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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
一章 疾風! 西上作戦開始!
17/398

17女城主おつやの方の陥落と、大千鳥十文字槍(戦国、カケルのターン)チェック済み

 戦国武将の嶋左近と魂が入れ替わった高校生、時生カケルは、武田信玄の家来、山県昌景に仕官して、対立する織田信長の城、岐阜の岩村城の攻略命令をうけ、女城主おつやの方の籠絡(ろうらく)のために潜入した。


 先に潜入していた武田忍(たけだしのび)透波者(すっぱもの)の加藤段蔵の手引きで、カケルはおつやの方の寝所へ忍び込み、強引にその戦国を生きる女の悲しい心の内を聞き出すのに成功し信用を掴んだ――。




 おつやの方は、カケルに三度の結婚と、愛した青山与一との悲しい別れを語り終えると、宙をあおいで頬を伝う涙を見せまいとこらえた。


 カケルは、気丈に振る舞うおつやの方を静かに、ぎゅっと、ぎゅっと、抱きしめた。


 おつやの方の泪が溢れカケルの肩口へポツリと落ちた。


「助平よ、ワラワはもう人生を信長に翻弄(ほんろう)されるのは嫌じゃ。いっそ武田へでも下って、ワラワの心を踏みにじった信長に一矢(いっし)報いたい」


「おつやの方様、実はわたしは、武田からおつやの方様を織田家から寝返らせるよう密命をおびた間者(かんじゃ)でございます。実の名は、五平の孫で助平ではなく名を嶋左近と申します」


「やはりな、一目見た時から怪しいと思っておった」


 カケルは、居ずまいを正して(ふところ)から手紙を取り出しおつやの方へ渡して平伏した。


「左近よこれはなんじゃ? 」


 カケルは真っ直ぐな熱い視線をおつやの方へ向けて、


「岩村城攻略の副将、秋山繁虎からの密書でございます」


 おつやの方は、カケルから密書を受けとると、さっと広げて女城主の厳しい目を通した。始めは、いかほどの条件が書かれているのか、厳しい顔をしていたおつやの方の顔がしだいに口許に笑みを浮かべたかにみえた。


「おもしろい! 秋山繁虎とやらの話にワラワは乗った!! 」


 密書を読み上げたおつやの方は二つ返事で喝采した。


「左近とやらこれでお主の不埒(ふらち)なはたらきの合点(がてん)がついた。ワラワは左近! お主を信じる。この岩村城ごと武田へ寝返る。スグに手配致せ! 」


 密書をカケルへ掴ませたかと思うと、さっさと寝所を出て行った。


 残されたカケルは、狐にでもつままれたかのような面持ちで、密書を開いて読んで見た。



「拝啓、おつやの方様。はじめまして私は武田信玄が家臣、秋山繁虎と申します。今は運命に翻弄されて敵味方の身の上ではありますが、私はおつやの方様をよく存じ上げております。

 私は今でこそ武田家家臣、秋山繁虎として在りますが、過っては織田家の(ろく)にあずかっていたこともあります。私は昔から変わらずおつやの方様をお慕い申しております。今回、私は、おつやの方様を妻にと望んで居り申す。ここでは詳しく申せませんが最後に一言だけ、おつやの方様、貴女の庭には今も真っ白なヤマボウシは咲いて居りますか? 変わらぬ愛を込めて―― 与一」




 直ぐ様、カケルは岩村城を抜け出して夜を駆けた。


 空が白んで朝日が昇る頃には武田の陣中へついて大将の山県昌景、副将の秋山繁虎へ面会し、岩村の首尾を伝えた。


 報告をうけた山県昌景は、まるで秋山繁虎の積年の悲願がようやく達成されたかのように肩をたたき酒を酌み交わした。


「秋山殿、ようやくお主の悲願が……」


 盃をうけた秋山は、鼻をすすり上げ、


「あきらめずにいて良かった」


 と、グッと盃を飲み干した。秋山は、その盃をカケルへ向けた。


「左近、ようやってくれた。お主も飲め! 」


 カケルは、並々と注がれた酒をグッと飲み干した。


 それを見定めた山県昌景が評定へふれを出すように決然と、


「秋山繁虎! 」


「はっ! 」


「お主はこれから岩村城へ入り寝返った城主、おつやの方に成り代わり城主として織田信長を牽制(けんせい)せよ! 次に、嶋左近! 」


「はっ!」


「お主は、我が山県隊の先方の赤備え騎馬隊の侍大将として兵の調練に努めよ。我が山県隊と三河徳川家康との決戦はスグそこじゃ、者共、一瞬足りとも気を抜くな! 」



 ――翌日。


 山県昌景を大将とする三河攻略軍は、信濃路から下って進路をとり三河へ入った。


 先頭に漆黒の巨馬霧風へ(また)がる五尺(一九〇センチメートル )の大男、嶋左近こと時生カケル。愛馬霧風の(たてがみ)を風になびかせ山県隊の代名詞、赤備えの揃いの甲冑を着て颯爽と先頭を行く。


「ちと待て左近よ! 」


 小さなロバのような小馬に跨がった大将の山県昌景が、カケルのそばへツカツカと乗りつけた。


 カケルを呼び止めると山県昌景は、従う家来へ合図を送った。


「左近よ、そなたはこの度の戦が初陣であったな、されば左近よ。そなたは我が武田の赤備えの先方として戦働きをするようこれを授けよう。槍を持て参れ! 」


 山県昌景の命令でカケルへ授けられた槍は、穂先が羽を広げた大千鳥の十文字槍であった。柄は朱色に染められた名のある武将にだけ授けられた皆朱槍であった。


「左近よ、お主は武田の赤備え山県隊の先方の名に恥じぬよう戦場を駆けよ。よいな! 」


 山県昌景は、カケルを炎のような目で見つめた。


 カケルは、


「我、嶋左近、真っ先に敵陣目掛けて駆け抜けて敵将、徳川家康の首切り落として見せ申す! 」




 つづく





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