24カケルの部屋(現代、左近のターン)チェック済み
カケルの部屋――。
左近は、机のパソコンデスクへ向かう月代へ寄り添っている。
月代が、
「カケルくん、ゲームするのね。しかも戦国シミュレーションゲーム関ヶ原」
「そのようにござる。しかし、使い方が分からぬのだ」
月代は、マウスを操作して"伝令"メッセージボックスをクリックする。
"ミッション 三方ヶ原の戦い~田峯城を攻略せよ~"
「プレイヤーは嶋左近で現在自動プレーで、生け捕りに成ってるわね」
左近は、首をひねって難しい顔をして後ろから月代の肩を抱いて覆い被さるようにパソコンの画面を睨んだ。
「ちょ、ちょっと! カケルくん」
月代は、顔を真っ赤にして抵抗した。
左近は構わず、月代のマウスへやる手へ自己が手を重ねる。
「月代殿詳しく、もっと詳しく状況を見せて下され」
月代は、ポッと頬を染めながら、まんざらでもない様子だ。
「カケルくん、あのね……こないだ話した進路どうするの?」
左近は、月代の問いかけを聞いておるのか、居らぬのか知らぬそぶりで、月代の手に手を重ねたまま、マウスを操る。
"伝令!"
赤文字で点滅する新しい伝令が入った。
「これを見せて下され! 」
左近は、月代に画面の伝令を指差し尋ねた。
「ええと、左近が忍者、加藤段蔵の手引きで、捕らわれの牢獄から抜け出したわね」
"ミッション! 田峯城から脱出せよ!"
月代が、オートモードのゲームの左近が、脱出を図るミッションなのに、進行方向が田峯城本丸、城主菅沼定忠の館へ向かっていることに気がついた。
「カケルくん、このゲームのAI変わってるわねまるで、自由意思でもあるように、目的のミッションに反して本丸へ向かって行くわ」
左近は首をひねって思案した。
「そうか! 捕らわれの身でありながら、あべこべに菅沼定忠めを調略へ向かっておるのか! 」
ゲームの左近はろくな武器ももたずにグングン菅沼定忠目指して進んで行く。
菅沼定忠の寝所――。
「殿、一大事にござる! 嶋左近めが牢獄を抜け出しこちらへ迫っております」
菅沼定忠は伝令に飛び起きた。
「獄抜けとはどういうことじゃ」
「左近めは何者かの手引きで抜け出したもようにございます」
「ええい、彼奴めをこの城から出してはならぬ追え! 追うのじゃ」
「はっ! 」と承ったが、まだ、片膝をついたままだ。ひじょ~に申し上げ難そうに、
「殿、実は左近めをすでに捕らえてございます」
「どういうことじゃ? 」
「左近めは、己が能力を過信しておるのか、あろうことかこちらへたった1人素手にて攻めよせて参りよるので、雑兵たちで取り囲み縄をかけてございます」
菅沼定忠は、
「よし、左近めに会いに行く! 」
――カケルの部屋。
頭をかかえる左近。
「あちゃ~、なにがなんでも素手にて真正面から本丸へ乗り込む馬鹿があるものか」
月代が、左近がゲームの結果に夢中に成ってるものと、微笑みを送っている。
「しかたないわねAI の自動プレーだもの、ここは、操作を手動にした方が良かったんじゃない? 」
左近は、月代の提案に目を輝かせ、
「なに、操作出来るのにござるか? 」
「ちょっと待ってね」と、月代がオートモードから手動モードへ切り替えた。
「あ~、ダメねこのゲーム。主人公の操作は出来ないみたい。でも、フリーコマンドを入力して、天の声の立場から主人公へ指示を与えて関与するのね。野球やサッカーの監督の立場ね」
ならばと、左近が身を乗り出して、まるで、犬やネコ、ペットの小動物みたいに、目をクリクリに輝かせ、
「月代殿、ワシにその操作を教えて下され」
「ふ~ん、いいけど……」月代が、すこ~し意地悪に笑った。
「よし! 」すぐさま月代の傍らへ寄り添い、マウスへ手を置く月代の手へ己れの手を重ねようとした。
月代は、さっと、手を引いて逃げた。
「教えるには1つ条件がある」
「なんでござる。ワシに出来ることならなんでもする教えて下され」
月代は、意味深に尋ねた。
「カケルくん、進路は決まったの? 」
「いや、まだ、カケル殿の真意……、いや、決めかねておる」
「就職じゃないわよね。カケルくん、昔から頭がいいから、ほら、小学生の時に社会が苦手なワタシに織田信長や、豊臣秀吉、徳川家康とかの歴史を教えてくれたじゃない」
左近は、月代の機嫌をとるようにトボケて話を合わせ、
「そうであったかの? ハハハ」
「ワタシ、そこから戦国武将みたいに勇ましい男性が好きになったの……」
と、言いおえると月代が左近へ熱い視線を送った。
左近は困った。戦国を生き抜いた気丈夫の左近である。女心の彩など手に取るようにわかる。しかも月代は、戦国に、自己れが妻として愛し、惚れ抜いた女なのだ。嫌う理由などない。だがしかし、この時代の月代は自己れの妻の月代ではない。もしかするとカケルが愛する女なのだ。
(このまま受け入れては不義になる……)
左近は、頭を掻いて、
「月代殿、お主の心は嬉しい。だが、考える時間を下され。ワシはまだ、進路を決めかねておる」
月代は、左近の子供のような回答にウソがないと感じた。
「わかった。でも……」
「カケルくん。進路がまだ決まってないなら1つ提案があるんだけど? 」
「ほう、教えて下され」
「カケルくんにも、ワタシが行く東京の大学へ進学してほしいの」
と、左近と同じパソコンへ向きながら、そっと、マウスに手を置く左近に手を重ねた。
つづく