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217河王の商売(左近のターン)

 深芳野みよしのの屋敷、領内で次々に起こる人身御供ひとみごくう事件を怪しんだ、曽根の城内で信仰を集める寺、華渓寺かけいじの住職、南化玄興なんかげんこうの弟子、宗傑そうけつと事件の調査に入った渡辺官兵衛こと現代の高校生時生カケルと魂の入れ替わった嶋左近は、その日、深芳野の屋敷を見張ることにした。


 一日、二日、三日……。


 出入りがあるのは、台所を任された下男と、駿河屋の奉公人ばかりだ。それに、時々、駿河屋には、髭を伸ばしたむさくるしい浪人者と、着流しを着たやくざ風の男を四、五人引き連れてやってくる。


 浪人風の男は、それほどでもないが、やくざ風の男たちの屋敷の女を見る目は厳しい。どこか、女の値打ち を見定めるような鋭い目をしている。



「渡辺様、毎日ここで屋敷の出入りを見張っていても、芙蓉さんの足跡をたどる手掛かりはつかめませんよ」


「いいや、答えはここにあるはずだ」


 幼馴染の芙蓉の身の上を心配した宗傑は、辛抱強く、深芳野に狙いを定めて、手掛かりを待つ姿勢に今にも町に飛び出して聞き込みでもして動くことで自分の心を落ち着けなければ落ち着けない。


「渡辺様、そんなこと言って、ここで無作為にもう三日じゃないですか。私は、井ノ口の町にでも出て芙蓉様の聞き込みにでも行きます」


 その時だ、


「ちょっと待て、宗傑!」


 左近は、立ち上がろうとする宗傑の腕を掴んで草むらに身を伏せさせた。


「あ、あれは!」


 宗傑が思わず声を上げたのは、駿河屋の奉公人についてきたやくざ風の男が、二人がかりで、まるで人間を簀巻すまきにした暴れる布を戸板に乗せ縛り付けて出てきたのだ。


「きゃ~、誰か助けて!」


 簀巻きにされた女が暴れて、顔を出し叫んだ。


 女は、口に猿轡さるくつわをされていて、声にならない声を上げるしかない。きっと、そんな声など誰人届かないであろう。三日三晩、深芳野の屋敷に狙いをつけて見張っていた左近と、宗傑を除いては。


「渡辺様、あれは、先ごろ屋敷に奉公に上がったお美津ですよ。助けにいかないと!」


「いや、まだだ、ココで手を出しては、先にさらわれた者たちに辿り着けない。ここは、黙ってさせるようにさせて静かに後をつけるしかない」



 駿河屋の奉公人と浪人、ヤクザ風の男たちが運ぶ戸板に縛られたお美津は、駿河屋へ向かわずに、どんどん山の方へ入ってゆく。


「渡辺様、やつら養老街道に出ましたよ? もしかして⁈」


「おそらくな」




 辺りは暗くなった。


 左近と、宗傑が、駿河屋の奉公人たちの後をつけて、たどり着いた先は、養老山にある役河王の屋敷であった。


 屋敷は、昼間とは違い、門が閉じられいて、役河王の呪術にすがって、病を治そうとする人の列もない。


 提灯を持ち先に立つ駿河屋の奉公人は、屋敷の門前まで来ると、浪人に目配せした。


 了解した浪人は、手を重ねて手笛を作ると、「ほ~ほ~ほ~」と、フクロウのような手笛を吹いた。


 すると、屋敷の内側のかんぬきを外す音が聞こえガラッと門が小さく開いた。


 門から顔を出した下男は、駿河屋の奉公人の顔を確認すると、声も出さずに、「入れ!」と、首を傾け招き入れ再び門を閉じた。


 木の陰に隠れてみていた左近と宗傑は、稲葉家領内で次々、起こる人身御供事件の容疑者が、領主、稲葉一鉄の姉、深芳野と出入りの商人駿河屋と、まさか、領民を救済して歩く役河王だとは思わなかった。


「役河王め、昼間は病に苦しむ人を集めて、神仏のような行いをしているから、善良な人間だと信用していたが、裏では、こんな風に人を売り払って銭儲けをたくらむひどい奴だったんですね。ちくしょー騙されていた。今すぐ、ご領主の稲葉様に報告して、役河王を捕えないといけない」


「待て……」


 宗傑は、左近が止めるよりも早く手をすり抜けて行ってしまった。


(あの前鬼・後鬼に育てられた役河王が果たして、女を売り払って銭を稼ぐような非道なことをするだろうか、ワシの見た河王は、冷たい滝に打たれて修練を欠かさない、あらうことのない修験道の行者。もう少し、確かな証拠を集めないと主犯格であると決めつけるわけにはいかない)


「よし!」


 左近は、役河王の屋敷の裏側の大木に登り忍び込んだ。



 役河王の屋敷。昼間、たくさんの病人が集まる野戦病院のような今広間に、煌々と火を灯し昼間のように部屋を明るくし、腕を後ろで縛られ猿轡をかまされた女が四本の柱に縛り付けられている。


 お美津、お兼、お美代、そして、芙蓉だ。


 女たちを囲むように、手に手帳をもった妓楼の主人に始まり、商人や、僧侶、頭巾をかぶった侍が、それぞれ、好みの女を取り囲んでいる。


 女に値を付けて買う現代で言うところのオークションにかけているのだ。


 一段上がった台座には、まるで、不動明王のように慧眼に目を半開きにした役河王が鎮座している。番頭の金蔵が人身売買の差配を振るうのを止めもせず静かに、読経を唱えながら黙認しているようだ。


「おい、あの役行者の読経を止めさせてくれんか、仏心があっちゃ、助べえな女商売の値踏みの勘が狂っちまう」


 と、好悪な妓楼の主人が、番頭の金蔵に漏らす。


「河王様は、ああいう方なのです。我々がせっせと金持ちから銭を分捕って作るから、まことに貧しい者には無償の治療ができるのです。だから、河王様もああして、私のやりようを黙認してくれているのです。これが、役河王の商売です」



 左近は、屋敷の格子窓から聞き漏れてくる話を聞いて、世の理に胸を痛めるしかなかった。

(神仏の理力を持つ役河王であっても人の業のしがらみからは逃れられないのだな……)




 つづく



どうも、こんばんは星川です。


この「戦国おたくの身心転生シンギュラリティ!」も改題する前の「湿布怒濤~嶋左近~」からかれこれ四周年になりました。


万歳!


文字数も四八万字を超え、文庫本ですと四冊分です。

1奥三河攻略戦

2武田家の西上作戦

3信長包囲網

4師山県昌景との別れ


とつづき、作者も、ここまでの長編になるとは想像もしておりませんでした。


これも、偏に、応援してくださる皆様のおかげにございます。ありがとうございます。


星川は遅筆ゆへ、週刊連載ですが、皆様、飽きずに応援ください。


五月中旬には、アマゾンで電子書籍を発売しようと画策しております。


もち、歴史小説です。おた転とは、違い転成などはない歴史小説です。


やはり、マイナーな目立った活躍もない武将なんですが、わたしは、凡庸な漢を描いて見たくなりまして、賞レースでは厳しい題材なので、自力で電子書籍出版いたします。アマゾンKindleのよていです。言いにくいのですが、素人の作品ながら有料とさせていただきます。アマゾンアンリミテッド対応にするつもりですが、記念に買ってちょ~♡


と、まだ本文、表紙、目次、登場人物が完成して、次に、参考文献、や、できれば、地図、年表と制作いたしたいとおもっておりますが、何分、私一人でググりながらの制作ですのでなかったらごめんちゃい。



では、ブックマーク、ポイント、感想、いいね、よろしくお願いします。


皆さんのそうした応援が、モチベーションにつながります。


どうか、めんどくさがらずにポチッとしてやってください。


それでは、また、来週にお会いしましょう。




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