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188 長浜城と秀吉の妻寧々(カケルのターン)

「お虎さん、着きましたぞ」


 山県昌景の娘お虎が、父昌景の密命で、足を挫いたと偽り、三成に足の治療と一夜の宿として連れて来られたのは、のこぎりの音が朝早くから日暮れまでつづく、長浜である。


 長浜は、浅井長政を打ち破った信長が、戦功著しい羽柴秀吉に新たに与えた領地だ。


 長浜はもともとは、今浜と言い、秀吉が、信長の機嫌を取ろうと、「長」の一字を拝領して名付けた。


 この辺りは、浅井長政の居城小谷城の領内にある。秀吉は、はじめ信長から小谷城を拝領した。小谷城は山城で、信長軍の攻城戦で、本丸、二の丸、砦がすべて焼かれ、拝領してもそこを居城とする事は出来ない。


 そこで、秀吉は、北近江の浅井・朝倉、南近江の六角の残党の多い信長の近江治国戦略の一環で、長浜城を新に築城することにした。


 秀吉は、足軽から城主にまで立身出世した人物だ。一から順番に、城主まで出世を遂げたとはいえ、織田家でも例のない程のスピード出世だ。親の代からの家臣もいなければ、領地すらないところからのスタートだ。すべてをここから揃えなければならない。


 先の話で述べたが、秀吉は、親族、縁者、血のつながりが少しでもあれば徴用し家臣にした。


 現在は、領国の美濃垂井で療養休暇中の竹中半兵衛重治を教師に、秀吉の縁者、虎之介、市松、助左、安治、孫六、權平、紀之介、三成を加え、秀吉子飼いの武将に仕立て上げるまで教育をつけている。


 この度の、伊勢長島一向一揆討伐戦には、京都所司代村井貞勝の元で吏僚として育成された三成は、秀吉から、


「三成、お主は、浅野長政とともに長浜城に残って、築城と町の開発の監督を致しておれ」


 と、秀吉の妻寧々の弟、羽柴家の内政一般を取り仕切る浅野長政に付けられ居残りを命じられた。


 確かに、三成は政務に長け、力は弱いから戦には向いていないだろう。


 しかし、三成も共に育てられた、虎之介や市松、その他の仲間たちは皆、秀吉について参陣している。


 まるで、爪弾きされた気分だ。


 三成は不満だった。だから、先日、幼少のころ育った寺の師匠修仁を訪ねて、偶然、山県昌景・お虎に出会ったのだ。



 三成について、長浜の町でも一際大きい木目の真新しい屋敷にお虎がついて行くと、


「これ、佐吉! またあの浮気者に命じられて、女を連れて来たのですか!!」


 と、三成とお虎を見定めるなりしかり飛ばしたのは秀吉の正室寧々だ。


 寧々は、秀吉が足軽時代から、支えた糟糠の妻である。短命な戦国の世にあっては、高齢な部類に入るが、肌も髪もまだ艶がある二十七歳の女だ。


 丸顔で分度器のような扇型の目に、小鼻がスッと通り、口元は可愛らしく小鴨のような形をしている。なんとも気さくで庶民的な気のよさそうな女である。


 この気のよさそうな寧々が、三成を見つけるなり叱りつけるとはどういうことだと、お虎は思った。


 寧々はお虎に向かって、


「これ、どなたかは知らぬが娘さん、家の人にどんな風に口説かれてここへ出向いて来たか知りませんが、悪いことはいいません、あの男は薄情です。子供が産めないとわかるとスグ浮気をします。あなたが、ここに来るまで、毎日のように、家の人に屋敷に来るように命じられた若い娘が何人きたことか、両手では数え切れません。あなたの言い値をあげます。一貫でも二貫でも、十貫だってかまいません好きな額を持って家へ帰って、早く、好いた男と身を固めなさい」


 と、寧々は悋気なのか、心配しなのかわからぬ言葉をお虎に投げかけた。


「あ……いや……そういうことではなくて……」


 お虎は、返事に困って、曖昧な返事をした。


 寧々は目を見開いて、


「まさか、あの種なしの子を腹に宿してるのですか!!」


「いえ、そうじゃなくて、私は、石田様の親切で、父と旅の身の上で、怪我の治療と一夜の宿を仮にこちらへ伺いました」


 それを聞いた寧々はホッと胸を撫でおろして、


「そういうことですか、それなら構いません。私はまた、南殿や京極殿のように、竹生島の木こりやら、草原の鷹匠の娘が、家の人の子供が出来たって申し出て来たんじゃないかと気が気じゃなかったのです」


「はぁ……、それほどまでに、羽柴秀吉殿は女子と浮気を……」


「そうなの、聞いてちょうだい。すべてを話せば三日はかかるわ、ちょうどよかった、あなた名は何というの?」


「お虎でございます」


「わかったわ、お虎さん。お父上をここに連れてきていいから、三日でも、一週間でも、一か月だってかまわない。私の話を聞いてちょうだい」


 あべこべだ。寧々は、秀吉の浮気の不満を誰かに聞いて欲しくて仕方ないのだ。旅の身の上のお虎は、話を話半分に聞くだろうし、宿に困っているという。愚痴を聞かせるのにうってつけだ。


「三成、すぐに、もう一度戻って、お虎さんの父上をお連れなさい」


「しかし、あの者は、どのような本性を隠しておるかわからぬのですぞ」


「構いません。責任は私がすべてとります。それより、私はこのお虎に話を聞いて欲しいのです。ささ、お虎さん、お腹も空いている事でしょう。すぐに夕食の支度をしますからね。じき、父上も来ます。それまで、安心して、私の話を聞いてください」


 長い夜になりそうだ、お虎は、寧々に手を引かれて、屋敷に案内される足が重かった。




 つづく







どうも、こんばんは、星川です。

秀吉の糟糠の妻寧々さん、私、好きなんです。

秀吉の立身出世の裏には、この寧々さんが、秀吉を気持ちよくお役目一心に働ける環境を作り支えていたのではないかと思います。

いくら優秀な男だって、たった一人の能力なんてたかが知れています。ほら、よく付き合っている女性の性格一つで、転落していく男性いるじゃないですか。

秀吉の立身出世を支えたのは、寧々さんの存在が大きかったように思います。


現在、春から夏にかけて公募用の原稿が書けたので、今月から、新たに、三国志を舞台の小説を執筆を始めました。その中で、秀吉と寧々さんじゃありませんが、良妻の支えを大事にしようと思います。

やはり、出来る漢には出来る妻の存在は欠かせないと思いますので。


それでは、皆様、ブックマーク、ポイント評価、感想よろしくお願いします。


ほんと、励みになるんですよ。歴史もの好きなお友達がいらっしゃったら、拙作を進めススメていただけると幸いです。



と、いいつつ、いつまでも独身の星川は悠久の川の流れに消えて行く――。


ありがとうございます。


それでは、また、来週。



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