「毘沙門天」神仏の加護をもって己がその化印となって、最前線で敵に突っ込み最強の矛となる戦方。
大国の主たちは皆それぞれに理想を掲げ、理想を目指した。
では、嶋左近はどうか、彼の理想は天下を望むような大きな物ではなかった。大きくなくても強き志、”義理”や”人の情け”を大事にすると言うことである。
織田信長や、武田信玄、上杉謙信のような天下を望むスケールはないが、佐近の理想は己の美学を全うする強さがある。
それが佐近が”漢”である証拠である。
「奥山殿、策らしい策はないが、長篠の菅沼は、木材の運び入れに注意を向けている。ならば、そこを突き、木偶人形の脅威を訴えて作手亀山の奥平定能の兵を動かし運搬の人足に兵を偲ばせて、どさくさ紛れに長篠城を乗っ取ってしまえばどうだろうか?」
奥山休賀斉は、佐近の策を聞いて、目を剥いて顔を近づけた。
「おお~、渡辺勘兵衛殿はさすが侍大将じゃ。ワシが見込んだだけはある。ワシならばどうひっくり返ってもそのような策は思いつかん、出ても尻の穴から屁が出るだけじゃわっはっは~」
奥山休賀斉の下品な同意を聞いた美里が、ポツリと、
「これだからむさ苦しい男は嫌い」
と、女の本音を漏らした。
「では、ワシは佐近殿の策に乗って策士の奥平定能を説得するかな、この策ならば,知恵に色気をみせる奥平定能のことだ話しに乗ってくるに違いない。それに、こちらの条件には隠し球があるからのう」
「隠し球?」
佐近が、奥山休賀斉に訊ねた。
「実はのう。中身はわからんが、奥平定能を説得する際にコレをみせるように、ワシ酒井様を通じて、徳川の殿から手紙を預かって居るのよ」
と、奥山休賀斉は懐から、家康の花押で封がされた文をチラリとみせた。
「奥山休賀斉殿の自信はそのような裏付けがあったのですね」
奥山休賀斉は、フフと笑って、
「そうじゃ、学のない一介の剣術使いが、重要な役目を仰せつかったのには、奥平の一族の人間であることとと、徳川の知恵袋、本多正信からこのような裏付けをいただいておったのよ。しかしじゃ、この裏付けを使うにもそれなりの知恵と使いどころがある。それをワシは渡辺勘兵衛殿の力を拝借いたしたのだ」
「奥山休賀斉殿は、さすが海内無双の剣豪と謳われる御仁じゃ、某は、上手い具合に使われました」
「いやいや、渡辺殿を選んだのは、伊勢長島の一向一揆の折に、弱兵の吏僚の林通政隊にあり助太刀して,殿軍を一手に引き受け見事、織田の大殿を逃がした才覚を見込んでじゃ。熱田で偶然、渡辺殿にで会うた時、ワシは天が味方した。この奥平定能の調略は必ず成功すると確信したぞ」
「奥山殿にそこまで仰せられると、鼻がかゆうございますな」
ゴーン!
ゴーン!
遠くで寺の鐘が鳴った。
「おっと、いけない。ここで話し込んでいる場合ではござらん。寺の鐘が酉の刻、日没を告げました。急ぎ、動かねば、三ッ者 秋山十郎兵衛と木偶人形が追いかけてきます」
「そうであるな。ワシは奥平定能を調略いたすゆへ、今晩だけは、渡辺殿お一人でなんとか生き延びて下され」
つづく
皆さん、こんばんは星川です。
星川は、勉強嫌いなのは皆さん薄々ご存じかとおもいます。
私は、テキトーと、無責任、楽がしたいの三本柱をモットーにしております。
それでも、一応、物書きの端くれ、執筆するためには、資料を調べたり勉強も必要です。
そんなとき、一冊の良い本を見つけました。
「20時間でスキルを身に着ける!」
だったかと、正確なタイトルと、作者を失念してしまいました。だから、このあとがきは参考程度にご覧ください。
なんでも、そのほんでは、どんなすきるでも20時間ほど取り組めば、プロ並みとは申せませんが、普通にこなせるレベルになるそうだと書かれておりました。
ステップは簡単で、
1分解ースキルの要素を小さくいくつかのサブスキル分ける
2学習ーいくつかのサブスキルを調べる
3除去ー実際に勉強する段になったら、勉強の妨げになるものを目の前から消し去る。
4練習ー重要なサブスキルからはじめ、合計20時間勉強する
これだけでございます。
まあ、20時間も机に向き合えるだけで、あたしのようなボンクラには難しい話なんですがね( ´∀` )
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それでは、また、来週に。