218山県昌景の最後の丸投げ(カケルのターン)
羽柴四天王からの追求をなんとかかわしたカケルは、すぐに駿河の海鮮問屋政吉として寧々の屋敷に滞在している山県昌景の元へ走った。
「なんだって、羽柴の家中が武田との戦準備を始めただって!」
先に、カケルを置いて戻っていたお虎と菅沼大膳が、昌景にそう報告した。
好々爺としていた山県昌景は、眼光鋭い、赤備えの大将の気迫が戻って、
「急がねばなるまい」
と、呟いた。
「山県のオジサン、問題が増えすぎて大変だよ!」
と、そこへ、カケルが飛び込んできた。
問題は、
一、羽柴家に巣食う憧鑑をどう取り除くか。
二、憧鑑に捕らわれた寧々をどうやって取り戻すのか。
三、武田との戦準備を始めた織田家はどのように動くのか。
四、そもそもの旅の目的、武田信玄の遺言。近江瀬田に武田の御旗を掲げる目的をどうするか。
問題は山積している。
車座で、カケルの話を聞いた山県昌景は、身を乗り出して額を向けた。
「よいか左近これも戦と同じじゃ、一度、戦場に立てば、状況は止めどない変化に見舞われる。それを臨機応変に問題の優先順位を即断、即決で、動きながら敵の向こうの一手を生み出すのが侍大将の務め。その出来が武将の器量じゃ」
カケルは、「ふ~ん」と、気のない返事を返して、
「で、山県のオジサンは、問題をどう裁くの?」
と、問うた。
「わからん。ワシは、これから一人で瀬田に向かう。そうして、すぐさま取って返して、勝頼公を支えに、甲斐へ舞い戻る」
カケルは、目を丸くして、
「え? え? え? ここはどうすんのさ?」
山県昌景は、ニヤリと笑って、カケルに顔を近づけた。
「お前と、お虎、そして、菅沼大膳が裁くのさ」
「え? え? え? 無理やん。そんなんでけへんて、山県のオジサン半端ねぇ~~~!」
山県昌景は、カケルの肩に手を置いて、
「よいか、嶋左近よ。お主は、徳川討伐の西上作戦から三年、ワシの元について戦人としてどうあらねばならないかを誰よりも身近で身に着けたはずだ。お前もそろそろ独り立ちしてもよい頃だろう。幸い、左近お前には、主の筒井順慶から復籍の声がかかり、身の置き所もできた。ここが、別れの時だ」
「ええ、無理、無理、無理。そんなこと言って、、山県のオジサンのいつもの無茶ぶりでしょう。まったく人が悪いんだから」
カケルの言葉に、山県昌景は、静かに首を横に振った。
「違う」
「なにが、違うのさ。ねえ、お虎さんや、菅沼大膳さんも納得いかないでしょう?」
そう言われたお虎も、菅沼大膳も、静かに何かをこらえるように、俯いて肩をゆすっている。
「え? え? え? みんなどうしたの?? これは、いつもの山県のオジサンの無茶ぶりだって」
カケルの言葉に、お虎が、キッと涙で濡らした顔をあげて、
「父上、父上は、私に左近についていけとおっしゃるんですね」
山県昌景は、静かに首を垂らした。
「山県殿、ワシもこのまま左近の共をせよとおっしゃるので?」
と、菅沼大膳が聞いた。
「幸い、お主は、独り身じゃ、菅沼定多忠の親父殿にはすまないが、大膳。お前も、兄貴のつもりで左近について行ってやってはくれないか?」
菅沼大膳は、腕組みして、一仕切考えた。。。「ぶっー--!」しばらくすると、でかい放屁をかましてカラカラと笑って答えた。
「ワシは、難しく考えるのは性に合わん、ワシは、嶋左近という男が好きだついていこう」
菅沼大膳の「好きだ」の言葉を聞いたカケルが青い顔をして、
「え? 確か大膳さん。男色もやるんだったよね。オレそういう趣味無いから」
すると、菅沼大膳が、カッカと笑って、
「かの武田信玄公も、若い小姓とことに及んで絆を結び、侍大将に取り立てたというぞ。それに、羽柴殿が仕える織田信長だって男色の好みだと聞く。男色は侍の嗜みぞ。よいか、左近。お主さえよければ、ワシはいつだって相手になるぞかっかっか!」
「マジかよ、大膳さん痘痕の百九十センチメートルを超える筋肉ムキムキの大男とそんな気になるような人間間違ってもいないから。ねぇ、お虎さん」
カケルが隣に座ったお虎に問いかけると、お虎は、聞いているのか聞いていないのか知らない素振りで、カケルの腿をギュッと抓った。
「イテテテテッ! いきなり何するのさお虎さん‼」
「左近、馬鹿者! 男色の話など私に聞くな、私は、これでも女だ」
「ハハハハハ~愉快、愉快」
カケルと、お虎と菅沼大膳の痴話喧嘩を聞いていた山県昌景が思わず噴き出した。そうして、山県昌景は、居住まいを正してカケルに向き直った。
「左近、お虎、菅沼大膳よ。我らは、旅先ゆえ大したことはしてやれないが、ここで、固めの盃を交わそう」
「え? え? え? こういう時は別れの盃じゃないんですか?」
山県昌景は静かに首を横に振って、
「いいや、左近。お前には、ここでお虎と固めの盃を固めてもらう」
「ん? お虎さんと俺が固めの盃を固めるってどういうこと?」
すると、菅沼大膳が、
「馬鹿だなあ、左近は、お前は、ここで山県昌景殿の娘、お虎様を嫁に迎えるのだ」
「ええー----‼」
山県昌景は笑って、
「左近よ、お虎は悋気なやつだがな悪い女ではない。可愛がってあげてくれ」
「いやいやいや、俺だって……」
と、カケルが言いかけた時、お虎が、再び、カケルの腿を抓る。
「左近、私に文句があるのか?」
カケルは、また抓られると思って、否定はしない。
山県昌景が、父の優しい一面をカケルに向けて、
「よいか、左近。例え、お虎を嫁にもろうたからと言って、側室を持つことをワシは止めはせん。たくさんの子を持つのも侍大将の嗜みよ。側室をおいて、子を増やし、家を強くいたせ。のう、お虎、お前もそれぐらいは心得ておるだろう?」
「はい、私は、山県昌景の娘であります。それぐらい心得ております」
「どうだ、左近。側室の件は、お虎の了解が取れた。なんだったか、たしか、以前、お主が大和国にいたころに親しんでいた、北庵法院殿の娘を好いておったのは知っておる。機会が来れば、その娘を側室にもらえばよい。それから、お虎のことと、一宿一飯の恩義がある羽柴家のことは任したぞ、左近!」
「えー-----! 山県のオジサン結局丸投げ―ーーーーーーーー‼」
そうして、カケルと、山県昌景師弟の最後の夜が明けた。
つづく
どうも、こんばんは星川です。
いや〜、すっかり春ですな。
朝、玄関の扉を開けますと、玄関先に、桜の花びらが舞い込んできました。
川を挟んだ向こうの公園から届きました。
私の住まいは9階なんですが届きます。
不思議なものですね。
なんか、嬉しいもので、花びらを手のひらにのせて、フーっと飛ばすと、また、桜の花びらは誰かの元に届きます。
そんな、外出前の朝がありました。
皆さんも春を楽しめてますか?
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では、皆さんの毎日が良くなることを願って。
また、来週に。