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204カケル(嶋左近)と山県昌景の月語り(カケルのターン)

 筒井順慶の話はこうだ、松永久秀の信貴山城を追われて、筒井へ逃げてきた松倉右近が、「左近の家臣だ」と、女ばかりで、手練れの弓術士、妖術使い、軍師を連れて来た。


 右近の連れて来た女たちは、なかなかの手練れで、松永久秀に押されていた劣勢を押し返し、筒井家の筒井城奪還を成功させた。


 松永久秀との均衡を保たれた所で、軍師のリーゼルは、順慶に、織田家の傘下へ入ることを進めた。


 これは、信長と対立する足利将軍に与した松永久秀の逆手であるらしい。


 左近の軍師で、重臣の松倉右近の口添えもある。劣勢の筒井順慶は、素直にリーゼルの助言に従い、今日、嶋左近、現代の高校生時生カケルに再開した。



 筒井順慶からの筒井家への復籍の誘いを受けたカケルは、秀吉の屋敷の縁側に出て、腕組みし月を見上げた。


 三日月だ。


 雲一つない空に、月は、鋭い黄色の弧を描きカケルを照らしている。。


「ここへおったか左近」


 秀吉との話を終えた山県昌景が、徳利と御猪口を二つもって左近の隣にやって来て座った。


「久しぶりにお前と飲もうと思ってな、秀吉殿の席から拝借してきた」


「山県……」


 と、カケルが言いかけた時、山県昌景は(その名で呼ぶな)という顔で首を振って制して、


「俺は、廻船問屋の政吉だ。左近、話があるんだろ?」


「実は、さっき、筒井順慶さんから、筒井に返って来いって誘われちゃったんだ」


「おお、そうか、武田の赤備えの一番隊隊長はあの僧籍の筒井順慶殿の目にも逞しく見えたか」


「うん、それだけならいいんだけど……」


 山県昌景は、徳利を掴んで、御猪口に手酌で酒を注ぐと、グッと一気にあおって、


「左近、俺もな、若い時、お前と同じような経験があったんだ……」



 山県昌景の若いころ、まだ、武田の大名跡、山県家を継ぐ前である。


 かつて、昌景は、武田家の重臣で親子ほども歳の離れた兄の飯富虎昌に仕えていた。


 昌景もこの頃は、名乗りを飯富源四郎とし、兄の手足の如く仕えていた。


 兄の飯富虎昌は、戦上手な男で、家臣たちの信頼も厚く、源四郎にも十分に活躍の場を与えた。


「虎昌、源四郎をワシにくれんか?」


 戦場で、敵の大将首を挙げた源四郎は、総大将の武田信玄の目にとまった。


「源四郎は、俺の弟であると同時に一己の漢でございます。お屋形様の目にとまったということであれば、この飯富虎昌は、何も文句はございません」


 兄の虎昌は、源四郎を手元から信玄の直臣じきしんにする誘いをあっさり聞き入れた。



 明日、源四郎が、信玄の直属になる日、源四郎が飯富の屋敷の縁側で今日のように月を眺めていると、兄の虎昌が徳利に御猪口を二つ抱えてきて隣に座った。


「源四郎、やるか?」


 源四郎は、まだ、酒に強くない。飲めばすぐに顔が赤くなり、すぐに酔いが回り寝てしまう。しかし、この日は、飯富の家を出る最後の日だ。源四郎は、兄の誘いを素直に聞き入れた。


「兄上、私がお屋形様の元へ行っても大丈夫なので?」


 源四郎は、飯富虎昌の隊の先鋒を率いている。


 “源四郎のおもむくところ敵なし”


 の異名をとるほどの戦上手だ。もちろん、虎昌はその上を切るのだが、機先を制し、戦の流れ、勢いを決めてしまう、先鋒の大将を失うのは痛い。


 先鋒大将は、まずは、向こうっ気が強くなくてはならない。蛮勇とも呼べるように死ぬのを恐れるようでは勤まらない。


 次に、強くなくてはならない。先頭で鋒矢ほうや(尖った鋒の切っ先のようなこと)の先頭で敵に突っ込み騎乗で槍を振るって、命のを的の活躍を見せねばならない。


 最後に、機転が利かなくてはならない。戦場には、相手がいる。敵は、こちらが想定した作戦通りには動いてくれない。敵も味方も読み合いである。先鋒は、敵の機略の術が覿面てきめんにでる。先鋒大将は、全体の動きを決める軍術を大将が練り直すまで、己の即興で戦局を見抜き、戦術を体現しなけれなければならない。一瞬も、判断の迷い、行動の遅れが合ってはならぬのだ。


 それが出来る大将は、稀である。


 源四郎は、それが出来る人間なのだ。


 だから、お屋形様、武田信玄は、引き立てた。だが、そうした大将を引き抜かれた軍隊は、死活問題に陥る。


「俺は構わん、行け、源四郎。俺は、お前を、俺の小さい器で飼い殺しするつもりはない。お前は、もっと、大きな富士の山のような大きな大将に仕えてこそ輝くのだ。出来た弟の立身出世を妨げはせぬよ」


 この時代、兄弟と言えども、家長は長男で数百、数戦の人間をたばねる企業のような物である。数人を束ねる人間、数十人を束ねる人間、数百、数戦を束ねる人間、同じようで、皆違う。


 数人ならば、自分が技術に優れた人間であればよい。


 数十ならば、技術は元より、伝える言葉を持たねばならない。


 数百なら、技術、言葉、それに、背中で伝えるカリスマ性を持たねばならない。


 数千なら、カリスマ性に合せて、判断をは違ってはならない。


 数万なら、負けてはならない。


 人を束ねるには、それぞれの段階に応じて、段階と、条件がある。


 源四郎の兄、虎昌も千を数百を束ねる大将だ。それ自体まれな大将であるのだが、信玄は、数万の大将の器量を持つ漢だ。


 虎昌は、己の器量を知り、信玄の器量を知り、源四郎の器量の可能性を見抜いた。




「左近、ワシの見る限り、お主の器量は、ワシと同等か、それ以上だ。止はせぬが、筒井は狭いぞ。それでも行くのか?」


「俺は、友達を大事にしたいっす……」


「義か、それにお前は情も深いからな。義侠に生きるならばワシは止はせん。行って、筒井順慶を助けてやれ」


 そう言って、昌景は、御猪口に酒を注いで、カケルに突き出した。





 つづく


新年あけましておめでとうございます。

拙作にも登場させた信貴山 朝護孫子寺へ初詣へ行きました。

信貴山朝護孫子寺は、飛鳥時代の神仏論争で、主導権争いをしていた聖徳太子与する蘇我氏と、対立する物部守屋の戦いで、太子が、戦勝祈願した時に、毘沙門天が現れ味方したことにちなんで建立されました。

毘沙門天と言えば、使役する神獣は虎。毘沙門天を祀る朝護孫子寺は虎に縁が深いのです。


星川さんも、ゲンを担いで、寅年の強運をいただきにまいりました。

今年こそ、書籍化を願って護摩を炊いてもらいました。記したのは「学業成就」、、、受験生ぽい。

皆様も、拙作が書籍化出来ますように、応援よろしくお願いします。


それでは、皆様、ブックマーク、ポイント、感想よろしくお願いします。


追伸:正月恒例の私の短編もアップしました。宜しければそちらも覗いてやって下さい。「AIの世界に残された最後の謎」です。近未来に起こりうるエラーの話です。

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