244山城・大和守護、原田直政(カケルのターン)
南山城国槙島城。
殿上の柱に、数多の刀傷が残る。
「備中守(原田直政のこと)様、大殿よりの文に御座います」
槙島城の廊下を、使い番が息を切らせて走ってくる。
足利義昭が立て籠もった槙島城の陥落後、織田信長の馬廻り衆、赤母衣衆から山城国守護に任命された塙直政は三十五歳、戦働きでの立身出世と言うよりも主に政務でその器量を発揮し守護にまで上った。
直政は山城国守護と言っても、山城は直政を含めた四人の実力者が分割統治している。
山城北部は明智光秀が、市中においては京都所司代村井貞勝が、そして、宇治川以南はこの槙島城で直政が采配を振るう。他に、桂川以西において細川藤孝が治めている。
明智光秀は、近江坂本にあって比叡山焼き討ちで生き残った門徒を抑え山城北部から、先頃、信長に臣従した丹波国の国人、波多野秀治、赤井直政を従える。
村井貞勝は、先の京都所司代編で紹介したように、織田家の各重臣家から若い人材を集めて、吏僚的働きを期待して育成に力を入れている。
原田直政は槙島城に在りながら、織田家に臣従した西大和の松永久秀と、東大和の筒井順慶を支配する。
細川藤孝は、京の都と摂津国の国境、勝竜寺城に在って、摂津に残る三好家の残党や、本願寺門徒の侵入を防ぐ国境境の関所の役割を与えられている。
「なに、蘭奢待を拝見したい」
直政への信長からの命令は、東大寺正倉院に収蔵されている天下一の香木の切り取りだ。
蘭奢待を切り取り所有する事は、実質の天下統一の天下人であるとの宣言に近い。
これまでに、蘭奢待を切取った者は、
・室町幕府三代将軍、足利義満。
・足利義教
・足利義政
・土岐頼武
の四人だ。
足利義満は、金閣寺を建てた室町幕府最盛期の将軍。六代将軍足利義教は悪性軍の評判。足利義政は銀閣寺。土岐頼武は美濃国守護で武勇の士。
天皇以外で、蘭奢待を切取った者は、実質上の時の天下人である。
直政は、山城守護に続いて、先頃、大和守護に叙任された時からいやな予感がしていた。大殿はいつもそうだ厄介ごとは俺ばかり使う。
これまでも直政は、信長からやっかいごとを仰せつかる。
親父殿こと柴田勝家の娘との縁組み、信長入京後の混乱した機内の政務、そして、こたびの蘭奢待と朝廷との交渉。切りがない。
しかも大殿は、相手の感情を見定めて交渉しなければならないところを、算段して見積もる期限より遙かに早く結果を求める。結果を求めるだけならよいが、年に一回開かれる織田家重臣の集まる代評定で信賞必罰を大々的に行う。
最近メキメキと大殿の無理難題に応じる新参者の羽柴秀吉や、明智光秀などは、水を得た魚のように活躍の機会としている。
対して、尾張時代からの古参の家老、林貞秀、佐久間信盛などは、いまいち目立った活躍はない。
もともと、武勇に秀で最前線を任される親父殿柴田勝家などは、若い母衣衆から不破光治、佐々成政、前田利家を組み入れて侍大将の戦場での呼吸を身につけている。
(しかし、俺は・・・・・・)
信長が、直政に求める仕事は、林秀貞が担っていた役回り、家中の政事全般、兵站(物資の補給等)を任されることも多くなった。家宰の林秀貞が、老いたのもあるが、拡大を続ける織田家のスケールが、もはや尾張一国の家宰の林秀貞には手に余るのだ。
そこで必要になるのが、新たな織田家の家宰候補。それに、大殿は俺に目星をつけているのだろう。
今思えば直政は、信長の母衣衆として前田利家と戦場を駆けてる間が気楽でよかった。
栄達ではあるが、槙島城を任されてから、大殿の要求の質が一段上がってからは常にそう思うようになった。
大殿の文を受け取った直政は、控えの間で待たせている松永久秀の使いの高山友照・右近親子と、筒井順慶の使い松倉右近果たして、この貧乏くじをどちらに引かせたものか・・・・・・。
直政は、多聞城の広間に高山親子と、松倉右近を呼び寄せ向かい合わせに座らせた。
これは、信長がよく評定で使う手だ、吏僚の林秀貞と、武断派の柴田勝家を向かい合わせに配して、問題に対するそれぞれの見解を述べあう。
意地の悪い信長の評定だ。直政は、それをやってのけようと言うのだ。
「高山友照殿、松倉右近殿、此度、大殿より正倉院収蔵の蘭奢待拝見を仰せつかった。この朝廷と東大寺の交渉役をどちらに任せたものか迷って居る松永家、筒井家どちらがよいか」
朝廷への交渉役は、タダでは住まない。天皇への取り次ぎ役公家摂関家へ根回しには高額な金がいる。東大寺にしてもそうだ。日本最古の寺の威信や対面がある。この二つの勢力を動かすには何より金だ。
松永も筒井もできれば、捨て銭をたくさん使う朝廷ごとには関わりたくない。
先に、動いたのは松永家高山親子だ。
「備中守様、噂では、蘭奢待と朝廷ごと以外にも、大殿より難題を振りかけられているとかお聞きしましたが、松永久秀は、そちらの方にお力になれると久秀から文を預かっております」
久秀は何処で聞き及んだのか、織田家の重臣家に割り当てられた鉄砲の購入をどこからか知り、直政のもう一つの悩みの種を知り得、心のすきに忍び寄ったのだ。
つづく
皆さん、こんばんは星川です。
最近、目に余ることに気がつきました。
IFの歴史を無責任に扱ってる作者でありますが、テキトーに見えて、結構、私は図書館に通って一応資料を読んでフィックションの歴史を紡いでるんですね。
こないだ、やはり資料を探しに近所の図書館へ参りますと、大声で窓口の女性に向かって怒鳴りつける50代に見える中年男性がいました。
「本を借り直すと言ってるヤロウ‼」
「はい、ですから一端返却いただいてパソコンで次の予約者がいないかどうか確認しないと参りませんので」
と、窓口の女性が丁寧に当たり前の事務的手流れを説明する。
中年男性は、また、その言葉に腹を立てて、
「なんや、俺が盗むとでもおもってんのか!」
と、また、怒鳴りつける。
まったく、公共機関の事務的処理は、当たり前のこと、ましてや、窓口の女性は、丁寧に理由も説明してるのに、この男性は何が気に入らないのか理不尽に怒るばかり。
最近、よく出くわすんですこの手の年輩・中年の暴君。
あるとき、スーパーに行きました。ここでも、奥さんと来ていた年輩の男性が、
「おい、早くしろ!」
「それぐらい、さっさと済ませろ!」
「おい、おばはんトロトロしてるなどけ!」
この手の自分本位に暴言を連発する暴君案外多いんです。
この手の暴君の狡いところは、一応、体格的に鍛えている私のような人間には、暴言は吐きません。決まって、小柄なお優しそうな女性にばかり暴言を吐くんです。
なにが気に入らないんでしょうね。
窓口の女性も事務的でゆったり仕事はなっさっているようにはみえますが、怒るほどではありません。
なにより、暴君に言いたいのは、その女性たちは、あなたの部下でも奴隷でもないのです。少し気弱で誠実なだけであなたに口汚く罵られるいわれはないのです。
なんだか、悲しくなります。もっと世の中、周りの人に感謝の精神で寛容に接した方がどんなにか平和だろうと思います。
どうしてなんでしょうね年輩・中年の男性のこうした暴君が生まれるのは、私にはわからない感覚です。
ちょっと、悲しくなる人に出会った一週間でした。
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それでは、また、来週に。




