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199稲葉一鉄の領内、曽根城と華渓寺と南化玄興(佐近のターン)

 正月明けの信長の新年の祝いの席で、明智光秀に娘婿の斎藤利三を引き抜かれたことに立腹した稲葉一鉄に、利三を連れ戻すまでの人質として、一鉄のもとへ預けられることとなった渡辺勘兵衛こと嶋左近は、信長の居城稲葉山城から、駒を並べて一鉄の居城 曽根城そねじょう(現在の岐阜県大垣市曽根町)の帰路へ着いた。


 それまでは、口数も少なだった一鉄は、曽根領内に入ると、口を開いた。


「あれが、曽根の名物 花菖蒲はなしょうぶだ」


「見事なものですな」


 左近は、素直な声を上げた。


「見事であろう。ワシは、あれを見ると曽根に帰ったのだなあと感じるのだ」


「白、紫、黄色、曽根の花菖蒲は品種改良がすすんでおられるのですね」


「わかるか渡辺殿。ワシは、信長様の天下統一がなった平和な世になれば、この花菖蒲が商売の種になるやも知れんと思うておる」


 左近は、一鉄の予見を、前世で知りうる関ケ原までの記憶で辿った。

(たしかに、信長様の天下統一はならなかったが、一鉄殿の申す通り、後継として、太閤殿下が統一をなす。花菖蒲の商売はまだ先の話になるが、現代で見聞きした物の本によると、徳川の天下、江戸時代には花は武士の副業になったと聞く、まったく、一鉄殿は先見の明のあるひとだ)


「あ! トト様だ」


 村の子供たちが、騎乗の一鉄を見かけると膝に飛びつかんばかり駆け寄って野辺で摘んだ花菖蒲を差し出した。


「おお、お花、ワシを出迎えてくれるのか、ありがとうな」


「おお、孫吉は、川で釣ったハリヨをくれるのか、今晩の夕食にいたすぞ」


 一鉄は、曽根の子供たちから贈り物を受け取ると、懐から銭袋を引き出して、小銭を掴ませた。


「お花、孫吉、これで菓子でも買って帰るのだ」


「いつもありがとうトト様」


 稲葉一鉄は、こんな子供にまで慕われている。おそらく、子供にだけ優しく振舞っているのではなかろう。一鉄と共に、領内の田畑を通り過ぎる旅に、百姓は皆、仕事の手を休めて、頭を下げて一鉄を出迎える。左近が、数える限り、一人として一鉄に対して礼を欠いた者はない。一鉄の善政は、曽根の隅々にまで行き届いているのだろう。


「渡辺殿、城に帰る前に少し寄りたいところがあるのだが構わぬか?」


「ええ、どこへでも」



 一鉄について、曽根の領内をしばらく行くと、大工たちが立ち働く寺へ着いた。


「これはこれは殿様、ようお越し下された」


「うむ、南化玄興なんかげんこう和尚、華渓寺かけいじの建立は進んでおるか?」


 南化玄興、臨済宗の快川紹喜かいせんじょうきに学んだ僧で、同じ紹喜に学んだ一鉄の弟弟子にあたる。博学の僧で、自身は後に、後陽成天皇の帰依も厚く評判の高僧だ。


「はい、稲葉様。お陰様で工事は順調に進んでおります。あのそちらは?」


「そうか、こちらは渡辺勘兵衛殿と申してな、利三が心を改めて帰るまでの間、明智家から代わりに預かった武士もののふよ」


「ほう、なんとも思慮深い深い目をしておりますな。これは利三殿に勝るとも劣らない武士でございますな」


「そうなのよ、利三が戻るまでの間だが、勘兵衛殿さえそのつもりならワシの娘をあてがって、一門に組み入れたいぐらいだ」


 一鉄の冗談とも本気とも受け取れない言葉に、左近は、目を白黒させたが、どうやら一鉄は本気のようだ。その太い眉がキリリとつりあがって左近を熱く見つめている。


「いやいや、稲葉殿御冗談を、私は、明智家に仕える身、斎藤利三殿の話が決着致しましたら、明智家へお返し願います。稲葉殿は、家臣の鞍替えで大殿に嘆願されたのでしょう?」


「まあ、そうだが、渡辺殿、お主は惜しい」


 情の深い男だ。稲葉一鉄は、気に入った人物は婚姻を結んで手元に置いておきたい人物なのであろう。



「それで、消えた禅林墨蹟ぜんりんぼくせきはどうなった?」


 禅林墨蹟、ブッダの言葉を「法語」の掛け軸としてかかげたもののことだ。


「それが、不思議なのであります。禅林墨蹟を盗んだ疑わしき者は、この曽根には一人も居ないのであります」


「やはりな、曽根の人間にはそのような者は一人も居らぬのだな。それは、よかった」


「だだ、一つ、噂話ではありますが、夜になると養老山よりゆらゆらと高貴な美しい女が現われて、村の若い男をかどわかして歩いているとの噂にございます」


「高貴な若い女⁈ そのような者が養老山にはおるのか?」


「なんでも、昔の平家の落人であったり、土岐氏の庶子家系に連なるものではないかとの噂でございます」


「うむ、そのようなことがあるのか、どうしたものか?」


 と、一鉄は、左近を見た。


 一鉄は、左近を頭の先から、足の先までじっくり見ると、ポンと、手を叩いた。


「渡辺殿、曽根に着いて、いきなりではあるが、一働きしていただけぬか?」


「貴婦人のかどわかしと、禅林墨蹟の捜索でございますか?」


「そうだ、勘兵衛殿、ワシは我が家族と思う曽根の人間は一人も疑いたくはない。どうか、犯人を見つけて、禅林墨蹟を取り戻してほしいのだ」


「う~む、難題ですな」


 南化玄興が口を添えた。


「渡辺殿、此度の相手は、もしかすると養老山へ暮らす物の怪の仕業やも知れませぬ。一人では、知らぬ土地のことゆへ、不自由致しましょう」


 するとと、南化玄興は、奥へ声をかけて、


「これ、宗傑そうけつはおらぬか?」


 と、呼びかけた。


「はい、ただいま」


 若い僧だ。宗傑は、美男の僧だ。


「渡辺殿、宗傑は、京の五山より戻った者でなにかと役に立つ。この者を連れ、どうか、ことのぞんで欲しい」




 つづく

どうも、こんばんは星川です。


いや~、一週間はあっという間ですね。


昨日、オタ転を書き上げたとおもったら、今日には、つづきを書かなきゃならない印象です。


本日、登場する稲葉一鉄さんと曽根の地。資料なんか読んでますと、稲葉一鉄さんは、大変に武勇に優れた武将なんですが、本人が、目立つ気がないのか、活躍があまり聞こえてきません。

それでも、おそらく、一鉄さんの武勇は一方ならぬものがあって、伝わっている。

あれです、信長さんの戦のほとんどに出陣しています。落ち度も一切ないように生涯を全うしておりますし、相当な人物だったように思います。

わたし、好きなんですよね、目立たないのに気づいたら最後まで残るような人。才能というより人柄で残るような人。

決して、天才とは言えないけれど、この人がいないと要所が押さえられない大事な駒。

そうだなあ、将棋で言うなら金将ぐらいかな、斜め後ろにはいけないけど、一歩づつなら前には押しだせる。けれど、飛車、角のように大活躍は出来ない。

だが、金将は、王の壁となると外せないような。

なんか、わかったようなわからない話をしましたね。


おう、そうだ。先週、伊東潤さんの本を手に取ったと申しましたね。「城をひとつ」という作品で、北条家に仕えた”入込み”という、謀略の秘術に長けた大藤一族の話です。めっちゃ、面白かったです。北条の大藤? 誰やねん! って話なんですが、読み終わったら、信長の野望で、新武将として、一族を登録してしまうこと請け合いです。

おっと、歴史マニアな一面が出てしまった。☆(ゝω・)vキャピ


それでは、皆様、毎度のことながら、ブックマーク、ポイント、感想などありましたらよろしくお願いいたします。歴史好きな、お友達などいらしたら、「なろうに、ちょっと変人の書いてるライト歴史小説があるんだけど読んでみてよ」とおすすめください。どうか、おねげぇ~します。押し上げてくだせぇ~お代官様~(この、感覚が古い。現代に伝わるのだろうか……)

それでは、皆様、また、来週! ごきげんよう~。

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