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185裏切りと勇気の武士道(左近のターン)

 月明かりに”まんじ”の旗がボンヤリと浮かんだ。


「あれは、一向宗の幟旗のぼりばただ、みんな、気を付けろ!!」


 ドスン! 


 次の瞬間、船を横かから巨大な力がかかったように大きく揺れた。


 と同時に、船の縁に鍵縄がガシッと食らいつき、キラリ! 口に真一文字に刀を咥えた黄巾の額を卍をあしらった男が乗り込んできた。


「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」


 男は、狂ったように経文を繰り返して、縁にいた林通政を襲い掛かって来た。


「本願寺の夜襲じゃ!!」


 通政は、驚きのあまり腰砕けに尻もちをついた。本願寺の男は、すかさず通政に馬乗りになり、口の刀をそのまま、首の頸動脈を狙って力任せに押し付けた。


「ヒィィィィィ―――――!!」


「お前を殺してワシも極楽浄土へ行くんじゃ、南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……」


 もはや男は狂っている。いくら戦仇の憎い織田信長の兵を相手にしているとはいえ、人の命を奪うことにまったく躊躇がない。人殺しに罪悪感の欠片もない。まるで鶏や豚を殺して食う時の無感情さだ。むしろ、織田の兵を殺せば、男の本願が果たされ、昇天するほどの喜びに打ち震える勢いだ。


「くううう!」


 ふだん筆ばかり握って筆より重い者は持って来なかった力の弱い通政は、出せる限りの力を両の腕に込め、男の強引な切っ先を、必死で頭を突き離そうと抵抗する。


 この時ばかりは通政も、毎日、庭で剣術の稽古をしていた柴田権六勝家のような猪武者を「馬鹿はああするよりないわな」と鼻でせせら笑っていた自分の愚かさを心底後悔した。


(南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、お釈迦様! ワシはここを生きて潜り抜けさえすれば、あんたを信じて、二度とこんなことがないよう毎日剣術の稽古をすると誓う!! 助けてくれ!!!)


 通政を襲った男の切っ先が、首筋に突き刺ささり、ツゥー! と熱い血の糸が首筋をたどったかと思い。「もはやこれまでか……」と通政は目を閉じて観念しようとした。


 ドサリ!


 本願寺の男が、通政に力なく覆いかぶさった。


「はうふ!」


 通政は多少首から血を流しはしたが生きている。眼を見開いてみたその先には、


「無事でござるか通政殿」


 隙を見て、男を斬った渡辺勘兵衛こと現代の高校生時生カケルの肉体と魂が入れ替わった嶋左近が、船に乗り込んできた、次の本願寺の男たちと刃をまじえながら、こちらを振り向いて通政の無事をたしかめた。


「助かり申した渡辺殿、かたじけない!」


「通政殿、ご無事なら、展望に上がって、敵の全貌を確認下され、ワシはなにやら此度の奇襲、誰ぞ手引きした者があると睨んでおるゆへな」


「真か! 渡辺殿!!」


「真にござる。おそらくそ奴は、本願寺の兵を引き入れているところ。さあ、某が活路を切り  開くゆへ、通政殿、早う展望に上って手引きした者の目星をつけて下され!」


 そういうと左近は、対峙する男を膂力で押し飛ばし、通政が走る展望台への活路を開いた。


 


「今夜の本願寺の夜襲を手引きしたのは、鯱三、お前だったのか」


 瑞希は、船の縁に鍵縄のかかったのを外しもせず、かえって、船にとりつきやすいように縄を手繰って引き寄せ、乗り込んできた本願寺の男から卍の黄巾を受け取った鯱三を見とがめた。


「なんだ瑞希、せっかく殺しちまう前に、俺の女にしちまおうと思ってたのに、いまだにお死んだ蒼次に操を立てて、俺を突っぱねるから、他の奴らと一緒に殺しちまうことになったじゃねぇか」


 と、鯱三は、本願寺の男から渡された卍の黄巾を頭に巻いた。


「鯱三、お前、仲間を裏切るような男になり下がっちまったのかい!」


「うるせいな瑞希、世の中金がすべてなんだよ。蒼次のように、義理や人情だと銭にもならねえ世間の義理を果たそうとするから、俺たちをおいてお死ぬんだ。まったく、あいつは馬鹿丸出しだ。そうだ、瑞希、蒼次を忘れて、身も心も俺の女になるってんなら、ほれ! これをくれてやる」


 と、鯱三は卍の黄巾を瑞希の足元に投げだした。


 瑞希は、とてもそんな馬鹿な話は受け入れられないと首を振り、ペッ! と、黄巾に唾を吐きかけた。


 それを見た本願寺の男が、許せぬ!


「女を殺せ、女を殺せ、南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏」


 と、瑞希に襲い掛かって来た。


「瑞希、おめぇも蒼次と一緒のどうしようもない馬鹿だ。まったく救いようがない。しかたねぇ、本願寺の旦那方、もったいねぇが女も一緒に殺しちまってくれ、俺は女より金を取るよ。あばよ瑞希!」


 と、鯱三は、瑞希を見捨てて、軍資金を詰め込んだ船室に向かて行った。


「南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……」


 命を惜しまない、三人の本願寺の男たちに、囲まれた瑞希は万事休す逃げ出るすべはない。


 


「ややッ! あれは瑞希ではないか!!」


 左近に言われた通りに展望台に上がって、目を凝らして船上の状況を把握に務める林通政が見とがめた。


(ワシが行っても瑞希の足手まといにしかならぬやもしれないが、瑞希はワシの命の恩人。ここで見捨てたとあっては、ワシはこれから先の武士道が成り立たぬ。通政行け! 勇気を出して瑞希を助けにいくんじゃ!!)


 と、スルスルと、展望台を降りて、本願寺の男たちに囲まれた瑞希の元へ駆けつけた。


 


 


 


 つづく

どうも、こんばんは、星川です。


先週の「183好色一代男 羽柴秀吉」の回が、599PVを記録致しました。バンザイ、バンザイ、バンザイ!


旧題「疾風怒濤~嶋左近の~」連載開始が、遡ること、四年前の2018年4月1日、現在が、2021年8月21日で、まる四年とちょっとですかね?(最近、計算することがなくて、算数が怪しい……)

これまでのPVの最高値は、前々回を除いたら、2020年5月24日の589PVでございました。

それが、前々回の2021年8月8日592PVと記録を更新させていただきまして、さらには、前回、2021年8月15日599PV新記録であります。

めっちゃ、うれしいです。にやにやしちゃいます。現在、土曜の10時に喫茶店でパソコンを拡げ先のストック原稿書き上げたところなんですけれど、パソコンのブルーライトの照り返しで、怪しい光を帯びたメガネが光って、ニタリと。


みなさま、ホンマにありがとうございます。マジで、底辺作家にとって、PVの上昇、ブックマーク、評価でポイントが増えて行くのは、モチベーションになるんです。

ありがとうございます。

これからも、精進に務めて、連載を継続致したいと思っております。

引き続き、ブックマーク、ポイント評価、感想(あの武将をもっと出してほしい、この武将面白い人物なんで登場させられませんか)などあれば、感想にお願いします。

拙作は、心身転生の態を取っておりますので、たぶん、登場可能だと思います。

あれです、作者も、面白い人物常に探しているんですが、勉強不足で、まだまだです。

みなさま、教えて下さいね。


それでは、また、来週に。

おやすみなさい☆

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