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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
一章 疾風! 西上作戦開始!
22/398

22月代の気持ち(現代、左近のターン)チェック済み

 現代の高校生時生カケルと魂が入れ替わった戦国武将嶋左近は、魂が入れ替わって以来つけっぱなしの戦国シミュレーションゲーム「関ヶ原」の画面を睨んでいる。


 左近にパソコンを操作するスキルは皆無だが、ゲームから次々に飛び込む"伝令"の報告の意味はわかる。


 伝令"田峯城城主、菅沼定忠殿と一騎討ちに及んだ嶋左近殿が生け捕りになりました! "


 左近はかつて甲斐の虎と呼ばれた武田信玄の配下で、武田の騎馬隊の代名詞"赤備え"の大将、山県正景へ使えて居たことがある。人生60年、関ヶ原で散った左近だから回顧(かいこ)できる術であるが、田峯城の菅沼定忠に生け捕りにされた経験は、若く初陣の左近にとって、生死をやり取りする戦場の厳しさを知るには十分であった。


 今思えば、大将の山県正景は、戦国の試練としてあえて左近の初陣にこの任を与えたのであろう。


 左近は、ゲームの嶋左近のピンチに出来る事はないかと思案した。生け捕りにされた嶋左近に出来ることはどうすれば生き残れるかである。


 かつて、この逆境をくぐり抜けた左近は、己れがどのようにこのピンチを脱出したかを知っている。あの時の左近は、山県正景に助け出された。


(山県殿の手立ては、さすがは戦巧者、手本にしたい上策にござれど、今思えばほかにやりようがあったようにおもうな……)



 と、己れも関ヶ原で天下分け目の大戦で、西軍の大将石田三成に成り代わって采配をふるった左近には違った選択肢が見えている。


(しかして、このパソコンと呼ばれた奇妙箱はいったいどう操作したものか……)


 左近はパソコンを睨んだまま、思案の夜が暮れた。



 ――翌日。


 左近は、学校の授業を終え下駄箱で靴を掴んで、室内履きの上靴と履き代えていると、


「カケルくん! 今日、このあと時間ある? 」


「おお! 月代殿ではござらぬか」


 同級生の北庵月代が声をかけて来た。



 ――カフェショップ平群。


 山間(やまあい)に畑が広がり、江戸時代の蔵を思わせる造りの平屋の駅舎のあたりに、軒の低い民家や、旧家の日本家屋が軒を連ねている。


 左近は、月代に誘われて、そのうちの一軒。まるで、江戸時代からつづく大名家の家老の屋敷を思わせる造りの「コーヒーショップ平群」へやって来た。


「ここよ」


 月代が、家老屋敷の引き戸を開けると左近の目に飛び込んで来たものは、


「ここは、バテレンの隠れ屋敷にごさるか! いや、もしかすると南蛮商人の商館といった類いの場所でござろうか? 」


 左近は一目見るなり驚きを隠せなかった。コーヒーショップ平群は外観は、家老屋敷に見える大振りな日本家屋であるのだが、内は、左近の言葉のように、バテレンの隠れ屋敷に見える。現在でいうところの英国風サロンとでもいおうか。


 店内は、吊り下げられたシャンゼリアを照明に、英国風サロンの装いので、床一面に、中心部に大きな(つた)などをデザイン化した大きな紋様と四隅に統一紋様のメダリオンのペルシャ絨毯を敷き詰めている。


 イス、テーブルの家具はこれまた英国風アンティークで、足が小洒落て猫足になっている。


 店員に、案内された左近と月代はまるで恋人どうしに見える。テーブルについた月代が、左近に、


「私たち、店の人にはどう見えているかな? 」


 と、意地悪な耳打ちをした。


 左近は、それに生真面目にこう答えた。


「月代殿、嫁入り前の女御(おなご)が、(それがし)のような男児(だんし)とあわや噂になれば、今後にも関わろうに……」


 と、かえって左近は、月代の将来の結婚にまで思案を巡らす始末だ。


 そんな左近の戸惑いを内心喜ぶ月代は、さらに意地悪な質問をぶつけた。


「カケルくん、好きな娘いる? 」


 左近は、尚、生真面目に真っ正直に答えた。


「カケル殿の本心は分からぬが、ワシはお主、月代殿のような女御が好きじゃ。現にワシはお主に瓜二つの女房をもらっておるでの」


 左近の好きな女を知ろうと、恋の駆け引きをした月代が逆さまに返り討ちに合った。


 左近があまりにストレートに言う物、だから、月代は恥ずかしくて顔をまっかにして会話を途切らせてしまった。



 やがて――。


 店員が、左近にコーヒーを、月代に紅茶を運んで来た。


 左近は、陶器のカップとソーサーを見るなり、


「おお! これは赤絵の絵付け、柿右衛門にござるな? 」


 月代は、普通の高校生であるはずの時生カケルの知識に驚いた。


「カケルくん、スゴい! カップを一目見ただけで仕様の作を当てちゃうなんて博学ね。さすが、昔から歴史が得意だったことあるわね」


 左近は、「いやいや」と、頭をふって、


「実はの、柿右衛門とは多少面識があって朝鮮の役で、石田治部殿の命で、小西行長隊に加勢へ参ったおり、朝鮮の京機道(キョンキド)広州クァンジュの焼き物の里で、やたら、土を舐め、焼き物に使う釉薬(ゆうやく)を丹念に調べまわっておったわ。あやつは、おもしろき男であったわ」


 月代は、次から次に、幼なじみのカケルの口から、自分の知らない一面を次々に見せられたので、ビックリするやら嬉しいやら、


「カケルくん、まるで、文禄・慶長の役に参加していたように身近に感じて居るのね」


 左近は、生真面目に、


「いや、月代殿、すべて真のことにござるぞ! 」


「ウフフ、カケルくん冗談ばっか、おもしろい」


 左近は、そういえば俺は現在はカケル殿であったわ。と、冷静に戻って、そうそう、ここぞと昨日の疑問を投げかけた。


「月代殿、お主は奇妙箱。いや、パソコンとやらの使い方を知っておるかな? 」


 月代は、左近が改まって何を切り出すのだと思ったが、なんだそんなことかと、がっかりした気分で、


「基礎的なことならわかるけど……」


 左近は、歓喜して、


「それは、良かった! 月代殿、これから時生家へ来てパソコンをおしえて下され!! 」


 と、月代の手をぐっと握って喜んだ。


「それはそうと月代殿、ワシに用とはなんだったのじゃ? 」


 月代は、顔を真っ赤にして、


「バカ……」


 と、つぶやいた。




 つづく





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