247織田家譜代の林家も佐久間家も問題ごとには首を突っ込まない(佐近のターン)
渡辺勘兵衛は、座敷の菊水泉の芸子を引き上げさせ、酒に酔った林新次郎と、佐久間信栄を部屋の隅に正座させて、曽根から売られてきたであろう、芙蓉、梅、カエデと向き合った。
「なんだって! そんな不貞な話しが織田家に存在しているのか‼」
斎藤道三の側室で、弟の稲葉一鉄から捨て扶持を貰って暮らす姉の深芳野は、着物道楽が過ぎて、養老で神の力で人助けをしている役河王の金庫番は表の顔で、裏の顔は、織田信長に滅ぼされた美野国の守護大名 土岐頼芸の復権を武田勝頼と通じ企む金蔵の腹の内は知らずに利用され、着物道楽の支払いに、自分の元へ行儀見習いに上がった曽根の娘たちを自分は知らぬフリして売り払っいた。
深芳野着物道楽の支払いは、行儀見習いの娘たちで、それだけだと深芳野の責任が追及される。そこで腹に一物ある金蔵は、奇跡の力で人助けをする役河王の棲む養老山のあらぬ噂”養老山には人を食う鬼が居る”という噂を流して、半ば公然に人攫いを公然と行っているのだ。
養老山の鬼の噂を確かめるため、曽根の領主稲葉一鉄から捜索の命を受けた渡辺勘兵衛こと現代の高校生 時生カケルと身体と魂が入れ替わった嶋左近から、娘たちの生い立ちを聞いた新次郎は目をむいて身を乗り出した。
「つまり、渡辺様。私が楽しみで菊水泉に通っていた理由が、何も知らずに攫われ売り飛ばされた不幸な娘たちを生んでいたんですか!」
腕を組んで新次郎の解釈を聞いていた佐近が、静かに、
「そうだ」
と、頷いた。
「そんなこと言ったって、俺たちは、女郎屋に上がった娘を高い金を払って買っている上客だ。俺たちに罪はない」
信栄が居直る。
佐近は、静かに、
「そうだな。新次郎殿も、信栄殿も、娘たちの背景は知らないただの客に過ぎない。罪には問えないであろう。だがな、その裏側を知ったからには、もはや、知らぬ存ぜぬでは通りますまい」
信栄は、眉をしかめて、
「私の家は、織田家宿老佐久間信盛家であるぞ、それが、稲葉家の不祥事に首を突っ込めば、あの頑固一徹な稲葉一鉄が相手だ。西に石山本願寺、東に武田勝頼と二正面で激闘を続ける織田家の中心美濃で稲葉一鉄に反乱でも起こされてみろ、稲葉と近しい、西美濃三人衆、安藤守就、先の戦いで討ち死にした氏家卜全の嫡男が共に反旗を翻せば西から東からの挟撃、内なる稲葉の反乱で織田家は一巻の終わりだ!」
と、信栄は立ち上がって、
「俺は、この一件は知らん。新次郎、俺は帰るぞ! 新次郎お前はどうする。このような厄介ごとに首を突っ込むとろくな事はないぞ」
「俺は、渡辺様には、父上も世話になっているし……」
と、言葉を濁した。
「そうか、新次郎、今宵、私とお前はここで合わなかった。私は、渡辺を知らなければ、稲葉の一件も存ぜぬ。よいな!」
と、言い残して、信栄は菊水泉を後にした。
心配そうに新次郎が、佐近にすり寄ってきて、
「渡辺さん、私はどうすればいいのでしょうか?」
と、子犬がすがりよるような顔をして佐近の返事を待っている。
(新次郎殿は父親の通政殿に輪をかけて肝っ玉を小さくしたような御仁であるな。織田家の宿老家で、先ほどの名門の意地ばかかり高く実力が伴わない佐久間殿。戦に出ず内政、吏僚仕事に奔走する林家の先行きが心配であるな……)
佐近は、竹を割ったように、
「新次郎殿、物は相談であるが、此度の一件に林家や佐久間家、新次郎殿や信栄殿は知らぬ存ぜぬでかまわぬ。だが、今日のここの支払いと、曽根の娘たちの身の上を、ここの主人に自己談判するため席を設けてはくれぬか」
佐近から、厄介ごとの助け船をもらった新次郎は破顔して、
「それぐらいお安いご用。渡辺殿には父上が世話になったのに力になれず済まん。林も佐久間も、羽柴や明智など新参の大将共の突き上げが激しいのだ。なにか、不祥事にでも関わってお家に差し障りがあっては、織田家筆頭家老の面目が丸つぶれになるから、これも侍奉公の難しさだと思って勘弁してくれ」
(新次郎殿違うぞ、侍奉公とは、在中戦場。例え戦のない屋敷で奥方と膳を囲んで居っても、いつ何時敵や不審の輩が襲撃してきても対応できる心持ちで居るか。武士の面目を言うならば、織田家の大事に繋がりかねない一件を知り得れば、命を賭けて取り除くのが侍道。己の保身をはかるのは侍の道ではない)
佐近は、新次郎の言葉に異論があるわけではないが、新次郎なりの言い分もあるだろうと推量して無理は頼まなかった。
新次郎の手配で、菊水泉の女将との席を設けてもらえることになった佐近は、怯えた芙蓉、梅、カエデを落ち着けるため、女中に命じて生せんべえを持ってこさせて食べさせた。
生せんべを食べた娘たちは、甘い物を食べてほっとしたのか笑顔がこぼれた。
コトリッ!
座敷の天井の羽目板が一つ外された。
「きゃー! 鬼‼」
天井の暗闇から顔を出したのは、後鬼だ。
「佐近、話がある」
「後鬼殿、娘たちが怖がって居る仮面を付けてはくれぬか」
「おっと、済まんかった。つい、問題があって、おかめの仮面を付けるのを忘れて居った」
「問題? 一体どのような」
後鬼は、天井から山吹色の頭巾を落として、
「先ほどの林や、佐久間は、理由は分からぬが信長の手の内の甲賀者に見張られておるぞ」
つづく
皆さん、こんばんは星川です。
先日、ハイキングに行って参りました。
阪神タイガースの本拠地甲子園のある兵庫県西宮市の北部山岳地のJR生瀬駅から、宝塚歌劇団の本拠地宝塚市のJR武田尾駅のかつてあった線路、現在は、枕木と煤けたトンネルを残すのみとなった廃線跡を歩いてきました。
およそ二時間の行程。
生瀬駅から武田尾駅の廃線跡には、並ぶように一級河川の武庫川が流れています。武庫川は、温泉で有名な有馬温泉から、海に向かって流れています。
私は、車で、有馬温泉へ向かうときに走ったことはありますが、歩いたことはありません。
廃線の入り口は、土手に一面の菜の花、その先に、里山と、小さな集落があります。
最初に、武庫川の支流に架かる木橋を渡るといきなりトンネルが待ち受けます。
トンネルは真っ暗で、出口の明かりも見えません。あらかじめ持参した懐中電灯を灯して進みます。
真っ暗な暗闇の足下は砂利敷き、頭部からはところところ、水滴が滴ります。
ちべたい!
水滴が首筋に落ちました。ひんやりして、まるで、幽霊に首筋を触られたように感じます。
長いトンネルを6つ、切り立った渓谷をたどって進みます。
本来でしたら、もう10月ですから、渓谷は紅葉していても可笑しくないのですが、まだ、山は緑。イマイチ風情がありませんでした。
でも、空気が澄んでいて心が洗われるような感じがしました。
途中に、トイレもなく、二時間歩き続けるのはなかなかな強行軍ですが、たまに、皆さんも山へハイキングおすすめですよ。
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それでは、また、来週に。