206憧鑑の罠(カケルのターン)
カケルの筒井家への転籍の胸の内を聞いた山県昌景は、快く武田から送り出す了解を与えた。
翌日、事は動いた。
羽柴秀吉家の跡継ぎ石松丸を産んだミナミ殿の従兄だと申す怪僧憧鑑が動き出した。
これまでは、秀吉の領地長浜を取り仕切る正妻寧々を、信者を引き連れ読経の音と、町人にいかがわしい護符を売り歩き、大店を巡っては「不吉な運気が漂っている。邪気を払うには、金百貫を用意しろ!」と因縁をつけた詐欺まがいの商売と、秀吉の目を盗み阿漕な銭儲けをしてきた。
その悪商売を、秀吉の居ない家中に広げ始めたのだ。
家中の者も、相手は、秀吉の跡継ぎを産んだミナミ殿の従兄だ。しかも、この時代には尊敬を集める僧籍の憧鑑だ。戦神を敬う侍たちは、いくら先進的な考えを持つ、織田家家中の羽柴家にあっても、まだまだ、神や仏の類への信仰は絶大だ。主に連なる人間に、偉大な神仏の話を持ち出されて、「私は、あなたの言葉は聞き入れません」と、きっぱりと突っぱねるうる人間が要るだろうか。
おそらく、秀吉の重臣弟の秀長、妻の寧々、その弟の浅野長政。古くから付き従う蜂須賀小六、軍師として知恵の回る竹中半兵衛、後は、利発な子飼いの若者たちを除いては、この長浜で憧鑑に逆らえうる者はいないだろう。
秀吉は、信長の命で、伊勢長島一向一揆討伐から、足を休めず、先日、越前 旧朝倉家の領内で起こった一向一揆討伐へ、主だった将兵を連れて出て行った。
残ったのは、寧々と、石田三成ぐらいのものだ。成長した三成は、鋭利な頭で、豊臣の天下を取り仕切る人物であるが、この時の三成は、まだ、京都所司代 村井貞勝の元を吏僚として卒業したにすぎない。
この時の石田三成は、大卒一年目の実力に過ぎないのだ。
憧鑑は、その手薄な羽柴家の家中を我が物顔で跋扈した。
今朝方、いつもは庭を掃除し、朝食の支度をし、時間が余れば廊下の拭き掃除をするような、実直な寧々の腰元おみよが、朝支度を始めた寧々の元に何時になっても顔を出さないのだ。
「おみよはどうしましたか?」
寧々が、尋ねても、他の腰元は首を捻るばかり。おみよは、寧々に仕えて三年余り、一度としてこうした失敗をしたことはないのだ。
おみよのことを気にかけて縁側に出た寧々は、向かいの憧鑑の部屋から、こそこそと、着崩れした肩口のまま飛び出してくる おみよを見かけた。
(なぜ、憧鑑の部屋からおみよが⁈)
寧々はすぐさま、おみよの後を追いかけ、台所で追いつき理由を問質した。
「おみよ、あなたが朝の仕事を忘れるなんてどういうことです。訳があるなら私にはなしなさい」
おみよは、着崩れた肩口と、取り乱れた髪を整えて、
「寧々様、申し訳ございません」
と、深々と、頭を下げた。
「おみよ いきなり申し訳ございませんとは、どういう、ことです。しっかり理由を説明しなさい」
おみよは、胸に込み上げる思いはあるのだが、言葉に詰まり、ただ、もう一度、
「寧々様、申し訳ございません」
と、頭を下げて、羽柴家での勤めを辞めると申し出た。
「どういうことです」
おみよは、寧々と秀吉が立身出世を重ねる中で尾張時代に雇い入れた古参の小者の娘だ。器量こそ中の下、そこそこの容姿で、女好きの秀吉の眼鏡にこそかなわないが、寧々にとっては、よく気が利き、額に汗する働き者で、重宝している。
18歳をむかえたおみよは、女盛りで、羽柴家の将来のある家中の者から花婿を選び、嫁入りの話を準備する腹ずもりでいた。
今朝のおみよの姿は、寧々にとっても予想外なのである。
おみよは俯いたまま寧々に返事をしない。
寧々は、おみよの肩に手を掴んで、
「どうしたのおみよ、私はあなたの味方よ。どんなことがあっても悪いようにはしないから正直に私に打ち明けてごらんなさい」
「寧々様……」
おみよは、何も言わず、心の堰を切ったように、涙を流して、寧々の胸に飛び込んだ。
寧々はやさしく、涙するおみよの髪をなでながら、
「おお、よしよし、おみよ。どうしたの? 泣かないで、思いの内を私に話してみなさい」
「寧々様、私は、憧鑑に……あの憧鑑に、手籠めにされました」
胸を打つおみよの叫びだ。寧々の婿のあっせんもなくても、気立てのよい若い女だ。家中に空いた男の一人もいたであろう。むしろ、おみよを好む男すらいたかもしれない。まちがっても、脂ぎった怪僧憧鑑に自分から抱かれる女ではない。
「おみよ どういうことです。もう少し詳しく話しなさい」
おみよは、悔しさと、願うような心で、
「憧鑑は、私に、お前が寧々様の元にいては、寧々様に不吉なことが起こると脅して来たのでございます……」
その後のおみよの話は悲惨だ。尊敬する主である寧々の身の上に不吉なことが起こると言われれば、おみよは黙ってはいられない。自分にできることがあれば、どんなことでもして、不吉の雲を払いたい。
おみよは、憧鑑に言葉巧みに騙されて、服を剥がされ、手籠めにされたのだ。おみよは、まだ、男を知らない身空だったのに――。
理由を聞いた寧々は、自室に取って返すと、鴨居に掛けた薙刀を掴んで、烈火の如く怒った足取りで憧鑑の部屋へ向かった。
寧々は、障子をバン! と開ひろげて、薙刀の切っ先を憧鑑に突きつけ、
「憧鑑殿、家のおみよに手を出すとは、どういうことです! 申し開きいかんによっては、ここで、成敗いたします!」
怒りに任せて詰め寄った。
対する憧鑑は、サラリとしたもので、従兄のミナミ殿と、子の石松丸をあやして、茶をすすっている。何事もない、僧籍によくある平和な光景だ。
「寧々様、ともあろうひとが、平和におすごしになる殿のお世継ぎに向かって刃を向けるとは何事でございますか、ことと次第によっては、このことを殿のお耳に入れなければなりませぬな」
と、憧鑑は白々と返事をした。
寧々は、憧鑑に嵌められたのだ。
おみよが、寧々に話したことは事実であろう。憧鑑はそれくらいのことは平気でやってのける男だ。その上で、憧鑑は、寧々ならどうでるかは知ったうえで、世継ぎを産めない寧々のミナミ殿にたいする嫉妬からの乱心の罠に嵌めたのだ。
「皆の者、出合え! 寧々様が、お世継ぎの石松丸様に刃を向けたぞ、寧々様はご乱心だ。誰か、取り押さえるのだ‼」
つづく
どうも星川です。
みなさん、お正月はしっかりお休み取れましたか?
私、星川はどうかというと、元旦に、朝護孫子寺に参拝してからは、毎日映画かドラマ、アニメを見ております。
たしか、先週、王様ランキングの話はしたと思います。同じ話をするのもあれなので、別の作品の話を。
みなさん「無職転生」ご存じでしょうか?
私、星川は、友人に「おもしろい」と勧められて見るまで知りませんでした。
感想は、「めっちゃスゴイ作品やんけ!」
なんでも、ココ、「小説家になろう」で人気ランキングで上位の作品とか。
「いや~、勉強不足で知りませんでした」
ストーリーは、中年ニートが死んで、異世界転生して生まれ変わる話。
なにがすごいって、アニメ版はなろうに多いセリフでは見せるんじゃなくて絵で見せるんです。
これって、モンタージュって技法で、予算の多い映画で使われます。
まあ、ややこしい話はおいて置いて、まあ、だまされたと思って、皆さん、無職転生見てください、人生のやり直しの話で、前世で、ひきこもりだった中年が、新しい人生では、人との出会いで学んで成長して自分の殻を破っていく。
まったく、すんげぇ~作者がいるもんだ。なろうの大河は広いですね。
それでは、皆様、本日も応援いただきありがとうございます。
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