238信玄の霊言(カケルのターン)
羽柴家の怪僧、憧鑑を退治したカケル、お虎、菅沼大膳の三人は、寧々をはじめとする羽柴家の面々、助太刀してくれた蒲生賦秀たちと別れ、瀬田で待つ山県昌景を追って中山道を急いだ。
「おい、左近。あの大名行列はなんだ?」
菅沼大膳の指さす先に、水色桔梗紋、明智光秀の馬印だ。
「左近、あちらは?」
別の街道からお虎が指さす先には、丸に二つ雁金、織田家古参の家老柴田勝家の馬印だ。
すると、カケルはその場にドカリと座って、目を閉じ、腕を組んで考え出した。
「ちょっと、考える時間をください」
「どうした左近」
「左近、早くお前の考えを教えるのだ」
カケルは、四半時ほど考えを巡らせた。
「……おい、左近、そろそろ行列が行ってしまうぞ」
お虎が呼びかけた。
カケルを注視した菅沼大膳が、
「お虎殿、左近は寝て居るのではあるまいか? ほれ、鼻先で耳を澄ましてみよ」
「ぐ~、スヤスヤ~。ぐ~、スヤスヤ~」
お虎がカケルの鼻先で耳を立てると、カケルは寝息を立てていた。
お虎は瞬間湯沸かし器的に頭に血が上って、いきなり、カケルの横っ面を張り飛ばした。
「この馬鹿者! 大事を前にしてイビキを立てる者があるか」
お虎のビンタではじけ飛んだカケルは、男に捨てられたように地面に横座りになって、
「いきなり、何すんのさお虎さん」
「いきなり何をするのさお虎さんではあるまい、織田の宿老の行軍を見つけて額を付き合わせている時に、居眠りする左近、お前の方がどうかしておるわ!」
と、お虎がすごい剣幕で怒った。
カケルは、ジリリと横座りのまま、菅沼大膳にすり寄って、お虎を指さして、
「大膳さん、あの人怖い。助けてちょ~よ~」
菅沼大膳は、カケルがすがりつく足先の腕を払って、砂を引っかけるように払って、
「左近、今回も、お前が悪い。考えを巡らせねばならぬ時に、寝てしまうお前が悪い」
「いや、夢の中でね武田の御館様が出てきてね、山県のおじさんと何やら難しいことを話していたんだ」
菅沼大膳は、夢は夢、カケルの話しを取り合わず、さっさと、受け流そうとした。
「御館様と、父上の難しい話し……左近、話して聞かせよ」
お虎が身を乗り出した。
「えーとね、夢の途中でお虎さんに起こされたからほとんどかき消えちゃったけど、覚えていることが一つだけある」
「なんだそれは?」
「決戦は関ヶ原! ……どういう意味だろうね」
菅沼大膳が呆れたように、
「どういう意味だろうねではあるまい。武田は岐阜を抜け、竹中半兵衛様の領国、古くは不破関。今の関ヶ原で織田との決戦を図るという夢だろうよ」
お虎が必死の形相でカケルを引き起こして、
「左近、その話しの続きはどうなっておるのだ」
と、問い詰めた。
カケルは、腕を組み目を閉じて再び考えた……いや、考えるフリをして再び眠った。
お虎は、武田家の重要戦略に繋がるものと、菅沼大膳と目を合わせカケルが眠るのを黙認した。
――再び、四半時が過ぎた……。
バブっス!
武田家の重要戦略を聞き出すためカケルの眠りを阻害しないように、起きるのを待ちくたびれるお虎と菅沼大膳を驚かすような、爆音でカケルが大放屁をかました。
カケルは、パチッと間を開けて、
「わかったぞ!」
お虎と菅沼大膳は、カケルの臭い放屁に鼻をつまんだまま、
『左近、どうだ? つづきがわかったのか⁈」
「うん、ハッキリわかった!」
「そうか、左近、御館様からの重要な事柄ゆへ紙に書き記すゆへちょっと待て!」
カケルは我慢が利かないように、
「言わなきゃ我慢できないからお虎さん、記憶して後で書き起こして!」
「わかった左近。(紙の用意をする菅沼大膳に目配せして)私は、話しを聞くゆえ、代筆を頼む」
「招致した」
「よし、話せ左近!」
「関ヶ原は東西に分かれての大戦なんだ」
「おお、そうか、続きを聞かせよ」
「うん、東からは大軍を引き連れたお虎さん。西からはこれまた大軍を引き連れた北庵月代」
「うむ、私と月代は、御館様が何かに例えた暗示かも知れぬ。つづきをきかせよ」
「東の大軍は、全員胸が小さいんだ。それに対して、西の北庵月代の大軍は胸が大きい」
お虎は、一瞬ピクリと眉間に皺を寄せたが、それ以上に竹田信玄、御館様の霊言かも知れない。カケルの失礼な言葉にも我慢を見せる。
「左近、続きを」
「うん、東の大軍で胸が少し大きい人もいて、中々に美人なんだ。でも、西の大軍に比べたら、やっぱり胸が小さい」
「わかった、左近。そこはもういいから、大事なところを話して聞かせろ」
「うん、東の大軍のお尻は……」
バチッコン!
お虎は我慢しきれずカケルを殴り飛ばした。
「左近、お前、さっきから御館様の霊言だと思って真剣に聞いておれば、口から出るのは、東西の女の胸と尻の話しばかりでは無いか、それに、性懲りも無く、私と北庵月代を比べて貶める。左近、ここで手討ちにしてくれる。そこに、なおれ!」
カケルは、再び、横座りのまま、菅沼大膳の足にすがりついて、
「大膳さん、俺、お虎さんに手討ちにされちゃうよ。友達でしょ助けてちょ~よ~」
菅沼大膳は足に取りすがるカケルの手を振り払って、
「左近、ワシも此度はお虎殿に同情する。潔く、お虎殿に手討ちにされるか、ここで腹を切れ、介錯はワシがしてやる!」
と、意地悪く笑いながら答えた。
「そんな~」
スパリッ!
お虎の真剣がカケルの羽織の袖をスパリと切り裂いた。
「お虎さん、マジじゃん!」
お虎は般若のような顔をかけるに見せ、
「当たり前じゃ、真剣にお前の話しを聞いて居る私を愚弄しおって、今度という今度は許さん!」
スパリ‼
「お虎さん、ごめんて、夢の話しだから悪気はないねん」
カケルは飛び起きて、逃げ出した。
「許さぬ、左近、手討ちにしてくれる!」
つづく
皆さん、こんばんは星川です。
学生の皆さんはもうじき夏休みも終わりですね。勉強に、部活に、遊びに皆さんは楽しまれたでしょうか?
私は、夏休みの宿題として定番の読書感想文を書こうと、ただいま、コツコツ本を読んでおります。
私の課題図書は、数年前の直木賞受賞作、朝井リョウ「何者」です。
・就活に直面する大学生を描いた作品。
書き出しの 起 の部分はなんやゴチゴチャして読みにくくてよう分からん作品やなとおもいましたが、さすが直木賞、大学生から就活を通して何者かなっていく自分探し。就活をとうして形作られ何者かになってゆく大学生の内面の描写が当代を生きる同世代の人間の生の感覚なんだなと目を見張りました。
私、以前、師匠に、「就活」をテーマに書いたらどうやと薦められましたが、現役の世代の朝井リョウさんのように生きた実感を描けません。
やっぱり、10代なら10代の、20代なら20代の……と、その時代にしか書けないものってあるんだなあと勉強になりました。
「何者」の読書感想文は、私が遅読なので来月の頭ぐらいまでかかるかも知れませんが、どこかでUPします。まあ、グーグルで「星川亮司」か「林走涼司」で検索したら私のツイッターも出てくると思うので、フォローでもしておいてUPするのをお待ちください。
では、ブックマーク、ポイント高評価、感想、いいね よろしくお願いいたします。
それでは、また、来週に。