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191某が殿軍は引き受けた! 武門の意地を見よ!!(左近のターン)

 北勢の伊勢・長島一向一揆を平らげた信長は、矢田城に滝川一益を備えとして止め置くと、諸将の撤退を始めた。


 信長を始め、佐久間信盛、羽柴秀吉、蜂屋頼隆、丹羽長秀の近江勢は、多芸山を越えて戻ることになった。


 多芸山は、またの名を養老山と呼ばれて、道に迷い喉の渇いた孝行息子が、出会った神秘の酒の泉、養老の滝で有名だ。


 今回その話は無関係なので詳しくは割愛する。


 織田軍は、連山が連なる多芸山を越えて近江に帰る。


 この度の戦で戦功を挙げれなかった林通政は、長蛇の列で帰路につく信長軍の最後尾で、


「沙汰成すゆへ、安土までついて参れ」


 と、信長に命じられ、領国の尾張へは戻らず、渋々、ついて行くことになった。


 渡辺勘兵衛こと嶋左近が、がっくりと肩を落として馬に任せて運ばれてゆく林通政になりびかけて、


「林殿くよくよされるな、戦とは、出番がない時もござれば、突然回ってくる時もござる。今は、こうして勝利を収め、命を持って帰路につけることを喜びもうそう」


「しかしのワシには今後、武勇を求められることはないように思うのだ」


「某は、京で京都所司代の村井貞勝様の元で吏僚の務めを学んだゆへ、林殿の縁の下の力持ちなる気苦労もわかってござる。得意を生かして立身されればよろしい」


「勘兵衛殿はそう心強いことを口にしてくれるが殿の御心はワシにには見えぬ。ワシら林を小うるさい家宰ぐらいにお思い、排斥されるように感じてならんのだ」


「林様、御心を強く持たれよ!」


 左近は、気落ちする林通政を励ますよりなかった。



 長蛇の信長軍の先頭の足が止まった。日暮れだ。全軍は野営の支度を始めた。


 季節は十月十日、山頭の白い伊吹山から息吹颪が吹き付ける。


 信長軍は、薪に火をつけた。


 暖かい煙が多芸山にとぐろを巻く蛇のように、煙が上がった。


「ほら、勘兵衛殿、温まりますぞ炊き立ての握り飯と汁などのまれぬか?」


 林通政が、左近にすすめた。


「いや、某は、見張りをせねばなりませぬゆへな。腹を満たすと眠くなるから、お気持ちだけ受取っておきます」


「もはや、北勢は、我が軍が制圧したではござらぬか、先程も勘兵衛殿が、ワシを落ち着けようと申された。さあ、冷める前に食べてくだされ」


「いいや、結構。敵というのは、戦勝に酔った一番油断した隙を突くものです。某は用心のため最後方へ回ります」


「まあ、そう言わずに、勘兵衛殿……行ってしまわれた」



 林通政の隊の最後方は、通政の古老の重臣、賀藤かとう次郎左衛門が警戒を怠らず目を光らせていた。


 そこに、左近が下がって来て、


「賀藤殿、飯にされてはいかがかな? 林殿が、用意して待っておる」


「結構。某には勤めがござる」


 この男も左近に劣らずのいくさ人だ。


 吏僚勤めの主に代わって、賀藤次郎左衛門この男が林家の武門を引き受けているのだろうなかなかの面構えだ。


「では、飲まれるか?」


 左近は、懐から、酒を入れた竹筒を取り出し、次郎左衛門へ差し出した。


「それならいただこう」




 ホウン! ホウン! ホーン!


 遠くで狼の遠吠えが聞えた。夜も更けて、もはや、朝を迎える方が近い。


 頬を切るような風がピュっと駆け抜けた。


「ん?」


「どうされました賀藤殿?」


「獣を喰らった後のような臭いがしました」


「獣を喰らった臭いだと?」


 その時だ、最後方の左近と賀藤次郎左衛門の側にいた郎党が前のめりに倒れた。


 背には、矢が刺さっている。


 ピュン! ピュン! ピュン!!


 雨のように弓が飛んできた。


「敵襲じゃ! 皆の者備えよ!!」


 矢の雨が止むと、「ワーッ!」と、歓声と共に、野武士か盗賊のような一団が襲って来た。


「我らは、北勢四十八家の一人 大木おおき善右衛門、信長めに皆殺しにされた仲間の恨み晴らしに参った一人でも多く道ずれにいたす覚悟致せ!」


 大木善右衛門のはわずか二百人ばかりの小勢だが、皆、狂ったように、南無阿弥陀仏を唱えながら斬っても斬っても向かってくる。死をも恐れぬ死兵だ。



 伝令は、先頭の信長の本営にすぐさま伝わった。


 寝込みを襲われた信長は、飛び起きると、すぐさま馬に乗り近衛隊長の毛利もり良勝とその一隊だけ連れて逃げ出した。


 信長逃亡の情報は、山道の長蛇の列で、陣を展開できない状況にあって、諸将に、混乱を巻き起こした。


 そこに、山肌から、大木たち、北勢四十八家の残党が、諸将の首を狙って、切り込んできた。


 大混乱だ。


「渡辺殿、最後方の敵はこの賀藤次郎左衛門が引き受けた。渡辺殿は、林の殿の元に戻り、織田軍の殿軍を引き受けるようご助言あれ」


「賀藤殿、お主、死ぬ気か?」


「死ぬも何も、このまま、手柄もなく安土へ行けば、我ら林は戦績ナシの汚名をきるだけ、我らも武士の端くれ、殿軍しんがりでも引き受けて林の武威を示さねば面目がたちゆきませぬ。さあ、はよう」


「うむ」



 林通政の元に戻った左近は、通政に賀藤の覚悟をそのまま伝えた。


「渡辺殿、賀藤はそう申されたか?」


 左近は、静かに頷いた。


「わかった覚悟を決めた。ワシが行く!」


「わかりました。私も共に参りましょう」


 左近の申し出に通政は静かに首を振った。


「ならん、勘兵衛殿。お主には、生きて、我らの戦さ働きを殿に申し伝えていただかねばならない」




 夜が明けた。血みどろの武者の亡骸が朝日に照らされ輝いて見える。


 殿軍を引き受けた、林通政と賀藤次郎左衛門は、敵の首を百は上げたという。覚悟を決めた漢の見事な最後だった。


 殿軍の通政が作った時間で、中軍ちゅうぐんの近江勢は態勢を立て直し、奇襲を返り討ちにした。


 公記には、通政と賀藤の最期は見事であったと記されている。





 つづく

このエピソードを執筆した頃ではないのですが、現在、東京リベンジャーズにはまっています。

タイムリープして、悲しい現在を書き換える話。邪悪の権化、東京卍会の面々が、過去では、任侠に基づいたナイスな漢たちばかり。

すっかり、影響され、最新話では、熱いシーンを描いちゃいました。

漢には任侠が大事ですよね。


それでは、本日もありがとうございました。


出来ましたら、ブックマーク、ポイント、感想よろしくお願いします。

感想は、「作者、がんばれ!」「俺は、楽しみにみてるぞ!」「作者、お前は俺の仲間だ!」

折れそな、心を奮い立たせる熱いメッセージまってます。もちろん、匿名でOKです。いつも、ヘロヘロに作者にパワーを下さい。

それでは、また、来週に。 

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