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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
一章 疾風! 西上作戦開始!
26/399

26月代の誘惑……(現代、左近のターン)チェック済み

 現代の高校生、時生カケルと魂が入れ替わった戦国武将の嶋左近は、カケルの直面する課題"進路"に悩んでいる。


 母妹(おやきょうだい)含めて誰もカケルの進路希望を知らないからだ。


 左近は、カケルの情報を掴めぬものかと、つけっぱなしのゲーム関ヶ原の操作を、カケルの幼なじみ北庵月代へ尋ね教えてもらった。


 が、その時、月代から「一緒に東京の大学へ行って欲しい」と、告白された左近であった――。



 小学生以来、久しぶりに時生家を訪れた月代に気を良くした母、清美が、晩御飯を振る舞い左近と食卓を囲む。


「月代ちゃん、しばらく見ない間に大きくなったわね。わたしが知ってる月代ちゃんは、朝、迎えに来て、カケルと一緒に手をつないで通学してる頃だからずいぶん昔の記憶ね」


 月代は、恥ずか気に少し照れくさそうに、頬を掻いて、


「そうなんです。5年生になった頃かな、ワタシとカケルくんが、手をつないで通学してると『カケルと月代はあっちっち~、あっちっち~』ってクラスの男子が冷やかしたんです。すると、カケルくんが『オレと月代はあっちっち~ちゃうわ!』とムキになってワタシの手を振りほどいたんです。それ以来なんだか気まずくなって……」


 清美は、合点が言った、ように大きく頷いた。


「なんだ、そんなことがあったの。あんなに仲の良かった月代ちゃんが、ある日を境にピタリと姿を見せなくなったものだから、カケルが失礼なことでも言って嫌われちゃったのかと思ってたわ」


「いいえ、カケルくんを嫌うだなんてとんでもない。ワタシの気持ちはあの頃となんにも変わってません……」


 と、月代は言いよどんだ。途中で自分のこの発言がまるで告白であることを認識して、顔を真っ赤にした。


 清美は、幼い頃と変わらず"純"なほほえましい月代の反応に微笑をこぼして、鈍感な息子にイジワルしてやりたくなった。


「カケル? 月代ちゃんにごめんなさいしなさい! 」


 まるで子供あつかいである。カケルも、いや、この場合は正確には60歳の左近であるのだが、生まれて抱き上げてから乳をやり、おしめを変え、泣く子をあやし、寝かしつけ、夜泣きで起こされても我が子を愛して離さない(ひと)。母には逆らえない。


「月代殿、幼きことと申せ、その節は申し訳ござらぬことをしでかしてしもうた。どうかこれからはなにかとよしみを深うして下されよ」


 左近はこの女には敵わないと素直に頭を下げた。


 清美は、すかさず、


「まるで物言いが武士ね、ホントこの子どうなっちゃったのかしら?! 月代ちゃん、どうかこの子を嫌わないであげてね」


 清美に話をふられた月代は、激しく頭を左右にふって、


「ワタシがカケルくんをキライになるなんてありえない……」


 と、また自分の発言に頬を赤く染めた。



 グゥ~!


 例の如く、左近の腹が鳴った。ここからは、月代との団欒である。血で血を洗う戦場で命のやり取りをしていた左近は、愛する女との団欒がこれ以上ないほど幸せな時間であることを知ってる。


 今日、何があったか、学校でクセのある田中先生がまたぞろ化学記号の新しい語呂合わせの話をしたとか、帰り道でいつも通る井坂さん家のネコのタマが、ゴロンと横になって甘えてきたとか、近所の鈴木さんのお姉さんが産婦人科へ通う噂――。


 こんな一時がどれほど戦士の心を休めるか左近は味わい深く、うなぎの蒲焼きへ枡箱の山椒を匙にとり、うなぎにふりかけ、クンクと香りを楽しみ、そして、口へ運ぶと幸せを噛みしめた。


「ワシは幸せ者にござる」


 清美が、


「あらあら、カケル、突然感慨深く涙を浮かべて、そんなに美味しかった? 」


 左近は、うなぎをガツガツがっついて、


「ウマイ! ウマイ! 今日も母上のメシは一等旨うござる!」


 こんなカケル、いや、左近が食べる姿を見ているだけで、周りに居るものは、みんな幸せな気持ちになる。そして、心奪われる。(ずっとこの(おとこ)のそばに居たい)と思うのだ。


 もちろん月代も心を奪われた。月代は、先ほどの進路の話を母、清美の前で打ち明けた。


「おばさま、カケルくんにはワタシと一緒に東京の大学へ行って欲しいと思っています! 」


 月代の覚悟に、左近は思わず食った飯を吹き出しそうになった。


 左近は、胸を叩きながら、母、清美から水をもらって落ち着かせ、


「またれよ月代殿。その件はワシも思案のしどころじゃて心が決まっておらぬ。突然の物言いにホラ、母上も困ってごさる……」


 と、左近が母、清美を振り返ると、清美はぜんぜん困った素振りもなく、テーブルに三つ指ついて、


「月代ちゃん、あなたの気持ちは良くわかったわ。こんな侍言葉で話すバカ息子で良ければ一緒に東京へ連れて行ってあげてちょうだい」


 と、トントン拍子でカケルの、左近の進路は決まってしまった。


 晩御飯のあと、月代を家まで送った。送り道では、左近と並ぶ月代との距離がもう少しで互いの指先が触れあうほどに近かった。


 左近の心に、今世(こんじょう)の月代は、カケルが心に決めた彼女にござる。ワシが愛する月代はあの世にござる。と、強い心がなければ、このまま別れぎわに唇を奪ったやもしれぬ。


 月代はその気であったろう……。帰宅後、部屋のベッドへ横たわった左近は、ボンヤリそんな甘い夢の中へいた。


 しかし、その時、パソコンで自動プレーされている歴史シミュレーションゲーム関ヶ原の嶋左近に新たな変化があった。気づいたのは、翌日の朝、起こしに来た妹の清香だった。




 つづく









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