184好色一大男、羽柴秀吉(カケルのターン)
秀吉は、急にモジモジして、上目遣いにハートマークのクリッとしたつぶらな瞳でお虎を見つめて、
「父御の前でなんじゃがの、ワシ、ワシはお虎ちゃん、おみゃ~に心を奪われちゃたでよ~」
と、妙に甘えた声で尋ねた。
「なんですと!」
お虎は、あまりの秀吉の好色にびっくりして声にならない。
すると秀吉は、山県昌景を見つめて、
「のう、父御、旅がおわったら、ワシの城へお虎ちゃんをくれんかのう。一生大切にするでよう~」
と、先頭の秀吉が行軍を止め、お虎に現を抜かしていると、スルスルと、二匹の騎馬武者が駒を進めて来た。
「行軍が止まったと思って見に来てみれば、なんじゃ兄者、また、女か」
お調子者の秀吉に姿かたちがよく似た、性格は正反対で誠実の塊のような男である。名を、羽柴秀長、秀吉の弟である。
「おう、秀吉、また女か。お主、この行軍だけで、何人の女に声をかけたのじゃ、ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……その娘で五人目。一気に、五人の女を側室に入れたでは、奥方の寧々様に、ワシらどんな顔して会えばいいんじゃ」
「なんじゃ、小六。おみゃ~、ワシが、城持ちになって女にもてるようになって焼いておるのか?」
「馬鹿者! なにが焼いておるかじゃ、ワシはお前の好色がすぎるから、健気にお前の出陣を神社へお百度参りまでして、お前の戦の無事の帰還を願った寧々様の気持ちを思うと不憫でならんのよ」
「アホいやぁ、小六。寧々はもちろん大事。そして、出会った娘たちも大事。だってよ~、考えてもみろ小六。ワシは、これから城持ちじゃ、だから家臣もたくさん雇わにゃならん。これからは小一郎(秀長のこと)や、小六のような気心の知れた家臣ばかりじゃなくなるんじゃ。ワシも、も~ちっと、子作りに励んで身内をふやさにゃあかんでの~」
「兄者、義姉上もまだ若こうございます。こんなに側室を増やされては姉上も気分を害されましょう」
「なんじゃ、小一郎おみゃ~まで、寧々の肩をもって、寧々の野郎はよ器量がよいが、義弟の勘定方の浅野長政と一緒になって、ケチ臭く、ワシのこずかいを絞りおるでよぉ~、こういう時に羽根を伸ばして子作りに励もうと思ったのよ」
「兄上、いくらなんでも、一気に五人は羽根を伸ばしすぎです、それに、姉上と義弟の長政が、兄上の小遣いを渋るのは、城持ちになってから兄上は、堺の今井宗久を急に呼びつけたかと思ったら蔵にある銭を空にするほど茶碗を買い込んでしまうからです」
「アホいえ小一郎、お前にゃ~茶器の価値がわからんのか」
「秀吉、この戦つづきのご時世にあんな戦の役にも立たない茶碗などに、大金をつぎ込んで、そんなことに銭を使うくらいなら、鉄砲の一丁でも手に入れた方が大事ではないか」
「あちゃ~、小六もわかりゃせんのか、ワシが堺の今井宗久から茶器を買い付けたは、何も、あの茶碗で飯を食おうと思ってのことではないぞ」
小六は、キョトンと狐に抓まれたような顔をして、
「なんだ違うのか」
「これだから、河並衆はいかんのじゃ」
すると、秀長が、小六と同じ顔して、
「ワシも、兄者は、あれで飯を食うと思っておったぞ」
「あちゃ~」秀吉は、チンパンジーのような長い手で顔を覆って、
「あの茶碗はな、これから、ワシが堺の商人、今井宗久と直接取引をする証の茶碗じゃ」
「なんじゃ、兄者、堺の商人は証文じゃなくて茶碗で盟約を結ぶのか?」
「馬鹿もん! よく聞け小一郎、これから織田家はますます国を広げて、銭はいくらでも手に入るようになる。ワシも今は城代の身分じゃが、上手くいけば大殿に引き立てられ、国持にしてもらえるかもしれん、ボヤボヤしてたらあっという間に国持に成っとるやも知れんて、その時になって、堺と取引してたんじゃ遅いでよ~、だから今から、はじめとんじゃ」
「兄者は、先に先にが口癖の早漏だがね、いっつも我慢が利かず先走りが悪いクセじゃ。それじゃ寧々様も子が出来んがね」
小六が、秀長の言葉にウンウン頷いて、
「そうじゃ、男は、こう、もそっと丹田に力を込めてだのう、ズンズンズズンと突き上げて果てるのじゃ、それが、秀吉、お前は、ズンズンピュピュピュじゃからのうワハハハハ~」
「馬鹿いうな小六よ。森の獣を見ろ、優れたオスはどんなオスでもメスをはべらかして、ズンズンピュピュピュと短い交尾を何匹とのメスと重ねるのが良いオスじゃ。おめぇ~や、小一郎のように、一匹のメスに入れあげてるようじゃ群れの主にはなれまいて」
「なんじゃ兄者は、ワシらをただの猿みたいにいいよるのう」
「ワシも、小一郎も元をただせばただの農村の猿じゃ。たくさんのメスと交尾をして子孫を残さにゃ、群れはおおきくならにゃ~でよぉ」
「ゴッホん!」
若い娘のお虎の前で明け透けに猿に例えてはいるが猿の交尾を大声で議論する秀吉に、さすがに山県昌景も釘を刺した。
「すまんすまん、弟と用心棒がごちゃごちゃぬかすで、おめぇ~さんたちを忘れておったでよ~。まあ、あれじゃ、ワシの家はこのように片意地を張らんで暮らせる開放的な家風じゃから、父御よ、娘御のお虎ちゃんを嫁に下され」
そういうと、秀吉は、山県昌景の手を取って、その手に額をこすりつけて、
「頼む、頼む、この通りだでよ~」
すると、山県昌景は、キッパリと、
「誤解されておるようだが、お虎は男にござる」
と、一言告げた。
「なんだ男であったのか、一目見て美しい目鼻立ちじゃし、ふわんと女の匂いがしたでよ~、ワシャてっきり女だと思い込んで居ったぞ。すまん、ワシャ衆道には興味ねぇ〜でよ。女が観音さんじゃから、女が好きなのだ。お虎が男であっては、すまんが、この話はナシじゃ」
と、手のひらを返したようにあっさりと、踵を返して、行軍に戻った。
残った、秀長がと小六が、
「すまんの兄者はいつもああなのじゃ、まったく、裏表のない男じゃから、悪気はないから、これで許してくれ」
と、秀長はお虎に小判を掴ませた。
つづく
どうも、こんばんは、星川です。
秀吉さん、まったく、好色ですね。
不思議と作者も筆がのってお下品な下ネタを、、、。
あくまで、私の想像ですが、羽柴秀吉はこれくらいあけすけな人物であって欲しいです。
神経質な信長さんに仕えてるんです。確かに、細やかな人だとは思うのですが、居心地よい家風であったかと、、、想像ですが。
今夜もありがとうございました。
先週は、応援下さる皆様のお力で、日間PV新記録を達成させていただきました。
作者、がんばります。
皆さんの応援があるからがんばれる!
それでは、また、来週に<(_ _)>〈 ゴン!〕