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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
一章 疾風! 西上作戦開始!
21/398

21 生け捕り(戦国、カケルのターン)チェック済み

 戦国の武将嶋左近と魂が入れ替わった現代の高校生、時生(ときお)カケルは、武田信玄の重臣、山県昌景に見込まれてその家臣になった。


 武田信玄の徳川家、徳川家康攻略の下知に従って大将の山県昌景は、信玄の居城のある甲斐国(かいのくに)(現在の山梨県)から南下して攻め込む駿河(するが)遠江(とおとうみ)(現在の静岡県)のルートととは逆方向の、信濃(長野県)から、織田信長が治める美濃(岐阜県)岩村城の女城主おつやの方を調略し武田家へ寝返らせ、返す刀で南下し三河(愛知県東部)へ進軍した。


 山県昌景の先鋒を任された嶋左近ことカケルは、山県からの通り道に立ち塞がる徳川家の家臣、山家三方衆の調略を命ぜられた。


 ここで、歴史にくわしくない方も居られるだろうから"調略"について解説しておこう。調略とは、簡単に言うと敵と戦わずに言葉やプレッシャーを与えて戦わずに説得することである。


 言葉で説得すると言って、現代のように敵地に外務省の大使館があり、机を挟んで会談するような生易しい物、ではない。ここは戦国、命懸けで敵地へ乗り込み、少し気に入らないことがあれば殺されても仕方がない状況で飛び込むのだ。


 目的の山家三方衆。第一の城 田峯城は標高七四八メートルの笹頭山の中腹にある。山の峰に沿って曲輪を巡らす山城だ。


 兜、鎧を真っ赤に統一した赤備えの山県隊はすぐさま田峯城を包囲(ほうい)した。昌景は、田峯へ登る道をすべて封鎖しておいて食料の補給と人の流れを断ち、城主の菅沼刑部少輔定忠を心理的、物質的に追い詰める作戦だ。


 山県昌景は、田峯を睨む陣中に左近を呼んだ。


「左近よどうだな。城主の菅沼定忠は武勇に優れた武将と聞く、おそらく彼奴(きゃつ)は一筋縄ではいかん。ここはお主が菅沼定忠めをけしかけて誘きだし生け捕りにしてはどうじゃな? 」


 カケルは、首をかしげて、


「山県のおじさん。生け捕りっていったいどうやってすんの?」


 山県昌景は、


「生け捕りか、かんたんな事じゃ耳をかしてみよ……」


 左近に耳打ちするとニヤリと笑った。




 日が暮れ、空に月が登った。


 赤備えに包囲された田峯は城主の菅沼定忠によくまとめられ静寂を保っている。その時、


「ビュルルー! ビュルルー!」


「ドン! ドン! ドン!」


 山県隊の田峯城攻めの法螺(ほら)太鼓(たいこ)が鳴った。


 城中の兵たちは寝込みを襲われ飛び起きた。


「殿! 武田の夜襲にござる。 スグにご支度を!」


 と田峯城主、菅沼定忠の元へ伝令が入る。


「よし、わかった!」


 菅沼定忠は、すぐさま鎧兜を身につけ、攻め寄せる武田勢の寄せ手を物見櫓に登って確かめた。


 しかし、武田の山県隊は包囲したまま攻め寄せる気配はない。だが、山県隊の陣中から、足軽の灯す松明かりに漆黒の巨馬に跨がる大男がスルッと出てきた。


 巨馬と大男は、つかつかと槍もちの足軽だけをつれ田峯城の曲輪下まで一騎でやって来た。


 城主の菅沼定忠は、一騎で何をするつもりかと成り行きを見守った。


 漆黒の巨馬に跨がる大男は、


拙者(せっしゃ)、山県昌景が使いで参った嶋左近にござる。開門願いたい! 」


「たった一騎でたいした度胸じゃ、彼の者を通してやれ!」


 菅沼定忠は門を開けて左近を招き入れた。



 一部の隙もなく槍、刀を構える雑兵の間を抜け左近と愛馬、霧風が行く。


「まてい! 嶋左近とやら、何しに参った! 」


 と、面をした左近へ勝るとも劣らない大男がドラ声で叫んだ。


 左近は、愛馬を止め、


「お主が田峯城城主、菅沼定忠殿とお見受け申す」


 大男が返す。


「いかにも我が田峯城城主菅沼定忠である。嶋左近とやら何しに参った! 」


「我が主、山県昌景から文を預かって参った。まずはご覧あれ」


 と、言うとカケルは足軽として着いてきた忍者、加藤段蔵こと鳶加藤へ文を預けた。


 菅沼定忠は、鳶加藤から文を渡され目を通した。文を読み終えると菅沼定忠は顔を真っ赤にして、文を握りつぶした。


「嶋左近とやらおもしろい! ここにはお主をワシがこの場で一騎討ちにて討ちとれば田峯のワシと城兵の命は見逃すとある。左近とやらワシはお主に恨みはないがここで死んでもらう! 」


「山県のおじさん、マジか! 」


 カケルは、そばにもどった鳶加藤につぶやいた。鳶加藤も覚悟を固めたようでキリン! っとクナイを構えた。


「マジか! マジかよ。山県のおじさんムチャぶりばっかりやわ……」


 菅沼定忠は、カケルが怖じ気づいたと見てとって、ならばと、鬼の金棒を掴んで立ち上がった。


「左近とやらワシが一撃で葬ってくれる」


「マジか! マジかよ」


 カケルの覚悟が定まってないと見て取った鳶加藤は、カケルに朱槍を掴ませ、


「漢はいつなんどきでも槍を枕に死ぬる覚悟が肝要」


 と、鳶加藤は悪い顔して「せいや!」 霧風の尻を叩いた。


 活を入れられた霧風は、朱槍をつがえたカケルを乗せまっしぐらに、田峯城主、菅沼定忠が身構えるより早く突っ込んだ。


「くわっ! こわっぱなかなかやりおるわい」


 霧風が駆ける。カケルの一閃を菅沼定忠は辛うじてかわした。


 霧風は身を翻して、ブルルン! 再び突っ込んだ。


 今度は、菅沼定忠も鬼の金棒を振り回した刹那!


 カケルの朱槍、大千鳥十文字槍が早いか、菅沼定忠の鬼の金棒のぶん回しが早いか、どちらかの大男が地面に叩きつけられた。


 地面に叩きつけられたのは左近、カケルである。


 あわれ、カケルは初陣にして敵将に生け捕りにされたのであった。




 あわれカケルの運命やいかばかに


 つづく







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