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172山県昌景と竹中半兵衛の話は長い(カケルのターン)

 山県昌景は、海鮮問屋の御隠居政吉として、半兵衛の居間へ上がった。


 昌景は「竹中半兵衛重治なる者信用できる!」と、自分の聞き及んだ武田家山県昌景の武勇伝として話して聞かせた。半兵衛は半兵衛で、自分の知りうる兵書から学んだ軍学を、昌景の理にかなった武勇伝に辿って深く頷いた。


 話が頭の遥か上空で行ったり来たりするものだから、嶋左近と魂の入れ替わった現代の高校生、時生カケルは、なんだか生理現象が迫ってモゾモゾしてきた。隣に、座るお虎に、コッソリと耳打ちし、


「(忍んだ声で)ねえねえ、お虎さん。オイラお腹が痛くなってきたんだけど……」


「せっかく父上と、今孔明と呼ばれる竹中半兵衛の話が聞けるのだ。こんな機会二度とないぞ、一時

(いっとき)ほど辛抱致せ!」


一時(いっとき)!! たしか、この時代は半時が一時間だから、二時間も辛抱しないといけないの~む~り~」


 それでも、カケルは我慢した。


 話は昌景の話から半兵衛の話に移った。斎藤義興家臣時代の稲葉山城乗っ取りの話に、始まり、対朝倉の姉川の戦い。戦軍学、六韜りくとう三略さんりゃくに及ぶ。


 カケルは、じーっと我慢の子。一時間我慢した。一時間の我慢ならば学校の授業中、クラスメートの目を気にして手洗いへ立てないことなど、色気づいた年頃の学生年代にはざらにある。ここにきて、ようやく昌景と半兵衛の軍学話の終わりが見えた。


 カケルは話の切れ目にすかさず手洗いに立とうとした。


 すると、まさかの半兵衛が、


「左近殿、立ち上がってどこへ行くのじゃ? 話はこれから戦軍略から、内政、国造りに及ぼうというのだ。席を立つのはまだ早い。しかと、ここに座るのだ」


 と、向かい合う昌景と半兵衛の間に車座になり左近の席が用意された。

(ええ~っ、オレ、もう、お腹ヤバイよ~!)


 カケルは、右手でお尻を、左手で下っ腹を押さえて、そ~っと、そ~っと、うっかり漏らさぬように、キュッと尻に力を入れて胡坐あぐらではなく正座した。


「政吉殿は、よく、軍略をご存じだが、国造りの要点を教わりたい」


 と、半兵衛が、昌景に尋ねた。


「わたしは、商人ゆへ、国造りの知識には疎うござるがよろしいか?」


「構いませぬ、年長の政吉殿の国造りの要諦をご教授下され」


 と、ムチャぶりおじさん山県昌景と究極礼節マシーン半兵衛の丁寧なやりとり。


 カケルは、しくじったと思った。便秘の時、水分を十分とり、洋式便座に前かがみになり、肘を膝につけ、”考える人”の姿勢で、かかとを浮かせてバレリーナのように爪先を立てた姿勢をとると、大腸から直腸、肛門までの導線がスッキリと整う。これは、洋式便座のない戦国でも理屈は同じで、和式便器に跨る姿勢は、まさに、理屈通りの最適解である。


 カケルは、先ほど出された茶をガブガブと、張り裂けそうな下っ腹から意識を逸らそうとお茶を三杯飲んだ。そして、正座を思い出して欲しい。そう、カケルは下っ腹を圧迫している。これは、腹の中のすべての物を一直線に吐き出す姿勢だ。もう、オッサンたちの長話に付き合ってる余裕はない。急いで、便所へ駆け出して、スッキリしなければ!! と、尻を押さえて立ち上がった。


 すると半兵衛が切れ長の涼しい顔で、


「急に立ち上がってどこへ行くのだ?」


「もう、我慢の限界。かわやでございます」


 現代人なら、生理現象は仕方ないものと、よっぽどの変人でもなければ許すだろう。しかし、半兵衛は、変人の方だった。


「たとえ小便、大便をたれ流そうとも、軍談の席を立ってはならない。左近お主も、この賢明な政吉殿に仕えておれば、これから人を差配する一角の人物になるであろう。そのような人物が軍談に聞き入って座敷を汚したと言われれば、お主が他に類を見ない人物であったと逸話になり後々の面目であろう」


 と、半兵衛は独特の天才的視点で、分かったような分らぬような、妙な説得力のある言葉で制した。


 それを聞いた山県昌景はニタリとなにか閃いたように口元を緩ませ、


「そうじゃ、左近、イイことを思いついた。せっかく、今孔明と呼ばれる軍師殿、竹中半兵衛殿の話を直接聞けるのじゃ。どうじゃ、この機会に、半兵衛殿から領国経営の要諦をご教授願ってはどうじゃ?」


 すかさずお虎が、


「父上、それでは我らの旅の日程が延びまするぞ」


「お虎よ、その心配には及ばぬ、ワシは明日、左近を半兵衛殿にあずけて先に旅に立つ。時期に、はぐれた大膳も追いつくであろう。左近、後で、どこぞで馬など借りて、ワシを追って参れ」


 カケルは、我慢の限界余裕がない。二つ返事で、


「はい、そう致します。お願いだから厠へ行かせてください」


 すると、山県昌景は、「しめた!」と、話を半兵衛に向けた。


「どうだろう半兵衛殿。三日で構わんのだ。この左近に、半兵衛殿の領国経営をご伝授願えないであろうか?」


 半兵衛は、涼しい顔で茶をすすり、


「ご隠居様からは、わたしも十二分にご教授いただきましたゆへ、この竹中半兵衛重治の脳裏に詰まった知恵を左近殿へ伝授いたしましょう」


「よし、決まった。左近よよいな、半兵衛殿にしっかりと学ぶのだぞ」


 カケルはもう尻の辺りが今にも吹き出しそうだ。


「うん、うん、わかったから、厠へ行かせて」


 すると、半兵衛が、


「左近殿、領国経営の心得の話が、後半時ほどかかる。それが、終われば厠へ行ってよいぞ」


 と、冷酷非情な一言を付け加えた。


 それを聞いたカケルは……つづきはもはや語るまい。




 つづく

こんにちは星川です。

この間、紙の本の賞へ出す作品書いてるとはお伝えしました。

資料集め、先行作品の研究は2/22から、ハコと執筆は3/22日から始めたので、現在、6/6。

およそ、3ヶ月。。。まだ、上がりません。

全編で、原稿用紙350〜500枚を狙ってます。現状75% 300枚ぐらい。最終は400枚当たりかと。

シンギュラリティは、転生しましたが、こちらは、転生なし。

手前味噌ですが、シンギュラリティより確実に面白く仕上がりそうです。


その間、こちらの執筆はお休みしてるのですが、ストックありますからね、連載、飛ばしませんよ!

(たまに、更新し忘れるけど(ˊᗜˋ))


感想や、ポイント、ブックマークいただけたら、作者はニタニタします。

歴史好きのお友達に拙作を布教いただけるともっと喜びます。


「歴史オタクの心身転生シンギュラリティ」もエンドマークまでつづきますから、どうか、皆様、応援宜しくお願いします。



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