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202秀吉と昌景。順慶とカケルの邂逅(カケルのターン)

「お初にお目にかかります駿河国で廻船問屋を営んでおります駿河屋政吉と申します」


 筒井順慶の申し出を引き受けた秀吉は、つづいて、しれーっと、仮の身分と偽名で挨拶した山県昌景と面会した。


「政吉とやらは、駿河から参ったのか、それは、遠い旅であるな、して、なにゆえ京の都へ?」


 秀吉は、山県昌景に尋ねた。


「はい、織田信長公に駿河の太守今川義元様が討ち取られて以来、駿河は、小京都と呼べるそれまでの公卿好みの雅な平安文化から、その跡を、治める武田信玄公の武骨な武断政策で、売れる商品が変わってしまいました」


「ほう、その話を詳しく話してくれ」


「私は、廻船問屋ゆへ、今川家と武田家、同盟国であるとはいえ、家を別にすることで、海のない、武田家の領地へ、人が生きるのに欠かせない塩を甲斐へ運んで売りさばくことで、利益を上げて居りましたが。駿河を手に入れた武田は、塩の販売権を私のような商人から奪い取ってしまいました。そこで、次に、武田を相手に売れる商品を探しに来たのでございます」


「塩の確保が、三河殿(徳川家康のこと)を攻めるきっかけになったのであるな」


「そうとも言えるかもしれません」


「それは、良い話を聞いた。塩の補給ルートを押さえてしまえば武田は思い通りに動けなることになるのだな」

(秀吉は、鋭い男だ。昌景が発した不慣れな商売の知識から、武田の内情を分析して、武田の弱点に気がついた)


「しかし、駿河には、山県昌景がおりますからなぁ」


「ほう、あの赤備えの山県昌景のことか?」


「はい、山県昌景は、駿河、江尻城にあり、先程、徳川様から召し上げた奥三河の山家三人衆と、遠江、三河をまとめるなかなかの器量人にございます」


 昌景は、我がことながら、鼻の先がこそがゆかった。


「山県昌景か、厄介であるな、して、山県昌景なる男はどのような男なのだ?」


「山県昌景、一言で申しますと、疾風しっぷうの如き将であります」


「疾風……」


「武田信玄公の先鋒を常に務めるだけあって、疾きこと風の如くを地で行く大将にございます。昌景の率いる赤備えの騎馬隊を抑えるのは不可能でございましょう」


「それほどに強いのか?」


「手の施しようがございません」


「もし、われら織田が信玄の指揮する山県昌景と対峙することになれば勝敗はどうなるな?」


「十中八九勝ちはありますまい」


 秀吉は、次の言葉を出し渋りつつ、


「信玄がこの世におらねばどうなる?」


 昌景は、目を瞑り天を仰いで、


「昌景が采配を振るうならば、織田は勝てません。他の者ならもしや……」


 秀吉は、力ら強く丸い目を見開いて、昌景の手を握って、


「それを聞いて安心した。まだ、我らに、勝機はあるのだな!」




 長浜城の離れに、案内され、宿を借りた筒井順慶は、庭に立ち、池の鯉を相手に、「トートトト……」と餌をやっている。


 月が綺麗な夜だ。


 と、そこへ、カケルが夜風に当たろうと、部屋の障子を開けた。


 順慶はカケルに振り返った。


「お前は、嶋左近ではないか⁉」


「と、申されるあなたは?」


「忘れたとは申させぬぞ、ワシじゃ、そなたの主、筒井順慶じゃ」


 筒井順慶、興福寺を取りまとめる大名で、長らく、同じ大和国を勢力圏にする松永久秀と相争っていた。互いに、織田信長に属するまでは、血で血を洗うせめぎあいをつづけてきたが、揃って、織田の傘下へ収まったことにより、停戦と相成った。


 前世の島左近は、筒井順慶の勢力下にあり、奈良の椿井城を拠点に、対松永久秀の最前線に立ち良く防いだ。


 今世の嶋左近ことカケルは、どういうわけか、甲斐武田に転生し、ひょんなことから、山県昌景に拾われて今日に至る。


 カケルは、元々、奈良県に住まう高校生だ。地域の歴史的人物として、筒井順慶と島左近の関係は多少知っている。それに、カケルは日夜、戦国MMORPGゲーム「関ケ原」をプレイする歴史マニアだ。この辺りの人間関係は把握している。


 とはいえ、関ケ原に散った島左近は、大和の筒井順慶の家臣から、後を次いだ筒井定次と仲たがいし出奔し、関ケ原の戦いの前に、石田三成に仕えることになったという。


 しかし、カケルの歩んできた道は、言わば通説ルートだと言える。


 関ケ原の戦いで、西軍の諸将を集めて行われた酒盛りで、島左近は昔話に、三方ヶ原の戦いに、武田方として参戦しており、かかれ! かかれ! と散々に徳川勢を蹴散らしたと、昔話に話したという逸話がある。


 それが、カケルの歩んできた道だ。このルートは、歴史書にはない。


 筒井順慶が、ポツリポツリと口を開いた。


「松永との戦いで、上洛を目指す武田信玄公が病だと言うので、大和で名医と名高い医者の北庵法印殿を差し向けた。北庵殿は他に代えがたい医者なので、護衛として、左近お主を遣わしたが、まさか、あの武田信玄公の代名詞、武田の赤備え、山県昌景の一番隊長に収まっておるとは思わなんだ」


 カケルは、此度の旅の目的を教える訳にはいかない。教えれば、山県昌景は捕らえられはりつけにされるのは請け合いだ。なんとしても話を胡麻化さないといけない。


「殿……」


 カケルが、取り繕った言葉を発しようとした時、順慶は手を開いて言葉をさえぎって、


「いいんだ、左近。お主が、武田家を選ぶならそれでいい。ワシは、幼き日、左近、そなたに守られてなんとか筒井城を収めて居る。それも、すべて左近お前のおかげじゃ。力のないワシは、天下の名将山県昌景の元で活躍するお前に戻って来いとは言えん」


 順慶から、そう言われて、カケルは、胸を撫でおろした。


「ただな、お主は自由じゃが、最近、左近お主を探しているという、奇妙奇天烈な者たちが、ワシの元で、お前に会いたいと申しておる。悪いようにはせぬ、機会があれば会いに来ぬか?」




どうも こんばんは、星川です。

秀吉と山県昌景の邂逅、こんな歴史的事実はもちろんありません。転生物だからできるフィックションのエピソードだからできる美味しいシーンですね。

出世街道を駆け上がる秀吉と、身分を偽っているとは言え、武田の赤備えを率いる山県昌景の長篠の戦へとつづく布石。


転生物で、山県昌景の異説ルートを通っていなければ、正規ルートの筒井順慶の家臣だった嶋左近。こちらも、徐々に、正規ルートへ線路が傾いてきました。


作者も、長篠の戦いのエピソードは、まだ、書いていないので先は分かりませんが、楽しみであります。


長篠の戦まで、まだ、しばらく、羽柴家と、稲葉家でのエピソードがつづきます。もうしばらく、戦は先でございます。



それでは皆様、ブックマーク、ポイント、感想などよろしくお願いします。


作者は、単純なので、加算下されば小躍りして喜びます。


歴史好きのお友達などいらしたら、200超えるエピソードあるから、年末年始に読んでみてよとおすすめください。さすれば、作者は、ドジョウを掬うほど喜びます。


それでは、みなさま、また、来週に。

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